ルーチントーク

 露見したきっかけは、揃って朝寝できる機会を喜ぶ蘭太に対して、甚壱が歯切れの悪い返事をしたことだった。
 寝そべったまま聞く話ではないと察した蘭太が体を起こそうとするのを、甚壱が力ずくで布団に押し留めようとする。そう何度も丸め込まれてたまるかと、すったもんだした末に押し負けた蘭太は、甚壱の腕に頭を乗せた状態で、ピロートークには全く向かない話に耳を傾けた。

「――突き詰めればただの墓参りだ。大した行事じゃない」
 話し終えた甚壱は、サボりの正当性を主張するにしては弱い声で言った。
 語調は弱いくせに、抱きしめる腕の力は随分と強い。蘭太には真面目な話をする時には姿勢を正す習性があったから、それを利用した口封じなのは明らかだった。
 彼我の膂力差から抱擁を抜けられず、蘭太は効果の見込めない抗議をする代わりに、甚壱の胸に唇を押し当てた。
 鼻で吸った息を、甚壱の肌に付けたままの口から吐く。放屁に似た音が高らかに鳴った。
「蘭太!」
 甚壱の口から、叱責というよりは驚きに近い声が飛び出す。
 蘭太は身を引いた甚壱を追いかけて、もう一度音を出してやろうと肌に口を付けたが、息を吹き込む直前にたまらず笑い出してしまう。こんな馬鹿げた遊びをしたのは子供の頃以来だ。今さら真面目くさった顔を作ることもできず、笑いを引っ込められないまま甚壱の顔を見上げた。
「行くべきです。お供します」
「寝ていなくていいのか?」
「そう言われると惜しいですね」
「そうだろう」
 蘭太はだからサボろうと言い出しそうな甚壱の腰に手を置いた。汗は引いていたが、どことなくしっとりしている。パンツの穿き込み口を指先で探ると、素早く甚壱の手に防がれた。甚壱は鹿爪らしい顔で首を振るが、禪院家の行事をずる休みするつもりだったと分かっている状態では説得力に欠ける。
「じゃあ目覚ましを掛けないでおきますから、甚壱さんが起きた時に寝てたら置いて行って、起きていたらお連れください」
「分かった。起こしてやる」
「気にしないでください。起きたらちゃんと行きますから。五分の確率です」
「蘭太だけ寝ているのはずるい」
「甚壱さんはどうせ起きるじゃないですか。知ってますよ。明け方に起きて抜け出して、こっそり戻ってきてるの」
「……一緒に行ってくれ。楽しみがないとやってられん」
「仕方ないですね」
 蘭太は自分が最初に随伴を申し出たことは忘れたような顔で頷いた。

投稿日:2022年8月3日
蘭太より甚壱の方が参加必須の行事が多いと思います。