ロマーノの左胸、トクトクいっている心臓の上に手のひらをそっと載せる。柔らかな手触りのシャツの中の肌の温度と相まって、生地が温度を持ってくる。
 スペインは微かな手応えが手のひらの中央に来るよう手をずらして、そこを中心に円を描くように軽く滑らせた。描く円を少しずつ小さくしていく。手のひらを反らせ、指の付け根の盛り上がったところで、ロマーノの胸のほかのところよりわずかに堅い箇所を小刻みに擦った。
 ロマーノは落ち着かなさそうに膝をそわそわと寄せるが、換えたばかりのシーツはぴんと張ったまま、しわを寄せる気配もない。
「見てもええ?」
「……好きにすりゃいいだろ」
「ロマーノの、このコリコリしたとこ、見たいねん」
 きゅ、と力は入れずに指で挟む。
「っだから見ていいって」
「見して?」
 ロマーノは何か言いたげに息を吸ったが、その息が声になることはなく、観念したようにシャツの裾に手をかけた。
「脱がんでもええから」
 ロマーノがシャツを一気に胸の上まで持ち上げたところで、スペインはロマーノの手を押さえた。肩から手を滑らせて、やんわりと脇を締めさせた。

 他の部分よりほんの少し赤みを帯びた輪の縁を指先でなぞる。揺れるハシバミ色の瞳を窺うと、たくしあげたシャツの中に顔を隠そうとばかりに俯いた。
「こーら」
 スペインがのんびりとした声でもって咎めると、ロマーノは目だけを動かしてこちらを見た。
「隠れたらあかんで」
「でも」
「嫌やねやったらイヤって言うて。親分はロマーノが嫌がることしたないねん」
 上目遣いで口答えするロマーノに向けて大げさに困った顔を作ってやると、ロマーノはふるふると首を振って顔を出した。
「ありがとう」
 礼を言って頭を撫でると、ロマーノはぷいと横を向いた。スペインは右手を頭に載せたまま、左手の人差し指の背で突起を掠めるようにさすった。気になったのか、ロマーノは顎を引いて横目で見た。
「どうなってるのか気になる?」
 右手を頭の丸みに沿わせて下ろし、顎をくいっと上げさせる。目をうろうろさせるロマーノの様子がおもしろくて、スペインは指の間接で引っかけるようにして弾いた。ロマーノはぎゅうとシャツの端を握った。
「今どうなってるんか、思ったまんまでええから答えて」
 力を入れすぎるといけないから、親指と人差し指ではなく、人差し指と中指の間に挟んで摘んだ。眉を寄せて考えているロマーノにヒントを与えようと、スペインは摘む力を強めて引っ張るようにした。
「んっ」
 ロマーノは口をぎゅっと噤んだ。
「痛かった?」
「……たくない」
「我慢したらあかんよ。止めてって言うてくれたら」
「してない!」
 自分で自分の声に驚いたらしいロマーノは、目をぱちりと瞬かせて気まずそうにまた横を向こうとしたが、顎に添えられたスペインの手はそれを許さなかった。
「大丈夫やでー。さあ、答え言うてみて」
 摘んでいた乳首を一度放し、もう一度ゆっくりと挟みなおす。
「……きゅって、持たれてる」
 語尾を上げめに、ロマーノは首を傾けながら答えた。
「うんうん、正解やでー、かしこいなあ」
 褒めてやると表情が少し緩んだ。
「じゃあ親分にきゅってされて、ロマーノの胸のお豆さんはどんな風になってるかな?」
「そんなの……分かんねーよ」
「どんな感じする?」
 今度は親指と人差し指で摘んで、指同士を擦り合わせるように動かした。拗ねたように噤まれていた唇が、薄く開いて息を呑んだ。見開かれた目に構わずに擦り続けると、ロマーノは耐えかねたような声で言った。
「いやっ」
「ほなやめよか」
 突然両手を離したスペインにあっけにとられた顔をしていたロマーノは、恐る恐るといった風に顎を引いた。
「え……」
 腫れたような赤さで、ぷくりと立ち上がっている肉粒を見て、ロマーノは目を丸くした。一度も触れられていない右側とは明らかに形が違っている。
「ごめんな。服着てもええよ」
 言われるままに上げていた裾を下ろしかけたロマーノは、ぴくんと体を震わせた。
「っ」
「どうしたん?」
 スペインは申し訳なさそうな顔のまま聞く。ロマーノは何が起きたのか分からないといった顔で首を振って、体を動かせずにいる。
「どうしたんな」
 おかしさに笑いそうになるのを堪えて、スペインはロマーノの肩に手を置いた。こっそりシャツを摘んで手を少し後ろに滑らせると、ロマーノの表情が強ばった。
「ぴりぴりする」
「え?」
「服が当たって、ぴりって」
「どこがぴりってなるん?」
 ロマーノは躊躇いがちに自分の胸に手をやった。桜貝のような爪のついた指先が軽く触れた瞬間、びくんと首をすくめた。
「…ふっ……んんっ」
 無意識なのだろう、閉じた内腿がもぞりと擦り合わせられる。衝撃が去るのを待って薄く開けられた瞳に向けて、スペインは深刻な顔を作った。
「治してあげたいねんけど、ロマーノに辛い思いさせたないねん」
「……我慢する」
「ほんまに? 今度はイヤって言われても止めてあげられへんで?」
「それでもいいから……治して」

 ベッドに横たえたロマーノのシャツを再び捲り上げて、スペインは‘患部’をじっくりと見た。膨らんだ乳首は、充血して赤みを増しているせいもあって、右側の乳首よりも目を引く。
「このままやとお外でシエスタするのに困るもんなあ」
 親指の腹で潰すように撫でると、小さな粒は指の動きに従ってくりくりと動いた。
「ぅんっ」
 引き結ばれた唇よりも赤い色の粒を、欲のまま口に含む。木イチゴのような感触と滑らかな肌の境目を、舌の側面で擦ってしっかり立ち上がらせてから、顔を動かして舌の平たい面で撫でつけるように舐める。
「ひっん゛ん!!」
「声出して」
 堅く結ばれている唇に指を這わせてからねじ込む。指に当たる乳歯を、ぐっと関節を押り曲げて持ち上げる。指を押し出そうと暴れる柔らかい肉をぐにぐに押す。
「ひゅぺいッ……ぉえぇっ」
 えずいたロマーノは、スペインの手を引き出そうと引っ張った。
「声は我慢したら治るの遅なるからな」
 涙を浮かべてこくこく頷くロマーノの口から、唾液にまみれた指を引き抜く。
「ぇほっ、けほっ」
 スペインは一度も触れていない右側の乳首を横目で見た。咳込んだ口を押さえていたロマーノの手を掴んでそこに当てさせる。
「んやぁっ」
「そこ弄って」
「こっちは…ハぁ、…わるくないっ」
「でもちょっと固くなってきてるで。悪なってまうんちゃうかなあ」
 抵抗しようとする小さな手に唾液で濡れた指を絡め、小さな指が乳首に当たるよう押さえつける。数度擦りつけさせると自分で捏ねくり始めた。
「えらいで」
「…ヘンだっ…きもちわるいのに……ぃ」
「頭ぼーってする?」
 聞きながら、スペインはもう片方の突起を軽く摘んだ。
「いんッ! なんか、来ちゃうぅ……っ」
「来たら終わりやから、がんばってな」
 つんと上を向いたままの赤い粒を口に含みなおして、転がすように舐めしゃぶった。
「ひゅぺいッ……やっあッ…!」
 ロマーノは手を放して自分の頭をぎゅっと掴んだ。いやいやをするように首を振る。
 スペインはロマーノに代わって、右側の乳首にも手を伸ばした。唾液を塗り込むように指の腹を擦りつけて、ピンと跳ねた。摘まんで指の腹側の関節でこりこりと擽る。
「ロマーノ可愛いで」
 赤く熟れた小粒を見ながら、それ以上に熟しているだろう口の中の突起を吸い上げた。吸いながら、巻き込むように舌を強く押し付ける。
「んっ、ふあぁぁああっ……!!」

 くた、と寝ころんだロマーノの目の前で手を振る。
「大丈夫か?」
「へーき……だぞ…」
「強い子やなあ」
 汗ばんだ額から前髪を払ってやると、ロマーノは緩く笑った。
「……治った?」
 首を起こそうとするロマーノの額を軽く押さえて、枕に戻させる。
「お熱出た時と一緒で、一番高くなって、それから寝んねしたら治ってるからな」
「そっか…、よかった……」
 閉じかけている瞼にキスをする。ロマーノの呼吸は寝息に変わっていた。