代替わり

「様子はどうだった?」
 部屋に入るなり尋ねた甚壱は、待たせていた蘭太の緊張を肌で感じながら、畳の上に腰を下ろした。
 当主危篤の報を受けてから、扇と交代で詰めていた。自室に戻るのは久しぶりだ。空気に澱んだ様子はなく、外気と同じくらいに冷えた空気の中、置かれた火鉢から炭の燃える匂いがかすかに漂う。
「浮き足立っている様子はありません」
 蘭太は分かりやすい男だった。髪の先まで神経を通したように微動だにしないくせに、言うか言わざるか迷っているということが、あからさまに顔に出ている。
 甚壱は炭の表面の灰を払い、並びを替えて、蘭太の方に押しやった。部屋の主が不在だろうが、あるものは遠慮なく使えばいいのだ。
 それから、助け舟を出してやるつもりで、道すがらに感じた家中の様子を率直に述べる。
「どうにも皆、気がはやっているな」
「――はい」
 蘭太は項垂れるように深く頷いた。
「……誰が次の当主か聞いたか?」
「聞きました」
 何の感情も読み取れない穏やかな表情。内心を悟られまいとする気遣いが、つい先ほどまで浮かべていた不安までもを拭い去ってしまったがために、取り繕っていることがかえって明らかだ。
 灯以下の術師、蘭太よりも年若い者たち、そして女たち。甚壱は蘭太が炳として、当主の危篤と、逝去から来る不安を助長しないよう気を回していただろう者達を思い浮かべた。
 背に庇うべき者のいずれにも属さない自分を相手になら気を抜いていいはずだったが、甘えていいと、差し伸べてやれる手は持ち合わせない。
「どう思う?」
「……今までと同じとはいかないでしょう。正直に言えば、不安です」
 口に出したことで気が緩んだか、蘭太の肩から力が抜ける。意見を求めるように向けられた目を、甚壱は正面から受けた。
「なるようになる。禪院家はそうやって続いてきた」
「他の方にも言われました。でも、前の時のことは覚えていないんです」
「俺も覚えていない」
 甚壱の相槌を聞いた蘭太がはっとしたのを、首を振って否定する。甚壱が当時のことを覚えていないのは、父を亡くしたからという感傷的な理由ではなかった。
「忙しかったからな」
 計画を漏らす気はなかった。
 伝えて安心を与えてやれるものでないのだから、言う意味もなかった。

投稿日:2022年10月15日