よく陽の当たる窓辺に、シーツの海が広がっている。その上に大の字に寝転がったロマーノは、シーツの端を丸めて作った枕に頭を載せ、すやすやと寝息を立てていた。
「あーあ、気持ちよさそうに寝ちゃって」
「ちゃんと仕事言いつけてから出てんけどなあ」
「口開くと小憎らしいところもあるけど、こうして黙ってると可愛さしかないな」
「……何めくっとるの」
無造作にロマーノのスカートの裾を持ち上げたフランスの頭を、スペインは軽くはたいた。しかしフランスは手を離さなかったし、スペインもそれ以上手を出そうとはしなかった。
「もうおねしょは治ったのか?」
「最近はせぇへんようなったなー」
「成長したんじゃん、よかったな」
「顔真っ赤にして言い訳してくるのも面白かったけどな」
「でもやっぱりまだ子供だよなあ」
足首からももまで、あまり太さに変化のない脚に触れる。一見すると細いだけの脚だが、太ももの辺りはむにりと柔らかな手応えがあった。
「それ以上はあかんで」
フランスがパンツの裾から指を侵入させたところでやっと、スペインは声を上げた。
「だめ?」
「だめー」
「俺、最近これといったものを見てないんだよなあ」
「そんなん俺かて一緒やわ」
えっちなのは良くないと思います。と聖職者が燃やしてしまった絵画は、規制が緩くなっても灰から甦るわけではない。フランスのぼやきにスペインは同意した。
「じゃあさ、スペインが脱がせてよ。俺は見てるだけでいいからさ」
ふんわりと膨らみを持ったパンツの裾をしぼっているリボンを、生地を摘んで固定しつつ引っ張る。結び目がほどけるのを見届けてから、確かウエストにもあったはずだ、とスペインは若草色のスカートの中に手を差し入れた。上からエプロンをしているから手が入りにくい。探り当てた、裾のものより少し幅広のリボンをほどき、縮められていた生地を伸ばして、腹と尻を覆っている布を下ろしていく。
「ん……」
尻の下をどう抜けたものかと思案しているところに、薄く開いた口から漏れた小さな声を聞いて、スペインは動きを止めた。「逃げる?」という意味を込めてフランスに目配せする。
するとその時、ロマーノは眉を寄せてもそもそと腰を動かした。
寝返りを打つ瞬間を逃さず、スペインはパンツを尻の丸みから外しきった。両ももの半ばに留まっている白い布きれよりも、ずっと柔らかくて手触りの良さそうなお尻が、白日の下にさらされる。
「ほんまによぉ寝てるなあ……」
「こりゃ当分起きないね」
一度も目を開けることなく、涎をシーツに染みこませながら横になっているロマーノを改めて見て、スペインは嘆息した。フランスも感心したようにスペインに同意する。
「はは、挿れても起きへんかったりしてな」
言ってすぐにスペインは口を手で塞いだ。自分の発言が信じられないとばかりに目を見開く。そんなスペインの横で、によによ笑いを浮かべたフランスが悪魔のごとく囁いた。
「俺は構わないけど」
「…………ぷは。こんなもんか」
ロマーノのにおいに色がついていたなら、肺はその色に染まっていただろう時間をロマーノの尻の谷間で過ごしてから、スペインは興奮と息苦しさで上気した顔を上げた。
肌よりもわずかに色の濃い窄まりとその周囲は、なまめかしさを感じるほどに濡れそぼっている。肛門の皺を伸ばすように親指で縁を撫で、粘膜を押しながらゆっくりと外に引くと、内壁のつやつやとした紅色が覗いた。ひくん、と収縮した穴から、際に留まっていた唾液が垂れ落ちる。
「……想像以上にヒワイだな」
「期待できそうやん」
スペインはぬめる尻穴に指を滑り込ませた。指先を入れることすら難しかった狭い穴が、抵抗もなく中指を根元まで呑み込む。指を二本に増やしても、あと少し力を入れさえすれば、というところだ。にちっ、にちっ、という音をさせながら、入れた指を軸に手首を動かす。
空いた片手でロマーノの尻たぶをうにうにと揉むと、日頃のロマーノの態度とは裏腹に、ロマーノの尻はスペインの手のひらの動きに素直に従って形を変えた。汗と唾液に塗れた今でも、どこか甘い匂いを放つ、もっちりと吸い付くような肌。柔らかみをぎゅっと掴んで、手を離した瞬間にのみ見える指の跡を、もっとしっかり残したくなる。
「うぅ……」
「もうちょっとやからな〜」
ロマーノのうなされるような息に答えながら、スペインはズボンに手をかけた。下準備はこれ以上どうしようもないし、ロマーノも何もしなくても目を覚ます頃だろう。何よりも、スペイン自身が限界だった。
「入りそう?」
「入れてしもたらいけるやろ」
スペインはしゅるりと首元のリボンを外した。汗ばんでいた襟元を寛げながら、フランスに手渡す。
「ロマーノが舌噛みそうになったら頼むわ」
「いぎッ!」
裂傷を広げられるような痛みに、ロマーノの歯がガチンと音を立てて合わさる。
「うわあああ! フランス!!」
直後、眼前にフランスの顔を認めてロマーノは跳ね起きた。しかし一歩も歩かないうちに、スペインに腰を掴まれ、顔をしたたかに床にぶつけた。
「ちぎゃっ」
「傷付くなー」
「俺も傷付いたわー」
フランスは何もしていないのに、スペインはせっかくしたのに、とそれぞれの報われなさをぼやいた。
「いたた……なんだよちくしょう」
首を起こしたロマーノは、そこでやっとスペインの存在に気づいた。じくじくと奇妙な感覚のある下腹部と、足に絡まっているパンツ。何が起きているのか分からない。そんな顔でスペインを見るが、スペインはロマーノの混乱など気にも留めず、フランスに向かって肩をすくめた。
「まだ先も入ってないのに起きてしもた」
「だめだったね」
「……ま、ええか」
気を取り直したスペインは、ロマーノの腰を引き上げ、尻を隠していたスカートを捲り直すと、いきり立ったペニスを再び肛門に押し当て、ねじ込んだ。
「いだッ、だあああっ!」
まだ亀頭を含ませただけなのに、ロマーノは大げさなほどに声を上げて身をよじった。その動きが逆に内部を刺激することになり、痙攣するように震えて縮こまった。
「痛いのん?」
スペインも挿入を中断した。進入を拒む肛門の締め付けは、心地よいと感じるには強すぎた。
「ひたぃ、痛い……いた、いっ……」
ロマーノは「痛い」としか言えなくなったかのように痛みを訴え、背中を震わせる。
「ロマーノ」
「やだ、ぃやだ……っ」
「ロマーノ、聞こえてる?」
スペインはぐすぐすと泣き声を出しているロマーノの尻を、頭の代わりに撫でた。
「ほら、スペインが呼んでるよ」
フランスが顔の前で手を振る。じっとしていることで痛みの波が収まってきたらしいロマーノは、浅い呼吸をしながらも、きゅっと唇を結んだ。体を動かすことが怖いのかシーツを握る拳は解かず、顔をスペインに向けることもないが、聞こえているという素振りを見せた。
「痛いねんな?」
ロマーノは肯定らしい鼻音を出した。
「……ほな、いちにのさん、でお腹からふーって息吐いて」
スペインはへたっているロマーノの腰を持ち上げて、膝を立たせた。まだ震えている、より小さくなって見える体に、大丈夫だと伝えるように手のひらを当てた。
「いくでー」
「うん」
スペインの合図の前の合図を聞いて、ロマーノは息を吸った。
「いち、にぃの、さんっ」
スペインはロマーノの腰を掴んで、一気にペニスを突き入れた。
パンッ、と小気味よい打音が響く。
「い゛、あ゛、あああああアッ!!」
耳が痛くなるほどの絶叫。それも長くは続かず、虹彩が完全に白目の中に浮かぶまで見開かれた目から、ふっと力が抜けた。
ロマーノは再び頭を床にぶつけたが、今度はうめき声も漏らさなかった。叫び声と交代するように出てきた小便がシーツを濡らしていく。
「あーりゃりゃ、おねしょ治ったんじゃなかったっけ?」
「あかんかったみたい」