垂れ落ちる汁の量も、そのものの大きさも、人間の比ではない。毛穴から汗が染み出るように複数の穴からプツプツと分泌される液に顔を近づけると、スペインの体臭をずっと強くして、そこに汗と尿を混ぜたような臭気が鼻を衝いた。
長い航海から還ってきたばかりのスペインはこんな味がしたのだろうか。何日も清めていない体から漂う潮と汗と鉄錆のにおい。垢が溜まった陰部。ロマーノはスペインの姿を瞼の裏に描きながら、そろりと出した舌を分泌液に触れさせた。
「うぇ……にが」
無数の小さな棘が舌に刺さったような強烈な苦味。例えるなら腐りきったパテ。唾液が溢れ出して中和しようとするが、逆効果だ。農作業で汗だく泥まみれくらいなら気にも留めないし、口の中に出されても文句ひとつ言わずむしろ歓迎する向きすらあったロマーノも、口腔に広がる味の範疇を超えた味には耐えられなかった。
「スペイン、俺」
皆まで言わせず、スペインはロマーノを持ち上げてうつ伏せにした。
姿が見えなくなったことと、嗅覚が鈍くなったことで薄れた、異形への抵抗。頬擦りするように腿を撫で上げられ、強張っていた力が少しずつ緩み始める。まだ固く閉ざしている肛門に、唾液でも精液でもない、とろみと粘つきのある体液が塗り付けられる。
「や、あぁ…あ……」
交接器がくちくちと音を立てて粘液を塗りこめると同時に、別の触手の先端が肛門の皺をちりちりとほじくった。人間の指や舌では不可能な微小な動き。ほぼ同じ場所への刺激だというのに、二種類の触手それぞれに与えられる快感は混ざることがない。
太腿に巻きついていた触手が、肛門と陰嚢の間をつついた。何もない、ただの皮膚であるはずのそこを、摩擦で熱を持つのではないかと思うほど執拗に何度も行き来する。
皮膚を隔てた奥がずくんと疼いた。
尻穴の入口をしつこく撫でまわしている触手二本も、それ以上進む気配はない。もういっそ、そこに穴が開いてずっぽり入ってしまえばいいと思えど、股間を押しつけても触手は柔軟に下がり、一定の圧しか与えてくれない。
火種を燻ぶらせている陰茎と腸内、そのどちらにもスペインは直接触れずにいる。
「ひあぁん!」
下半身に集中する余りノーマークだった乳首への刺激を受けて、ロマーノは無防備な声を上げた。気付かず敏感になっていた乳首に、蛇の舌のように細い先端がねじ込まれる。宿主の体内に入り込む寄生虫の頭のように縦横に蠢いた。
「くっ、くりくりするなぁ!」
びくんと脈打ったロマーノのペニスに、会陰を撫でていた触手が絡みついた。亀頭の半ばまでを覆っている皮の間に先端を差し入れ、常にまとっている粘液とは別の分泌液を垂らしこんだ。乳首への刺激よりもゆっくりと、なるべく多くの面を触れさせるようにして亀頭を撫でる。
もう耐えられないとロマーノは自身に手を宛がった。
「一回…出させっ、へ!?」
ロマーノが陰茎を扱くよりも先に、十分すぎるほど緩ませられた尻穴に、ジュポンッと触手が突き込まれた。腰に響く衝撃にロマーノはのけ反った。
「へほっ、えあぁぁぁあぁアぁ!!」
「ふあ……はぁ……」
陰茎を擦る刺激でもなく、直腸へのピストン運動でもなしに、異形の生殖器を挿れられただけで達してしまった。ただの一回、往復ですらない片道の刺激で。
散々焦らされた割に呆気なく、何の満足感もない終わり方。じゅぽり……と音を立てて引き抜かれた触手を追いたい気もしたが、体を動かすのも面倒な虚脱感に包まれ、ロマーノは力なく枕に頭を預けた。
「……スペイン」
本体に目をやるが、暗くてよく見えない。仕方なく顔のすぐそばに添っていた触手に触れる。先に感じていた嫌悪感はどこかに行っていた。細かく口づけると、触手は鎌首をもたげるように動いた。
「よく分かんねーけど、イッてないだろ?」
ロマーノが枕元の触手に話しかけている間に、別の触手の先端が肛門をぐいと広げた。散々ほぐし、一度入れたことで柔らかくなっていたそこは、難なく門を開いた。
「いいぜ。今度はちゃんと満足させてやるよ」
スペインはロマーノの肛門を開いて、その奥を虚空に晒し続けていた。挿れもせず、ロマーノからの愛撫は戯れに受けるのみで、これといった行動は起こさない。
ロマーノ自身の腸液と、触手から分泌された粘液は、徐々に乾き始めていた。
「しないのか?」
入れて欲しいという渇望を滲ませて、ロマーノはスペインに訊ねた。構わないとばかりに頬を撫でられるが、ロマーノは気が気でない。本来ならば外気に晒されるはずのない直腸は、わずかに身じろぐだけで空気の動きを敏感に感じ取った。
かゆい。
手を伸ばすと、伝ってきた軟らかな腕に絡め捕られた。触手は指の股を丁寧に擦って、掌を重ねるように巻きついた。ガチガチの拘束はしないくせに有無を言わせない強制力。
「スペイン、なあ」
触手は肛門付近を労わるように撫でた。半端に触れられたせいで疼きが増幅する。
弄りたい。自分の手で、指で、思うまま掻き毟りたい。
あれほど扱きたいと思っていたペニスはそっちのけで、ロマーノは肛門から指を突き入れて滅茶苦茶に掻き回すことばかり考えていた。
「痒いんだ、痒い。痒いんだよ! なあスペイン……!」
客を誘う娼婦のように腰をくねらせてみせる。
交接器の先端が、開き通しで門の役割を果たさないアヌスに宛がわれる。分泌された粘液が内部と内腿を濡らしていく。少しは治まった気がするが、足りない。
「ズボズボして、中でいっぱい出して」
愛おしげに見つめながら、ロマーノは笑った。