個室のドアにスペインの背中を押し付けながら膝を着いたロマーノは、右手でスペインのズボンのファスナーを下ろす一方で、左手を伸ばして鍵を掛けた。鼻歌でも歌い出しそうなうきうきした様子でパンツの中に手を差し入れ、取り出した陰茎をしごき始める。
「ちょ、ちょお待って!」
「ん……早くしろよ、会議始まんぞ」
 スペインがロマーノの手首を捕らえるまでのわずかの間にも、幹をしごく手は左手に変わっていて、右手は玉へと伸びていた。先端に当てた舌を今まさに動かそうとしていたロマーノは、口を離して手を止め、スペインの目を見た。他国の会議場のトイレで行為に及ぶことに何のためらいも見せないにしては殊勝な態度だ。
「先延ばしにしてから一週間。これ以上待ちたくねえ」
 訂正、いつも通りだ。
「おしっこしたいねん」
「このまましたらいいじゃねぇか」
「せやからそこ退い……ロマ?」
「ここに出して」
 ロマーノの手が導いた先は、あーんと開けた口の前。ひな鳥が餌をねだるように邪気のない仕草で口を開けているくせに、とろりと蕩けた目は容赦なく理性を灼いてくる。捕らえていたはずの右手はいつの間にやらスペインの手を握り返していて、逃がさないとでも言いたげにしっかりと指が絡められている。
「なあロマ、手ぇ離して、あと目も瞑って?」
「見たいのに」
「勃ってまうと出にくいやんか」
 お預けを食らったのはスペインとて同じだった。勃起してしまっては用を足しづらい。
 ロマーノは素直に手を離したが、納得はしていないらしい。じとりとした視線を受け止めたスペインは自身に手を添えて、尖らされたロマーノの唇に擦りつけた。拗ねた瞳はスペインの目を見て、鼻先に突きつけられた陰茎を見てから、諦めたように瞼の下に隠れた。

「おいこらスペイン、どういうつもりだ」
「ヒッ」
 小便器の前に立って排尿しているスペインの喉首を、背後から幽鬼のごとく現れた手が撫ぜる。ロマーノは体を強張らせたスペインの耳を、甘く噛んでからぬらりと舐めた。
「口開けて待ってた俺が馬鹿みてーじゃねえか」
「やめたって! ただでさえ出ぇ悪いのに、ここで止めたら心残りありすぎる!」
「黙れちくしょう。ここでヤっとかないと会議中ずっとムラムラしなきゃならねーんだよ」
「あかん、あかんて。触ったら汚いってィヤア! ロマーノやめてえ!!」
 スペインはロマーノの手を力いっぱい掴んだ。歴然とした腕力差を今ほど有り難いと思ったことはない。ロマーノもそれを分かっているからか、あっさりと手を引いた。スペインの両肩に手を置いて、背中に額を当てる。シャツに口を密着させて息を吐いた。
「ふぅー」
「熱ッ、何するのん!?」
「……待ってるから、早く済ませろよ」