「ロマ……」
「げっ」
ロマーノはスリの現場を押さえられたような顔をしたものの、手にした靴下を握りしめて離さなかった。あるいは驚きのあまり離せなかったのかもしれない。そう信じたい。
洗濯機のすぐそばに落ちていた乾いた靴下が、洗う前で籠に入れ損ねたものなのか、それとも洗い終えて出したときに落ちたものが乾いてしまったのか、それを判別する一番簡単な方法は「臭いを嗅ぐ」だ。その術を用いることを糾弾する気はない。
しかし、その臭いを嗅ぐという行為をするロマーノの表情が、愛情を込めて舌を吸ったときのように陶然としているのは納得できなかった。
「てめーが紛らわしい場所に放ったらかすのが悪いんだろうが!」
「それにしては熱心やなかった?」
怒らないから、むしろ明らかな事実を隠そうとすることを不服に思うから、正直に話して欲しい。ロマーノが保護国であったころと同じ視線を向けて待つ。
「悪いのかよ」
「ううん、悪くはないで。ただ、その、臭いやろ?」
洗い立ての体からする石鹸の匂いとか、抱きしめたときの体臭とか、そんなものなら構わないし、自分だってロマーノのものを堪らなく嗅ぎたいことはある。けれども今ロマーノが手にしている靴下は、汗ばんだ肌どころの話ではない。
「臭いな。……それが好きじゃ悪いか?」
悪くはない。そう、悪くはないのだ。悪くはないのだが。
気持ちを表現する適切な言葉を探しているうちに、ロマーノはすっくと立ち上がった。靴下を放り込むべき籠に見向きもせず、洗濯機から遠ざかっていく彼の手には、靴下。
「どこ行くん?」
先に見せた驚きが嘘のように平然とした顔のロマーノに尋ねる。
「トイレだよ」
簡潔かつ明確な答え。
「俺ここにおるで?」
「オナニーとセックスは別だろ」
すぐ隣を通り過ぎていく体を引き留める言葉は、まだ見つからない。