友人の「ゴローに対する思いを募らせた末にちんこだけ貸してほしいと頼むシライ」というネタを借りて書きました。以下のものが含まれます。
- 合意の上での性行為
- 同性愛者で、男性経験が豊富なシライ
- 女性経験があるゴロー
- シライからゴローへの恋愛感情
窮余の一策
口に溜まった唾を飲み込んだシライは、ゴムの味しかしないことを不満に思った。
シライの検査結果はクリーンだし、ゴローの側に問題があれば、ゴローは行為自体を承諾しないだろう。オーラルセックスでもコンドームを付けるという教科書通りのセーファーセックスに、シライは意義を見出だせない。
しかも、ゴローはホテルに来る前にシャワーを浴びている。寛げた衣服の下からは仄かに石鹸の香りがするだけで、朝から働き詰めの男の体臭は感じられない。ワンナイトの関係なら加点対象になり得ても、行為の無意味さを諭された上で見せられる気遣いは、感情のやり場に困るだけだ。
それでも、受けてくれただけ良しとすべきだ。
ゴローの足の間に入り込んだシライは、間違っても起きない「ゴローが自分にハメたくなる」という妄想を頭の中で流しつつ、ピンク色のゴムに包まれた陰茎を手でしごいた。
硬くて、太くて、長い。体格と陰茎のサイズが正の相関にないことを知っていても、ゴローの陰茎はいかにもゴローの股間にありそうな形をしていた。自分の尻に入れたらどのあたりまで来るか。軽く想像するだけで、万一に備えて慣らしてきた内側がじんと熱くなる。少ないからこそマイノリティ。異性愛者だろうゴローに勃起を見せないための配慮で、シライは服を着たままにしているから、留め具を一切外していないズボンの下は痛いくらいだった。
「隊長、退屈してねえ?」
漏れてしまいそうな期待を揶揄で包んで、シライは柔らかすぎるソファに沈んだゴローを見上げる。
ゴローが座っているソファの正面、シライの背後にある大型テレビでは、VODの映像が流れている。人気ランキング1位はもちろん男女のセックスで、シライはゴローのセクシュアリティを確かめることなく決定ボタンを押した。
シライに寄越されたゴローの目は業務資料に向けるものと同じだったが、手の中にあるものは膣どころか尻でも充分に貫ける硬さだ。返事がなくても、視線と感触だけで満足感がある。
冷めきった視線を外されて、黙って奉仕しろと頭を押さえられる。映像と連動するオナホール扱い――そういうのもアリだな、とシライは心のフォルダにゴローの反応を保存する。
「いいならいーけどよ」
沈黙よりも口寂しさに耐え切れず、シライは再びゴローの陰茎を口に含んだ。コンドームに覆われた表面は先走りを感じられず、快感の度合いは体積と温度の変化だけが頼りだ。
亀頭のくびれを唇で挟み、短い間隔で吸い立てる。ゴローが刺激に慣れてしまわないうちに深めに咥え直して、添えた手に残る長さに、シライは目を細めた。これほどの大きさがあれば、日頃のシライが深いと感じるところより、もっと奥まで入るだろう。
鼻から息を吐いて、吸い直して、陰茎に添えていた手をゴローの太腿に移動させる。手のひらの下にある分厚い筋肉が反応を示すから、ちゃんと感覚あるんじゃねえか、とおもしろくなる。
シライは物理的な苦しさが生まれるところまでゴローを飲み込んだ。今のゴローの目はどこに向いているのか。自分の尻に興味を示してくれたらいいのに。おもちゃでも入れてくればよかったと思いながら、シライは長めのストロークを繰り返す。テレビの音では消しきれないかぽかぽという間抜けな音。涎でゴローの服を汚さないようにしたくても、飲み込んだそばから溢れてくる。シライは一旦動くのをやめて、咥えたまま唾を飲み込んだ。
そこで、後頭部に重みが乗った。
舐めるのをやめさせるのではなく、かといって続きを強いるのでもない。そっと、と言っていいような優しい手つきで髪を梳かれる。
口の中の陰茎は直接脳を犯されているくらいの存在感があるのに、シライの意識は大部分がゴローの手に割かれていた。シライの変化に気付いたか、温かくて大きな手が、さらにしっかりとシライの頭を撫でる。
「……っ、たいちょ」
長らく喉を塞いでいたせいで、陰茎を吐き出してもすぐには声が出なかった。咳払いを一つしてから、シライはゴローを見上げた。あるのはいつも通りの顰め面だ。
割り切った関係で、プログラムにない行動を取られたのなら、雰囲気を壊さない程度にあしらうのが正解。機嫌を悪くしたり、やめてほしいと縋るのは不正解。自分のキャラクターを考えれば、挑発的に笑うくらいで丁度いい。
「体だけの相手にそういう湿っぽいのは過失なんだよ、加湿だけに」
分かっているのに、シライが絞り出せたのは苦笑いだった。
◇
ソファの上で膝立ちになったシライは、その体勢を取らせた張本人であるゴローを見下ろした。柔らかいソファの上は安定が悪く、シライは仕方なくゴローの肩に手を置き支えにする。
「おれがここにいたんじゃ見えねぇだろ」
背後のテレビからは相変わらず女の喘ぎ声が聞こえているが、シライの興奮には寄与しない。
出した後さっさと出ていくことだってできたのに、ゴローはそうしなかった。陰茎こそしまったが、ズボンのファスナーは開いたままだ。どれだけ体裁よく整えていても、セックスするときの格好は誰もが滑稽で、だというのに、シライはその格好の間抜けさを笑う気になれない。
もう一度勃たせて、腰を落として、それから。
想像しかけたシライは、自分がまだズボンすら脱いでいないことに気が付いて、つきそうになった溜め息をそっと逃がした。上司をベッドに誘うなんて最上段のバカをやらかしているのに、まだバカになれる余地がある自分の頭の良さに呆れるばかりだ。
「隊長がハメてみたいってんなら喜んでやるけど、それじゃおればっかり得する特異な取引になっちまう。得意だけどな、そういうのも」
ここで断られたら明日から合わせる顔に困る。シライは明け透けな口上を冗談めかして口にしながらも、表面上は本部の廊下ですれ違ったときと同じ顔を保った。ゴローをホテルに誘い出せたのは運が良かったからだ。すべて織り込み済みで出会う盛り場の相手とは事情が違う。
ゴローの目が、シライの股間に落ちて、またすぐに顔に戻ってくる。
他人の股間をまじまじ見る機会などないだろうゴローがどういう印象を持ったか分からないが、ゴローのものを舐めただけで股間を硬くしているシライとしては、照れくささを混ぜて笑ってみるほかに反応のしようがない。謝るのも違う気がして、むずむずする口を閉じたまま、ゴローに自分の股間を擦り寄せないよう気を引き締める。駆け出したがる犬のリードを引くよりは簡単だ。
「舐めるだけでこうなるのか」
羞恥を煽る目的ではない、純粋な疑問といった風な声だった。おかげで、シライは余計に恥ずかしくなった。
「梅干し想像したら唾が出るのと変わらねぇよ。隊長だって乳揉んでるうちに勃起するとかあんだろ」
言ってみたが、ゴローが女の胸を揉む場面の想像が上手くできない。ヤッてるときの映像売ってくれねえかな、なんて冗談を思いついて、本当に欲しくなりそうで考えるのをやめる。ゴローがどうやって女を抱くのかを見られたら、この先半年間は確実におかずに困らない。
「隊長が興味あんなら脱いでもいい」
シライはゴローの肩から片手を離し、目立つ傷のある頭に触れた。髭を剃ったばかりの顎に触れるような手触りだ。ゴロー本人はどうか知らないが、髪の生えた頭を触るよりも温かい。胸の内側、見ないようにしている中空に「好き」という言葉がぽんと浮かんで、シライは胸焼けのような痛みを呼吸することで逃がす。自分がゴローを欲する理由は、性欲だけであってほしかった。
「……ここに来る前に、おまえ自身が言った言葉を覚えているか?」
「さあ、忘れちまった」
嘘だ。覚えている。巻戻士という職業でおいそれと忘れることはない。おかげで、まさか、という期待が滲み出す。シライはそれを言った後に付け足した、保険の方の台詞を理由にしてゴローのものを舐めたのだ。今ならまだ引き返せるという警告が耳の奥で鳴る。ソファから降りればそれで終いだ。
ゴローの手が腰の後ろに回る。下手な背もたれを使うよりもずっと安定感のある手だ。体重を預けてしまいそうになって、シライは体のバランスを取り直す。膝の間にあるゴローの足を意識してしまったが、それはそれ、これはこれだ。
「昔に、腹が減らないかと聞いてきたな。おまえが飯を食いたいだけなのに」
「何の話だよ」
しらばっくれていることはバレている。ゴローと目を合わせた状態で嘘をつけるようなら、もっとずっと上手くやれている。こんな場所に誘い出したりなんかしなかった。
「自分のことになると回りくどくなるのは、変わっていないという話だ」
ゴローの手に力が入る。膝の上に腰を下ろせという意味だ。拒否を示すために首を振ってしまったシライは、ゴローの表情の変化に、先ほど白を切ったことが早速無駄になったことを悟った。
体が熱を持ち始めた理由は、ゴローの手のひらから伝わる体温だけでは説明がつかなかった。
◇
なんで。
ソファの座面に横たわったシライの頭の中にあるのはそればかりだった。
すぐに使える状態だと伝えたのに、ゴローが前戯の時間を取ったのは仕方ない。今日この日のやり取りだけで、ゴローが一方的な行為を好まないタイプだと判っている。内腿に口づけられたのもまだいい。気分を盛り上げるのにはある程度の段取りが必要だ。助走みたいなものだ。
だが、性器を舐められるのは計算外だった。
温かい舌がゴム越しに這う。はっきり言って気持ちよくない。女の股を舐めるときはこれくらいの力加減がベストなのかもしれないが、男であるシライには刺激が足りない。それなのに、シライの陰茎は一向に萎える様子がない。ゴローの指が穴の方にも触れているせいだ。
自販機で買ったローション、プラス、中に残っている事前に仕込むときに使ったジェル。それらを穴の表面に塗り伸ばすみたいに撫でられて、元から緩んでいる穴が、ゴローの指を呑み込みたくてひくつく。一本でいいから入れてほしい。シライは頭を起こして、シライの陰茎を大事なもののように扱っているゴローを見下ろした。
ゴローはシライの視線に気付いても、シライがやるような、見せつけるような舐め方はしない。うろ覚えの道を案内するような、ある種の気まずさすら漂わせている。支えている手の方は流石に加減に馴染みがあって、円を描くように先端を擦られたシライは足を突っ張らせた。
「む……」
顔を上げたゴローに気遣わしげな眼差しを向けられて、恥ずかしさから蹴り飛ばしたくなる。
「隊長、おれそれもういいから」
痛かったわけではない。分かっているだろう。言外の訴えが通じたかどうか、ゴローの目つきからは分からない。
「……そろそろ指入れてくれ。嫌じゃねぇなら」
シライは行為のためだけに会う相手に対してする、婉曲で卑猥な物言いを投げ捨てて言った。
ソファは用途としてセックスも含まれているサイズだったが、体格のいい男二人が乗ってあれこれするにはギリギリの大きさだ。再度跨がるなり、ベッドへの移動を打診するなり、好きに動こうと思えばいくらでもできるのにしないのは、比喩ではなく本当に夢にまで見たことがあるゴローとのセックスが叶いそうだからだ。下手を打ってお流れになるのが惜しい。
ゴローの目がローテーブルに向く。コンドームの使用が徹底している。衛生の話をするなら肛門を触る前に使っているはずで、それなら、今使う気になったのはシライの内側を傷つけないためだ。何なんだよ、と何度目かの文句がシライの頭の中で噴き上がる。
個包装を開けるのを待つ間の無言。シライは呼吸を整えて、受け入れるための心づもりをする。指を入れてくれと頼んだのは失敗だった。性器そのものをねだっておけばよかった。先にまさぐられた胸が今になって疼く。肌に髭がこすれる感触が蘇る。髭の生えた相手とするのは初めてではない。体の相性が良かった相手に生やしてみないかと促したことがあるくらいだ。それなのに、今まで得てきたすべての感覚が上書きされている。まるで初めてセックスしているような気分だった。
「今から入れる」
言われて、シライは腰を持ち上げる。慣れた仕草を見せて、ゴローにどう思われるかを考える段階はとっくに過ぎている。予めほぐしておいた甲斐あって抵抗なく入ってきたゴローの指を、締め付けすぎないように息を抜く。緩いと思われたくはないが、狭いと思われて再び念入りにほぐされるのも困る。女と比べれば手応えに欠けるだろう中を探るゴローに、シライは視線を送った。
「何ともねぇだろ。三本までなら余裕で入る」
「試してもいいか?」
「どーぞ」
間にゴローのものを慰めたくても、シライの側からは届かない。ひっくり返されたカエルみたいな間抜けなポーズで、ゴローの頭を眺めるしかない。
指が二本。知った上でか、偶然か、シライにとって気持ちのいい場所にゴローの指先が触れる。言わずともゴローには反応で気づかれているだろう。シライはゴローの頭から目を逸らし、声を出すかどうかどうかを考える。シライはすっかり意識の外にやっていたが、アダルトビデオは今も上映中だ。
ゴローの妨げになる可能性を考えて、シライは声を出さないほうを選んだ。最初に反応を見せてしまったせいで、ゴローが前立腺を撫でてくる。指が膨らみを越えるたびにじわりと快感が広がり、拒むつもりはないのに力を入れてしまう。指二本じゃ足りない。シライが抵抗したせいで指を抜きづらくなったか、ゴローは指を抜き差しするのをやめた。
今ゴローのほうを見れば目が合うだろう。シライはゴローの視線を肌で感じながら、ローテーブルの上にある未開封のコンドームを見る。触ってほしいのは指でじゃない。
頭の中で「目を見て話せ」とゴローの声が響く。今言われたことではないのに、ゴローのほうを見なければならないような気がしてくる。
覚悟を決める深呼吸の間に、ゴローに指を抜かれる。寒々しいほどの喪失感があった。
シライは目を上げた。
「ベッドに移動しても構わないか?」
シライが何も言わないうちからの提案。予想外の展開に驚いているシライに、ゴローが怪訝そうな視線を寄越す。
「ここはやりづらい」
「……そ、だな」
起き上がるために腰を起こそうとして、座面の柔らかさのせいで思うように力が入らずに手間取る。先に足を床に下ろせばいいと気づいたときには、体が宙に浮いていた。
「隊長!?」
「暴れるな。落とす」
簡単に持ち上げられるような重さではない。とっさに重心をゴローのほうに傾けたのが悪かった。抱えやすく手助けしてしまったおかげで、シライは有無を言わさずベッドまで運ばれることになった。
◇
「正面からはねぇだろ」
「だが、おまえがおれとやりたいのならこうするのが最善だ」
臆面もなく言い切られてしまえば、誘ったシライとしてはぐうの音も出ない。相手はゴローでなくとも構わない風に聞こえる言い方をしたはずだったが、バレている以上、誤魔化すのは馬鹿らしかった。ゴローのことが好きかどうかは曖昧だが、ゴローとセックスしたいという欲求は明確にある。
シライは仏頂面を作ったまま、ゴローに向かって両手を差し伸べた。ガキ同然の頃から知っている部下の顔を、正面に見据えながらの性行為。しかも性的指向にない方の性別。勃起不全の原因になりえるシチュエーションだったが、ゴローができると言うのなら任せるしかない。
「もう少し待て」
ゴローは腕の間に入らなかった。シライの尻への挿入を、先に単独で済ませるつもりらしい。シライの肛門はともかく、ゴローの陰茎は他人の体に入れるための器官なのだから、押し当てられる感触自体は指よりも穏やかだ。
シライは手持ち無沙汰になった手で枕を引き寄せ腰の下に挟んだ。二人分の体重を長時間支えるのは腰への負担が大きい。
「んなに慎重に確かめなくても間違えっこねぇよ。一個しかねぇん……っ」
「……きついな」
シライは自身の膝裏を持っている、このまま時間をかければ引き下がってしまいそうなゴローの手を軽く叩いた。
「大丈夫だって。入るから入れてくれ」
これくらいの窮屈さなら続けるのに支障はない。シライは天井を見上げながら、舐めるときに見たゴローの形を思い出す。腹のあたりが太いから、一度奥まで入れて慣らしておきたい。手っ取り早く解決するならローションをぶちまければよかったが、ボトルはソファに置いてきてしまった。
乗って、自重を使った方が早いか。幸いカリは通っている気配がある。ゴローが動くたびに体ごと押し上げられそうだった。シングルベッドなら端を掴めばよかったが、キングサイズではそうはいかない。迷っているうちにゴローの手に腰を掴まれる。確かに、そうするのが一番確実だ。
「う……ふっ……ッ」
力の抜き方は分かっている。足が浮いているから踏ん張りは利かない。体の内側をずりずりとゴローの体温に侵食されたシライは、その分だけ遠くなった感覚を手のほうに回す。乾いたシーツを握る。そちらに集中したくとも、腰を掴むゴローの手のひらばかりが気に掛かる。目を開ければ名のある彫刻家が丹精込めて造り上げたような筋肉が目に入り、統計が示す肉体年齢のピークを疑いたくなった。
「つらいときは言え」
目処がついたのか、ようやく覆いかぶさる体勢を取ったゴローの顔をシライは見た。気持ちいいのを堪えていると解釈するには難しすぎる顔だ。
「隊長がおれの言うこと聞く気あるなんて珍しいじゃねぇか」
シライはゴローの顔に手を伸ばして、眉間の皺を指で伸ばす。眉毛のない、筋肉が盛り上がっているだけの場所だ。伸ばしたって皺は一向に減らないばかりか、より一層深くなった。シライはゴローの表情を和らげることを諦めて、緩んだところを見たことがない頬に手を触れた。骨がない分だけ、頭を触るよりは柔らかい。
「根がいいやつな隊長にお願い」
コンドーム越しでも関係ない、苦しいほどに力強さを感じる太さだ。擦られて生じる熱はどれほどになるか。深く息を吸ってみてもちっとも楽にならないことが、シライの満足感を高める。
「おれが苦しそうに見えても、隊長が痛くなけりゃ続けてくれ」
「……残念だが、それはできない」
ここまでの無茶を聞いてきたゴローに、断るという選択肢があると思っていなかった。シライは目を丸くしながら、自分の尻に入っているものが間違いなくゴローであることを確かめる。見えないが、間違いはなさそうだった。意識を下肢に向けている間に、ゴローの頬に残したままの手を取られて、ベッドの上に押し付けられる。体重を掛けないようにしているらしいことが感じられた。
「おまえはどうだか知らないが、おれにとってこの行為は、そういう風にするものではないからだ」
「なるほど」
その場しのぎの相槌だ。納得しているわけではない。同じ職に就いているながら、来し方の違いから、完全な同調は難しいことも察せられる。
「……じゃあ、普通でいいや。隊長のいつものやつで」
シライとしては譲歩したつもりだったのに、ゴローの眉間の皺は消えなかった。
◇
「隊長はラブホの飯食えるタイプ?」
「……食ったことがない」
「んじゃ食おうぜ。結構うまい」
シライは沈黙を埋め続けてくれた映像に別れを告げて、部屋で頼めるサービスのメニューを大写しにする。コスプレ衣装とフードメニューが同列に並ぶオーダーシステムは、大画面で見ると画質が少しばかり粗い。ゴローとスナックをつまみながらだらだらと話すところが想像できず、シライは画面表示をカレーやハンバーグといった食事系の項目に合わせる。
「せっかくだから服も借りるか?」
「いらん」
「大体サイズねぇもんな」
「……借りたことがあるのか」
「おっ、気になる?」
タッチパネルとして画面を操作するためにテレビの前に移動していたシライは、ゴローが雑談に乗ってくれただけだと知りつつも、ゴローの顔を見るためにソファに逆向きに乗り上げる。ベッドに座るゴローは賢者モードを図示したようにつまらなさそうな顔をしている。元からと言えば元からだ。
「試しに借りてみたけど、ボタンが閉まらねぇから着られずじまい。ちなみにおまわりさんのコスプレ。時空警察が笑えるだろ」
そのときの相手が誰かと聞かれないのは分かっている。シライだって、ゴローに今までの相手のことは聞かなかった。膝に乗せても重くなくて、対面座位で無理なく密着できる、抱き合っているときに結合部が乾いてくる心配のない性別。体位を変えようとしたゴローの引っ掛かりに気づかないほど、シライの経験は浅くない。
「シライ」
「ん?」
「こっちに来い。リモコンならここでも使えるだろう」
「……おう」
怒られんのかな。シライは近頃のできごとをザッピングする。思い当たる節がないではないが、今この場で言われるほどのことではないはずだ。ゴローがセックスしたすぐ後に説教に入れる人間だというのは流石に嫌だし、今回のセックスは共犯だと思いたい。
毒を食らわば皿まで。リモコンを持って移動したシライは、ゴローに思い切りくっついて座ってみた。汗を掻いた肌が予定以上の密着感を生み出して、感覚が気持ち悪いの方に傾いてしまわないよう、あえてぐいぐいと肩をぶつけにいく。
「やりすぎだ」
「うおっ」
ゴローに抱き寄せられるというのは、長い巻戻士人生の中で初めてのできごとだ。いつの間にシライの手から取ったのか、ゴローは何でもないような顔でリモコンを操作している。携帯で慣れているからか、指が太くともボタンの操作に支障はなさそうだ。
「……隊長」
体温。指先。ゴローの汗の匂い。
考えるより先に、シライはゴローに体を擦り寄せていた。
「飯来るまでにいちゃいちゃしようぜ」
一度目は散々渋ったゴローの腿の上に座るという行為を勢いでクリアする。やばいくらいにデカいな、とシライは尻の下の感触を確かめる。
「おまえは何にするんだ」
「んー……」
シライは首をひねって、テレビに表示されているメニューを見る。画面上の注文ボタンの横に数字が浮かんでいるところを見ると、ゴローはもう何を頼むか決めたのだろう。
忙しいことが原因だろうが、シライはゴローの早飯具合いが潔くて好きだった。そのくせ料亭なんかではしずしずと箸を進めるのがおもしろくていい。
「……クリームパイ?」
「どのあたりだ?」
デザートコーナーを見ようとするゴローの手を、シライはリモコンごと握って、怪訝な顔をしたゴローの目を覗き込む。
「中に出してほしいって意味」
シライは、ゴローがここで乗り気にならないところも好きだと思った。
- 投稿日:2026年3月13日
- 友人が甘々セックスが読みたいと言っていたから書いたはずなのに、改めて読むと甘々セックスのパート完全省略してて驚きました。おかしいな……