「寒いとすぐに冷えてしまうな」
「寒いときの方がおいしいのに残念ですよね」
フィンランドはぬるくなってきているマグカップを両手で包み込んだ。厚い手袋越しでは温かさも分からないだろうし、ましてや中身を温めるなんてできないだろうに、横目で見た表情はとても満足げだ。
「何かいいことでもあったのか?」
「いやードイツさんに話すほどのことはありませんよー。強いて言うなら、先週開けたプオルッカ*の出来がよかったことですかねぇ。甘みと熟成具合がすごく好みで感動しました! でも砂糖の量とかいつから漬けたかをメモしてなかったんですよね……」
残念そうな口ぶりとは対照に口元は笑っている。
「あ、よかったら今から飲みませんか?」
「いや、また今度寄らせてもらおう」
グラスを傾ける仕草をしたフィンランドに言う。
「じゃあその時は夕食も食べていってくださいよ。僕はりきって作りますから!」
一言話すだけで三言は返ってくる。フィンランドは話すのは得意ではないと言いつつ、いつも饒舌だ。しかし、相槌を打つ隙間もないかといえばそうではないし、こちらの話を聞いていないということもない。
「その時は事前に連絡しよう」
「分かりました、楽しみにしてます」
「早く飲まないと冷めるぞ」
「温まるつもりで淹れたのに逆効果になっちゃいますねぇ。そうしたらもう一杯飲みますか?」
「胃が悪くなるぞ」
マグに並々と注がれたコーヒーをくるりと揺らして、ドイツは笑った。
* コケモモ。ここではコケモモ酒のこと。