遊郭勤めだけど遊女じゃないパラレル

僧と牛太郎

「きみの顔を見るのは久方ぶりだ」
「来るなと言ったのはお前だろう」
「いくら君が頑健とはいえ、避けられる障りならば避けるべきであろう」
 投げ込み寺と呼ばれる通り、シャカの住む寺には身寄りのない者の遺体が運び込まれる。時には息があるだけの人間も投げ込まれ、シャカは手の施しようのない、ただ死を待つのみの彼らを看取って、全て平等に弔うのだ。アイオリアが牛太郎として身を置いている店の女達も、ほとんどがシャカの手によって菩提を弔われていた。
「……少し痩せたか」
「自分では分からぬ」
 浄土を模したというが、季節柄ただ寒々しいだけのように見える庭から、シャカの腕に目を移す。袖から覗くただでさえ骨っぽい腕が、さらに細くなっているように思える。肉がつきにくいのだとシャカは言うが、どうせ自分の飯を病人に与えたに違いなかった。シャカの肉を食った病人は、今は無銘の墓の下だ。
「君と腕の太さを競って勝てるのは相撲取りくらいなものだ」
 シャカは見えていないくせに、まるで見えているかのようにものを言う。長い付き合いだったが、その目が閉ざされている理由を訊いたことはなかった。
 アイオリアは言い返す気力をなくして、手の中にある湯呑みを持ち直した。ざらりとした手触りと温かさが触れ、再び手のひらに馴染んでゆく。白湯でいいと言っても、シャカはいつも「たまには贅沢させたまえ」と心にもないことを言って茶を淹れる。
「冷める前に飲んでしまいたまえ」
「ああ」
 そう言うシャカの湯呑みにも、半分以上茶が残っていた。

投稿日:2015年1月9日