文化的な生活

マニアモードクリア時のエンディング後の設定です。

 招集がかかれば応じなければならないとはいえ、三賢人にも休日はあった。文献に載っている料理を、極力同じ材料を用いて作って食べる。それがミハイルの密やかな楽しみだった。
「何だ、アレはないのか」
「アレは時間も手間もかかるんじゃ。来るか来んかも分からん者のために用意してやる義理はない。どうしてもと言うのなら毎回来るんじゃな」
 ミハイルが作る料理を当て込んで訪れたのだろう。職務姿のまま現れたトーマスは、ぶら下げてきた酒瓶をテーブルに載せた。法と設計図に則り折り目正しく造られた部屋の中で、ミハイルが趣味で集めた家具は異彩を放っている。一見何の変哲もない水屋戸棚も、よくよく見れば天然木を捻じ曲げて作られた方形と円形が組み合わさってできているのだ。
 勝手知ったるなんとやらで戸棚からタンブラーグラスを取り出したトーマスの背に、ミハイルは「その酒なら右のグラスがよい」と声を掛けた。ミハイルとは別の伝手を持っているのか、トーマスが持ってくる酒は手に入りにくいものが多い。今も出回っているものだとしても、その時期の新酒を仕入れてくるなどの憎いことをするものだから、やりづらいことこの上ない。ミハイルは洗い直す必要がない程度に使っている食器をもう一客引き出した。

   ◇

「――これか?」
 ミハイルの声に従って冷蔵庫を開けたグレイは食品保存容器を取り出した。首を傾けて中を覗き込み、様子をミハイルに報告する。白茶色く固まったものの中に薄い茶色と濃い茶色のマーブル模様の塊。フタの色は赤。
『そう、それじゃ』
「なんなんだこれ?」
『豚の角煮じゃ』
「ブタノカクニ」
 グレイがオウム返しに言うと、ミハイルは小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
『説明が必要かの。ブタという生き物の肉を酒とショウユと砂糖で煮込んだものじゃ。ブタは飼料がかかるゆえあまり生育されておらん。ここだけの話、ちょっとした贅沢じゃな』
「これを食べるのか……」
 脂が固まっているせいでおいしそうとは思えない見た目になっているそれを、グレイはそっとザックに仕舞った。移動中に溶けて大変なことにならないかが気がかりだった。
『トーマスのやつがそれを気に入っておってな。……全く忌ま忌ましいことじゃ』
 たった今『豚の角煮』を知ったグレイには豚の角煮一人前の適正量が分からなかったが、ミハイルの年齢と体格を考えるに、一人でこの量を食べるとは考えづらかった。トーマスの名前を出したことからしても、そうなのだろう。
「大事に食べるよ」
『大事になどせんでいい。捨てても構わんのだからの』
 捨ててもいいものならわざわざ取りには行かせないだろう。グレイは立ち上がると、主が戻ることのない、荒れた室内を見回した。

投稿日:2017年11月12日
三賢人の人間関係を考えるのが好きです。私はマニアモードを自力クリアできていないので、私のゲーム機の中のZXA世界は今日も平和です。