「おいこら起きろ」
「……まだ眠いねん」
「腹減ったぞこのやろー」
 スペインは夢心地のまま顔の上にシーツを引き上げた。
「せっかく俺が帰ってきてやったってのに」
 ロマーノの呟きは、顔を覆い光と声を遮断しているスペインには届かない。とっておきの起こし技を使おうとベッドに上ったロマーノは、引き上げられたせいでぴんと張ったシーツが持ち上がっている箇所を見て、いたずら心を起こした。盛り上がりに足を載せ、足裏に感じる形のどこを踏むのが一番効率がいいかを錯誤する。
「早く起きないと潰すぞ」
「いぁ、ロマそこは」
「なんだよ」
 ちっとも痛そうでないスペインの声が不服だったらしく、ロマーノは直に踏みつけてやるとシーツの中に足を突っ込んだ。
「あかんて!」
「うるせーな」
 スペインは顔を出して制止したが、ロマーノの蹴り上げたシーツに再び覆われた。ロマーノは起き上がろうとした腰の動きに合わせて、ズボンのウエストに手をかけ引き下ろし、勢いよく飛び出した陰茎を膝で押し潰した。
「いぎゃっ」
「腹減ってんだよ」
「起きるっ、起きるから!」
「よし」
 くぐもった声で答えたスペインが助かったと思う暇もなく、空気に晒された肉棒はまた足の下敷きとなった。幹を撫でるロマーノの足を包む靴下が湿っぽく感じるのは、靴の中で蒸れていたからなのか、もう先走りが出ているからなのか、どちらなのか判らない。
「ロマーノええ子やから、な?」
「そうだな。悪いのは起きないお前だ」
 いくら子供だからといって、全体重をかけられてはただでは済まない。三度顔を出したスペインは情けない声で頼みこんだが、ロマーノの返事は取りつく島もない。むしろ自分の優位を確信して一層笑みを深めた。
「まさか気持ちいいとか言うんじゃねーよな?」
「……朝やし、男やねんから刺激されたら勃つに決まってるやんか」
「へぇー」
 ロマーノは溢れてきた透明な汁を根元から先端へ拭った。
「男で、年下で、使用人の俺にチンポ踏まれて、先汁垂れ流すのが男だってのか」
 亀頭を握るようにきゅっと指先を丸めた。靴下に吸い込まれた我慢汁が白い生地に染み広がる様から目が離せないでいるスペインを見下ろしながら、ロマーノは鈴口に押し込むように爪先を立てた。
「う…ああっ」
「なーあ、この穴から出てくるのは何なんだろうなあ?」
「ッ、ロマ、ほんまにもうやめたって」
「こうやって踏みつけても」
 ロマーノはぐっと体重をかけて、血管の浮いた竿をスペインの腹にへ押しつけた。無視しようもないほど脈打っている肉竿にスペインは唇を噛み締める。
「……萎えもせずに足を押し上げてくる。これも、男だと当たり前なのか?」
 スペインが拒否するように首を振ると、ロマーノは急に冷めた顔をして、体重をかけるのやめた。スペインの体から足を離して膝を曲げ、先走りが染みた右足の靴下を見せつけるようにゆっくり抜き取った。白い靴下に隠されていた、すっと伸びた足指が露わになる。
 その足は、真下に降ろされマットを踏んだ。
「え…」
 思わずスペインが漏らした声に、ロマーノは我が意を得たりとばかりに目を眇めた。その場に膝をついて、居心地悪そうに目を泳がせたスペインの顔を窺った。
「何を期待したんだ?」
「ちゃ、ちゃうねん!」
「変態親分♪」
 ロマーノはゆっくりと唇を動かし、じっとりと湿った靴下をゆらゆらと揺らした。操られたように手元を注視するスペインを意識しながら、屹立した陰茎にそれを履かせる。スペインがはっと息を飲んだ。
 ゆったりとした動作で腰を下ろしたロマーノはスペインの脚の付け根を裸足の爪先でつっと撫でた。びくんと下肢を震わせたスペインに片頬歪めた笑いを送って、左足で被せられた靴下の下に連なる玉袋をつつき、靴下の口から爪先を侵入させた。
「ぉあ…っ」
「俺は靴下を脱いで、何をすると思った?」
 まるでリズムを取っているかのように交互に足を動かして、靴下の生地で陰茎を摩擦した。びりびりと弱い電流のような快感が駆け上ってくる。
「……直に…」
「直に?」
  にやにやと笑いながら喉奥から搾り出された声を復唱する。ロマーノは濡れて肉の色が透けている靴下を裸足の指で摘まんで、ずるずるとカリ首まで引き揚げた。ロマーノは指の間に肉棒を挟み込もうとしたが叶わず、肉幹を摘まもうとしては逃がしを繰り返した。
「足がつりそうだ」
 軽く蹴って鼻で笑い、顎をしゃくって続きを促す。
「…踏んで、ぎゅって」
「そうされるのが一番好きなのか?」
 スペインが口許を震わせたのを肯定ととらえて、ロマーノは両足裏の柔らかい部分で挟み、ぎゅむぎゅむと揉んだ。腹側に回した左足の甲に、脈動する肉の柱を踏み倒して押しつけさらに踏む。親指の先で裏筋をじりじりと擦り上げた。
「く…もぅ出るっ」
「俺の靴下、好きなだけ汚せよ」
 靴下を被ったままの粘膜部を、土踏まずでくりくりと撫で回す。愉悦を湛えた眼差しに煽られて、これ以上ないほど膨らんだペニスがびくんと震えた。

 放った精液を受け止めた靴下が重たい。スペインが胸から息を抜く傍らで、ロマーノがベッドから降りようと体を反転させた。目の前に晒された柔らかそうな膝裏から上は、ズボンの中に隠れている。
 そこまで見て、スペインはロマーノがよそ行きの格好をしていることに気付いた。
「ロマーノどっか行ってたん?」
「……三日前に里帰りするって出ただろうが」
「ああそうか。あれ、でも今は朝やで? まだ暗いうちに出たんとちゃう?」
 そのとおりだったらしく、振り返ったロマーノの頬がひくりと引きつる。
「なーんや、親分にはよ会いたかったんかー。せやのに寝てたから拗ねてんなあ」
 先までとは打って変わって親分風を吹かせながら、ベッドの縁にいたロマーノをぐいと引いて頭をかいぐり撫でた。くるんとなった髪をついと引いた。
「ちぎっ」
「でもおいたが過ぎるのんはいただけんなー」
 本能的に身を固くしたロマーノを安心させてやろうと、スペインは目を合わせて微笑みかけた。腰に回していた手をするりと前に持っていき、ズボンの留金に手を掛けた。
「な、何すんだこのやろー!」
「俺かてそう言いたかったわ。気持ちええのんはええのやけどな」
 スペインは苦笑いした。ロマーノの柔らかな性器を掌に押し当て、指の腹でばらばらに擦り、薄い皮に包まれた先端に親指で円を描いた。手の中で小魚が跳ねるのに似た小さな反応を阻害しないよう、やんわりと包み込む。
「やめろ! 放せ! ちくしょう変態め!!」
「耳元で大声出さんといてな」
 空いた左手で、自身の陰茎に被さっていた靴下を抜き取る。手で丸めるとじゅくじゅくと鳴る靴下を、喚くロマーノの口に詰め込んだ。
「ん〜ッ!」
 見開かれた瞳がみるみるうちに涙でいっぱいになった。逃げようとした腰を押さえると、悔しげに睨みつけられた。南イタリアからスペインまでの道のりを履いた上に、先走り汁だのザーメンだのが染み込んでいる靴下は、美食家のロマーノでなくとも耐えられないだろうと、スペインは真面目に分析した。
「静かにしとってな?」
 震えているのにロマーノは反抗的な目つきを止めない。宥めるように背を抱き寄せながらも手を動かし続けると、面白いように頭が振られた。
「ぅ…んじゅ……!」
 スペインの体が邪魔しているせいで手を口元に持って行けないロマーノは、何とかして口の中の物を吐き出そうと行儀の悪い音を立てた。拳を作ってスペインを遠慮なく叩いてくるが、痛くはない。スペインは多少のおしおきは必要だとそれを無視した。
 性器を人差指と中指で挟んで、指の間の薄い皮で撫でるように扱くと、さっきまで調子よく動いていた足の指がぎゅっと強張った。ロマーノの呻きに鼻から抜けるような声が交じりだす。吐いているのか啜っているのか、水音が大きくなった。
 そろそろ頃合いかとロマーノの顔を見ようした時、ごくん、と喉が鳴った。
「……飲んでしもたん?」
 呆けているロマーノの口から靴下を引き出す。当初の液体に唾液が混じって、もはや一目見ただけでは靴下だと分からない姿になっている。
「……えぅ…」
「こんなんおいしないやろ」
 スペインは靴下を床に投げ捨てた。べしゃりという音がして飛沫が散った。
「ロマーノ大丈夫か?」
 射精した直後かと思いきや手は汚れていない。虚ろな目で涙と涎を垂れ流しているロマーノの頬をスペインは撫でた。びくんと震えて焦点が合った眼に安堵する。
「…めん……ぃ」
「どしたん? 聞こえへんで」
「ごめっ…なさ…」
「俺は謝れなんて言ってへんよ。怒ってもあらへんしなー」
 急にしおらしくなったロマーノを見てスペインは笑った。ズボンの中に差し込んでいた手を再び捏ねるように動かし始めた。一度は飲み込んだ唾液がまた溜まり始めたのだろう、気持ち悪そうにしているロマーノに言った。
「ほら、さっさと出してしもて、うがいしに行こ」
「むぃ」
 まさぐる手を止めないスペインを辛そうな顔で見て、ロマーノは首を振った。
「ベッド汚したないねんやろ? 俺の手の中に出したらええやん」
「むぃ……えない」
「ええから」
「…ひ…ぃんッ…!」
 幼い性器を傷付けないよう気を遣いながらも、少し強めに根元から絞るように擦り上げる。ロマーノはびくんっと痙攣するように体を震わせて、スペインの胸に倒れかかった。
「ロマーノ?」
 肩を押して起こすと、ぼんやりした目のままで、首がことんと傾いだ。まだ喉仏が出ていないつるりとした喉が、くっと動いた。また飲み込んでしまったらしい。ロマーノの目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
「……もしかして、まだ出ぇへんかったん?」
「むりって、言っただろうが……ちくしょー………二回も…無理やり……」
「しもたなあ」
 スペイン自身は射精を伴わない絶頂はもう随分と長い間得ていないが、ロマーノの虚脱ぶりからすると相当なものだったのだろう。再開する前に既にイッていたのだと告白されて、スペインは気まずそうに頭を掻いた。
「……お腹減ったぞ、何とかしろこのやろ」
 胸に預けた頭をかすかに動かして、ロマーノは当初の要求を繰り返した。