男の腹に頭を預け、放った熱が再び昂ぶるまで睦言交じりに戯れる。
 まるで恋人同士のようだとスペインは哂った。
 目元を覆い視覚を奪っている布の手触りを楽しむように布の上から撫でられ、そのこそばゆさに男の手を押さえると、輪郭をなぞるようにくすぐられた。漏れた声は思った以上にとろけていて、それを聞いた男が喉奥で笑うのが空気で伝わってきた。スペインは不満を籠めて、口元に降りてきた指に軽く歯を立てた。
 南イタリアを保護国として手元に置くことを渋る男が提示した「毎夜の伽」が、寝付くまでの四方山話などではないことは分かっていた。それなのにその条件を呑んだのは、心の奥では享楽を求めていたからではなかったか。ロマーノを守るためという自己犠牲は自己満足ですらなく、浅ましい自分を認めたくないがための自欺でしかなかったのだ。

「何が入ってるのか当ててみ」
 男の剛直に緩められたそこに、何かが差し入れられる。
 また厨房から食材でも拝借してきたのだろうか。凹凸のある、軟らかくはないが硬くもないもの。挿れられることに慣れていても苦しいと感じる大きさ。
「……ん、アンタのんとは違いますなあ。何ですやろ…?」
「分からんか」
「んー、分かりまへん。答え教えてくれはる?」
「しゃあないなあ」
 内緒話をする子供のようにもったいぶりながら、するりと目隠しが外される。しばたきながら目をやった、男の欲を銜えこむのにすっかり慣れた自分の陰部が貪っているのは――守ってやりたいと願っていた、小さな手。
「いっ、いやァ! なんで! なに!? 何これぇ!!」
 スペインは絶叫した。
 頬を厚く肉のついた手のひらに張られたが、頭はそれを痛いとは認識しなかった。
「ちょっと黙れや」
 男は猫なで声で続けた。
「さあ、お前の親分は分かってへんみたいや。教えたれや」

 正気に返ってみると咽ぶほどの精臭が満ちた空気を、嗚咽に近い呼吸が震わせた。せわしなく揺れるロマーノの瞳に、涙が浮かんでいないのが不思議だった。
「スペインの、お尻に……俺の、手が……」
 途切れ途切れの健気な回答もそこそこに、男に腕を掴まれてロマーノはびくりと身を竦ませた。その拍子に中でぐっと握られた拳が腸壁を圧迫する。スペインの喘ぎを聞いて、ロマーノは目玉がこぼれ落ちそうなほど目を見開いた。
「ちゃうなあ。ここは何するところや?」
「え」
「ここから何が出るねん?」
 当惑。いや、もう彼の頭は機能していないのではないか。そうであって欲しい。
 スペインの願いも虚しく、ロマーノはじっとスペインの尻穴を見つめて、男の方を向いた。
「……うんこ」
「分かっとるねやないか」
 剛い毛の生えた手は、掴んだロマーノの腕を前後させた。
「あひっ」
 スペインの口から上がった声を聞いて、男の顔が笑みに彩られた。掻き出された精液と腸液がシーツに垂れ落ち、ロマーノの腕が粘液にてらついてくる。
「お前の親分はなあ、うんこ出る穴に挿れられて善がってるねん」
「ちゃ、ちゃう!」
「何が違うんや? ……ひょっとして、気持ちよぉないんか?」
 男は溜息をついてロマーノを見る。
「ほんまに役に立たへんなあ。穀潰しなんもええかげんにせぇよ」
 ロマーノの瞬きを忘れた目から止めどなく流れる涙は、感情の動きではなく、目が乾かないようにしているだけかもしれない。そう思えるほど、ロマーノの表情は凍り付いていた。
「…………気持ちええ、から」
 スペインは掠れた声を絞り出した。
「何て言うた?」
「ロマーノの手ぇ、気持ちええです」
「庇って言うとるんと違うやろなあ?」
「嘘と違います。ちっさい関節が中でごりごり当たって、ほんまに……」
「よかったなあ、役に立てとるで」
 男はロマーノの頭を撫でた。手に付いた体液が、子供特有の細い髪に絡みつく。
「さて、嬉しいことして貰ったらなんて言うのや?」
「……おおきに。ロマーノ、おおきにありがとう」

 男がロマーノを解放したのを見て、スペインはロマーノの頬に手を伸ばした。
「俺なあ、ロマーノがおってくれたら、頑張れるねん」
 微笑してみせると、ロマーノはやっと、泣き顔を見せた。両手で挟んだ顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。背を丸めて、額と、目元と、頬に順番に口付けて、丸い顎に垂れた雫を吸った。
「親分が働いてるのん見に来てんなあ。ロマーノがしてくれるのは気持ちええねんけど、そうしたら、俺が上司のこと気持ち良くする仕事ができへんようになるからな? ええ子やから部屋に戻って――」
「おらしたりぃ。邪魔者扱いすることあらへんやろ」
 スペインが制止するより早く、男はスペインの脚を抱え上げて腰を進めた。
「こいつがおった方が頑張れるて、物好きなやっちゃなあ……。確かに、あんなもん入れ取ったくせに、いつもより締まりも声もええわ」