「変な時間に食べてるなあ。それに何か多くないか?」
「ん?」
 現れたフランスを驚いた目で見たスペインは、それでもきっちり味わってから飲み込んだ。
「おばちゃんが余ってるから言うてくれてん」
「相変わらずだねぇ」
 メンチカツ定食に加えて、えんどう豆の卵とじの小鉢と高野豆腐の小皿。ご飯はどうやら大盛りらしい。食堂のおばちゃんのもったいない精神もあるだろうが、スペインだからというのが一番大きな理由だろうと、サンプルだのノベルティだの個人のおやつだのを「ええのん? おおきにー!」と貰っている姿を何度も目にしていたフランスは結論づけた。もしかしたら今日の昼飯も定食を頼んだのではなくて、玉子丼を頼んだらメンチカツとキャベツの千切りが付いてきたのかもしれない。つくづくお得なヤツだ。
「今日は出ないんだな」
 今年に入ってから毎週、この曜日にはスペインは外に食べに行っていた。手弁当か、素うどんをすするか、はたまた何も食べないか……というスペインには珍しいことで、彼を知る人のうちではちょっとした噂になっていた。
「ちょお金ないねん。せやけど自分の飯いう気分やないし」
 へー残念だなー。と気のない相づちを打ちながらフランスは向かいに座った。
「あそこの兄弟かわいいよなあ」
「知っとったん!」
「俺好みの味覚してる奴が熱心に通うランチって気になるだろ」
「飯は美味いし、かわええし、最高やんな」
「じゃあウチの社食じゃ辛いんじゃないか?」
「おばちゃんに言いつけんでー。ウチのも美味いやん。おばちゃんもかわええし」
「違いない」
 フランスは笑った。
「でもお前が来ないの気にしてたぞ」
「えっ?」
 目の色を変えたスペインを見て、フランスはテーブルに肘をついてによによ笑う。
「詳しく聞きたい?」
「…………何が望みや」


 からころ、と木製のドアベルの柔らかい音が大きく響いた。BGMも照明も切られている店内は見知ったものとまるで違う。奥で物音が聞こえたかと思うと、足音が近づいてくる。
「申し訳ありません、当店はただいま準備中……」
 店員はドアから頭を覗かせているスペインを見て言葉を止めた。
「……準備中、です」
 改めて言い直した店員は、明らかに困惑していた。
 それもそのはず、ドアには準備中の札がかかっているし、それに気づかずに入ってしまったとしても、口頭でその旨を伝えられた客は帰るのが普通だ。スペインは店員の戸惑う様子を見ながら、エプロンをしていない姿を初めて見た、と変な感動を覚えていた。