「何なに、昨日頑張りすぎちゃったの? それとも今朝?」
会議が終わるなり机に突っ伏したスペインの肩をフランスが抱き込んだ。背景を深夜の酒場にそっくり移しても違和感がないほど密接しているが、いつものことなので周囲は気にも留めず、各々の所用に興味を移している。
「ロマーノに食われそうになった」
「おや、ついに逆転されたのか」
「ちゃうわ。それやったらそれで、俺も楽しむ努力くらいするわ」
力なく首を振る。
「……ロマーノが、俺のうんこ食いたいって」
「それは、また。……マニアックだな」
「珍しく昨晩夜食作ってくれてん。それで、朝トイレのドア開けたらロマーノや!」
腕の下でもそもそ言うのでは収まらなかったのか、スペインはがばっと起き上がった。集まるほどの目はないが、会議室は全くの無人ではない。「ほんまに勘弁やわー」と再び突っ伏したスペインの後頭部を撫でながら、フランスは乾いた笑いを漏らした。
「優しさに多少の裏があるんは構めへんけど、精力剤ぶち込んで乗っかってくるくらいにしといて欲しいわ。今回ばっかりはなんでそんな方向へ行ってしもたのかさっぱりや」
「嫌なら断ればいいじゃないか。お前のことだ、どうせ曖昧にしか言ってないんだろ」
「嫌よ嫌よも〜って解釈しとるんかなあ。拝み倒したらいけるって、思われてるんかなあ。でもなあ、ロマーノが食うのは嫌やねんけど、食いたいって迫られるのは嫌と違うねん。あのロマーノが俺に頼んでくるってホンマに珍しいからなあ」
フランスは「なんだノロケか」とでも言いたげな顔をした。しかし、スペインの古くからの友人であり、愛の使者を自任してもいるフランスが、その程度で会話を打ち切ることはない。
「かわいいロマーノの願い事じゃないか、叶えてやったらどうだ? 金も時間もかからない。必要なのは愛とほんの少しの勇気だけさ」
「人ごとやと思てぇ」
「『うんこ食わせてくれるまでは絶食する』なんて言い出しっこないだろ?」
「それはあらへんわ」
「じゃあ安心して駆け引きを楽しめばいいじゃないか」
スペインは物憂げな顔は崩さないまま頷いた。
「ところでスペイン」
「んー?」
少しはすっきりしたのか、スペインは外に出た時にはすっかり普通の顔をしていた。
「いきなり大の方なのか?」