アカバ(攻め)が女装したままセックスします。

知ってる一面

 クロノは顔を見ながらする方が好きらしいが、アカバとしては後ろからの方が気楽だった。状況を見極めようとするクロノの眼差しは、ベッドの上ではプレッシャーにしかならない。
 しかし、今回ばかりは事情が別だった。
「萎えてもよさそうなもんじゃがのう」
 紺色のセミタイトスカートに、赤色のパイピングで縁取られた同色のジャケット。クロノと比べれば長い髪も結えるほどの長さではなく、ピンでまとめて帽子の中に収めてある。
 客室乗務員と言うと共同任務が思い出されるが、そのときと違うのは、アカバが自らの意思で装ったということだ。
 柳眉と呼ぶにふさわしい眉と、勝ち気さが窺える杏型の瞳。顔立ちを生かすためのメイクに、自信に満ちた笑顔が華やぎを添える。コーポレートカラーのスカーフを首に巻いて喉仏を隠したアカバは、黙っていさえすればただの美女だった。寮に戻る道すがら出会ったクロノが惚けるのも致し方なしの出来栄えだ。
 面白半分に「この格好でやるか?」と持ちかけて、狼狽えるクロノをクロノの部屋に押し込んで、今このときまでクロノはアカバをまともに見られていない。顔を隠した腕の下から、時々戸惑いの視線を向けるだけだ。
 窮屈なストッキングは早々に脱いだ。スカートをまくり上げてもまだ動きづらい。アカバはジャケットを脱いでしまいたいのを堪えながら、クロノの両膝を抱えて揺さぶる。快楽の旗印のように勃ち上がったクロノの陰茎の根本にゆるく巻き付いたストッキングは、クロノ自身の精液と、その後再びの先走りでぐっしょりと濡れていた。
「いつもより反応がいいとはどういうことじゃ、この変態め」
「ぅぐ……っ」
 とっくに声変わりを済ませたクロノも、セックスのときばかりは声が高くなる。どう聞いてもクロノの声。なのに常とは違う色を帯びた声が鼓膜から脳に染み透るようで、アカバの腰の動きを速めさせる。
 指一本を怖々入れた日が嘘のように、クロノの肛門はアカバを難なく飲み込めるようになっている。やりすぎなくらいローションを使って滑りをよくしても摩擦は失われず、むしろ抽送を繰り返すごとにアカバにぴたりと吸い付くようになる。ローションか腸液か、アカバが抜き差しする度に結合部からこぼれる液体が、空気を含んでくぷくぷと音を立てた。
「そろそろ顔を見せんか」
 身を乗り出したアカバは顔を隠すクロノの腕を掴んだ。
 向けられたクロノの瞳はすっかり蕩けていて、アカバのことが見えているのか怪しいくらいだ。
「……ッ、はっ、アカバ」
「んー?」
 クロノは滲んだ涙を払うために何度も瞬いた。熱っぽく潤んだ目を見ていると、日頃ケンカばかりしているクロノことが可愛く思えてくる。片腕で体を支えながら衝動のまま腰を打ち付ければ、クロノの柴犬めいた眉がぎゅっと寄せられ、締め付けが強まった。
「締めすぎ、じゃ……!」
「うん……っ」
 こくこくと頷いたクロノが、力を抜くために細く長い息を吐き出した。緩めたところでアカバが動きやすくなるだけで、またもや深いところをえぐられたクロノは、非難がましい目でアカバを睨んでから、見慣れない女の顔に今日何度目かの動揺を見せて目を逸らした。
「アカバ……」
「なんじゃ?」
「……気持ちいっ……か?」
「当たり前じゃろう」
 アカバは自身を追い出そうとするように蠢く内壁に腰を押し付けて逆らう。人の肛門は本来ものを入れるための場所ではない。蠕動運動によって排泄されようとする陰茎を戻すたび、無理をさせている感覚にアカバが戸惑いを覚えたのは過去の話だ。自分の肉体だけでは成り立たない快感を、アカバはクロノの反応込みで楽しめるようになった。
 アカバはふぅ、と息を吐いてクロノの腕を放してやり、代わりに放置していたクロノの陰茎を握った。あ、と小さく声を漏らしたクロノがアカバを見る。顔こそ隠さなかったものの、目を泳がせながらアカバの腰を挟んだ腿に力を入れる。
「アカバ」
「うん?」
「なあっ、アカバ……!」
「だからなんじゃと言ってるじゃろ」
「……っ」
 クロノの言いたいことは何となく分かる。アカバは笑みを浮かべながら肉幹をしごき上げる。亀頭を撫でたところでクロノの手に押さえられるが、やめさせようとしているにしては力が弱い。アカバは鈴口をぐりぐりといじった。
「言わんと分からんぞ」 
「……っ…………前やだ、後ろでイきたい……」
「どうしようかのう」
「……ッ」
「冗談じゃ、すまんな。……なあクロノ」
 途端にきゅうとクロノの内側が狭まり、ただでさえ赤みの差していた顔が真っ赤になる。アカバはクロノの望み通りに陰茎から手を離すと、目尻に涙を浮かせたクロノの顔を見下ろしながら、クロノが息を吐くのに合わせて腰を動かした。前立腺に当たるよう引き気味に、浅いところに擦りつける。
 名前を呼ばれるだけで気持ちよくなれるというのは難儀な性質だと思う。日頃大した用がなくとも自分を呼ぶクロノがそうなっているのは小気味よくもあった。
「あっ、は、あ……っ」
「もうちょっと、かの……っ」
 クロノの内側の収縮の間隔が狭まり、伸ばされたクロノの手が縋るようにアカバの腕を掴む。そこまでしてもなおアカバの顔を直視できないでいるクロノのために、アカバはクロノの体を自分の体で押し曲げるようにして押さえ込んだ。
「アカ……んむッ」
 近すぎて顔が見える距離ではない。アカバはクロノが顔を背けるせいで一度もできていなかったキスをした。感覚上は何ら障害にならない薄い被膜越しに、背中に回された腕以上に締め付けてくる肉壁を感じる。口が塞がっているから締めすぎだとも言えず、アカバはびくびくと断続的に震えるクロノの体を抱き締めながら、クロノの奥に向かって衝動を吐き出した。


 クロノの部屋だということもあるだろうが、アカバがシャワーを浴びて戻るとベッドの片付けは既に終わっていた。この体力バカめ、とアカバは心の中で毒づく。原因の片棒を担いだ者として、汚れたシーツをランドリールームに持って行くくらいはしてやらねばなるまい。
「なーにホッとしとるんじゃ」
 アカバはあからさまな反応を見せたクロノに文句をつけた。
 クレンジングクリームをクロノに借りて、アカバの顔はすっかりいつも通りになっている。着てきた服は色んな汁でびしょびしょでシャワーを浴びた後に着る気になれず、腰にタオルを巻いたのみだ。最悪このまま自分の部屋に帰ってもいいし、クロノに服を借りてもいいし、クロノに鍵代わりのスマートフォンを渡して服を取りに行かせてもいい。頻繁に部屋を行き来していたが、なまじ隣であるために着替えは置いていなかった。
「別に嫌だったわけじゃないぞ!」
「あれで嫌だったと言われたら驚きじゃ」
 アカバは慌てた様子で弁解するクロノを呆れた顔で見た。アカバを先にシャワーに行かせたからクロノはまだ汗みずくで、床を汚さないためにか折りたたんだシーツの上に座っている。穿いているパンツが脱がせたものと同じかどうか、アカバには思い出せない。
「……おれ、女の人をきれいと思ったことなかったんだ。でもアカバのことはきれいだと思った」
「そりゃあそうじゃろ。わしは元がいいからのう」
「あんまりきれいだから、照れくさくて見られなかったんだ。……おれも頑張らないと」
 素直に志を語られて、アカバは張り合いをなくして黙った。
 アカバ自身あまり引きずる方ではなかったが、それでもクロノの切り替えの早さはどうかと思っている。クロノとセックスしたのがアカバでなければ、そして汚れたシーツが見えていなければ、クロノの頬が上気しているのはトレーニング後だからだと言われても信じるかも知れない。
 シャワールームに行くために立ち上がったクロノを見て、アカバは小さな違和感を覚えた。
 熱が残っているにしても、やけに唇が赤い。
 どうやら想定以上に色持ちがいい口紅だったらしい。
「クロノ」
「ん」
 アカバはクロノの唇についた赤を指で塗り伸ばした。平時と同じ温度をしているクロノの瞳に一瞬だけ、ベッドの上で見えていた熱が熾火のように揺らめく。いつもさっさと元に戻ってしまうクロノのそれを見るのは気分がよかった。
「まずは似合う色を見つけるところからじゃな。おまえはわしと同じ色は似合わん」

投稿日:2024年7月26日
脱いでないのに服の描写がどこかに行きました。果たしてこれは女装攻めの要件を満たしているのか。あと口紅の持ちが良すぎる気がするので、ここは一つクロノとする前に化粧直ししたということで。