かわいいひと

「どっちがいいと思いますか?」
 後ろから甚壱に抱きついた蘭太は、その程度ではびくともしない背中にのしりと体重を預けつつ、自らのスマートフォンの中にあるスクリーンショットを見せた。甚壱が蘭太ほどスニーカーにこだわりがないことは承知の上だ。
「どちらも買えばいいだろう。費用は俺が出す」
「だめですよ。次の休みにご一緒するときに履くんです。一度に履けるのは一足なので」
 見ることは見るものの案の定な返事に、蘭太は頭をぐりぐりと押し付けて抗議した。
「……泊まりで二日行けば」
「だめですよ」
 思ったよりも冷たくなってしまった声をごまかすために、蘭太はこつんと頭をぶつける。されるがままになっていた甚壱は、仕方なさそうに蘭太のスマートフォンを受け取ると、二枚の画像を見比べる。
「こっち」
「ありがとうございます!」
 ぱっと甚壱の背中から離れた蘭太は、裏で開いていたアプリで決済を済ませてから、不満そうにしている甚壱に目を戻す。一足だけだろうと支払いを持とうとしていたことは分かっているので、ひょいと眉を上げる。衣食住が保証されているこの家で、自分の金を使うのは意外と難しい。
「甚壱さんの服を買わせてくれるならいいですよ」
「甘えてくれたほうが嬉しいものだ」
「年下の可愛げは分かりますけど、俺、甚壱さんみたいにかっこよくなりたいんですよね」
「俺のかっこよさは支払い能力だけか?」
 蘭太はスマートフォンを畳に置くと、にまりと笑った。
「全部かっこいいです。でも最近可愛いところも増えました」
「……見習ってくれ」

投稿日:2021年7月18日