早くも仕事に飽きて、ドイツの眉間に視線を当てたイタリアは、手にしたペンをゆらゆら揺らした。本を読むドイツの眉間に刻まれたしわは、イタリアには真似できないほど深い。
(『上手に眉間にシワを寄せる方法』)
 首を傾けてドイツが読んでいる本の表紙をのぞき見ると、タイトルをそう読んだ。もちろん、間違っていることは分かっている。ドイツ語は、ちょっとした買い物をするとか、道を尋ねるとかいう、ガイドブックに載っていそうな簡単なことしか分からない。学術用語とかビジネス用語となるとお手上げだった。
「ドイツー」
「終わったのか?」
 イタリアは悪びれもせずに首を振って、ドイツが何か言うよりも先に、自分の眉間をちょんとつついた。
「そんなにシワ寄せちゃダメだよ。笑って!」

*** 一時間ほど前。
『仕事が終わらないんだよー助けてぇー』
「……俺が到着するまでの間も努力は怠るな」
 電話を切ってすぐ、取るものも取り敢えずイタリアの家に駆けつけたドイツは、机の上を見て目を見張った。山と積まれた紙の束……ではなく、白いボウルに盛られた焼き菓子の山だった。
「いらっしゃーい」
「お前は何をしているんだ」
「いくら頑張っても焼きたてを出すのは無理であります!」
 ドイツはやっとまともにできるようになった敬礼をしたイタリアをキッチンから引きはがして、執務室まで引きずっていった。
「まずは一時間でいい。集中しろ」
「ヴェー……」
 集中するまでにかかる時間も含めて、ドイツは拘束時間を言い渡した。助っ人と見張りを兼ねて同じ部屋にいるが、じっと見ていてはやりづらかろうと考えて、用意してきた本を開いた。
 『タイプ別 友人と楽しく過ごす方法』――第一章……