決勝進出

 試合終了のホイッスルが鳴り響いた瞬間、蘭太は日常生活ではめったに見られない、内側から弾けるような喜び方をした。テレビに映った得点は2対3。蘭太が応援しているチームは負けていたが、甚壱が前の試合の得点と合算になるのだということを思い出すのと同時に、5対3に切り替わる演出がなされた。
「やりましたよ甚壱さん!!」
 何の力加減もなく、テレビの中で選手がしているのと同じ勢いで抱きついてきた蘭太は、それでもまだ興奮が収まらないのか、甚壱の頬に熱烈なキスをした。甚壱は首っ玉にかじりついたままテレビを見る蘭太の感極まった顔を見てから、勝敗が決する直前に手に取ったビールの瓶を傾ける。FC公式ビールなのだというそれが自室の冷蔵庫に入っている時期が、甚壱にとってのサッカーのシーズンだ。
 生ハムにチーズ、緑と黒のオリーブ。蘭太がつまみとして持ってきた、ほとんど残っていないそれらを適当にバゲットの上に載せて口元に差し出すと、蘭太はぱくりと口を開けた。一口含んだところで手を離す。甚壱の首から片手を離して、蘭太は自分でバゲットを口に押し込んだ。現地時間で宵の口から始まる試合は、日本時間の明け方に終わる。だらだらと飲み続けていても、小腹が空いた気になる時間だった。
「今日はやめておくか?」
「なんでですか?」
「余韻に浸りたいだろう」
「あはは、拗ねてるんですか。やりますよ。したいです」
 言うが早いか、リモコンを手にした蘭太はテレビを消した。飲みかけだったビールを飲み干し、残ったつまみの皿を気持ちだけ遠くに押しやると、首にかけていたタオルを取っておざなりに手を拭く。
「失礼しますね」
 蘭太はあぐらをかいている甚壱の着物の裾から手を滑り込ませると、パンツの上から甚壱のペニスをさすった。もどかしさのある布越しの愛撫を加えながら、冷めやらない興奮を移そうとするように、甚壱の目を見つめてから唇に口づける。先程衝動に任せて押し付けてきたものとは違う、甚壱の反応を誘い出そうという意思が感じられる口づけだった。こうなると蘭太の表情にある熱っぽさが、贔屓のチームが決勝進出を決めたこととセックスへの期待、どちらに起因するものなのか分からなくなってくる。
 甚壱が舌を吸い返しながら腰に手を回すと、蘭太は「あ、待ってください」と手に手を重ねて引き留めた。この期に及んで掛けられた「待った」に不服顔をする甚壱の鼻先に唇を落とし、蘭太は笑った。
「違うんですよ、準備してから来たからアナルプラグが入ってて」
「……」
「早く甚壱さんがほしかったんです。許してください」
「……待たせたのはお前だろう」
「甚壱さんが一緒に観てくれるって言うから」
 ハーフタイムを入れると二時間弱。甚壱は挿入部の乾きを危惧したが、甚壱の肩を支えにした蘭太は、中に仕込んだローションを馴染ませているらしい音をさせてから、後ろ手にアナルプラグを抜き取った。
「今度こそ大丈夫です」
 やり遂げた顔で笑った蘭太は、膨らみを増した甚壱の股間を嬉しそうに撫でた。

投稿日:2021年7月17日