ロマーノはヴェネチアーノの亀頭を覆っている包皮を剥き下ろすと、溜まった垢にためらう素振りも見せずに陰茎を口に含んだ。
「いっ……えぇっ!?」
未熟な先端に指が触れた痛みよりも、驚きの方がはるかに勝っていた。
露出したばかりで過敏になっている粘膜を生温かい舌が這い回る。根本に添えられた手のひらとはまるで違う、柔らかで粘滑な肉の感触。
脚の間にある自分よりも濃い髪色の頭を唖然と眺めていたヴェネチアーノは、背中から下腹へじわりと広がった疼くような熱に、我に返った。
ロマーノの頭を掴んで押し退ける。
「に、兄ちゃん、だめだよ!」
口から性器を奪われたロマーノは、恨めしそうな眼でヴェネチアーノを一瞥すると恥垢がこびりついた亀頭の丸みを親指の腹で擦った。
「いたっ」
声を上げて体を強張らせたヴェネチアーノに、ロマーノは人の悪い笑みを浮かべた。
「舌だったら痛くなかっただろ?」
唾液に塗れた肉柱に頬をすり寄せるようにして股に顔をうずめ、陰嚢との間に張った筋をねぶり、唇で啄ばむ。先端から垂れ落ちてきた透明な液を舌で掬い取りながら舐め上げ、くびれた部分でだぶついている包皮になすり付けた。
ロマーノの動作のたびに、ヴェネチアーノは怯えるようにびくりと震え、シーツを強く握り締める。
「ほとんど触ってないのにな」
すっかり起ち上がっているヴェネチアーノの陰茎を見て、ロマーノは面白そうに言った。
「だって自分でするのとぜんぜんちがっ…あ、やぁッ」
ロマーノは言い終わるのを待たずに、再び口に咥えた。すぼめた唇で表面を伸すように食みながら、ぐじゅぐじゅと、わざと唾液を口の中に溜めて音をさせて出し入れする。
その音と、幹を滑る唇の感触と、何よりも兄であるロマーノが弟である自分にそういった行為を働いているということがヴェネチアーノを興奮させた。体中の熱が付け根に集まり、爪先をじんと痺れさせる。重くなる腰と対照に、頭の中には奇妙な浮遊感が生まれていた。
カウパー腺液と唾液の入り混じった液体を飲み込み、ロマーノは短く息をついた。熱く湿った吐息が股間をくすぐったのも束の間、ロマーノが息を継ぐと同時に、ヴェネチアーノの肉柱は見えなくなっていた。窺うように見上げてくるロマーノの口元とヴェネチアーノの下腹部との距離はないに等しい。つるつるした上あごの内側と舌のわずかなざらつきを対比させるように、ロマーノは肉棒を口腔に押し付けるようにして裏側を舐め擦った。
「やぁあっ! にいひゃっ」
「ぅぐっ…」
ヴェネチアーノは思わずロマーノの頭を掴んだ。
ロマーノは苦しげな声を漏らしたが、含んだものを吐き出そうとはせずに、ヴェネチアーノの手の力に従うように深く咥え込んだ。
こつんと、頬の内側の肉とは違う、柔らかだが少ししっかりした部分に先端が触れる。
ロマーノが呼吸の不自由さによる息苦しさから見せていた表情から、さらに辛そうに眉を寄せた。
嚥下しようとしているのか、拒んでいるのか。包み込むように蠢く肉の筒の触感が、自身が触れているその部分が咽頭であるということを知らせた。
殺してしまうかもしれないという不安が頭をよぎった瞬間に、強い射精感が襲った。
性器がはちきれてしまうような錯覚。
「や、出ちゃう! 出ちゃうよぉ!」
硬さを失いつつある陰茎を口から抜き取ると、ロマーノは精液が口からこぼれないよう気を遣いつつ、舌を余った皮と亀頭の間に差し入れるように擦り付けて垢を舐め取った。先の窪みに口付けて精液の残滓を吸い、口の中に保った精液と自身の唾液を助けにして、恥垢を飲み下した。
「うえぇ、まずっ……。おい、これからはちゃんとシャワーする時に洗えよ」
「え? あ、うん」
唐突な忠告に、ヴェネチアーノはなぜ今こんな状況にあるのかを思い出した。
ドイツのと自分のが何か違った。
そのうち変わるかもしれないだろうという、既に成人した自分にはあまり縋れない慰めをもらって自宅へ帰り着いたものの落ち着かず、寝る気満々だった兄の家を訪ねて報告したのだった。
「じゃあ俺うがいして寝るから。お前もさっさと帰って寝ろよ」
ヴェネチアーノは、「くだらねーことで悩んでんじゃねえよちくしょうが」と、あくび混じりに言い捨てて部屋から出て行くロマーノの背を見送った。