以下のものが含まれます。

  • 公共の場での性の話題(直接表現なし)
  • 恋愛感情を伴った合意の上でのセックス

きみの食べ方

 巻戻士本部の食堂のモーニングは定食が基本で、日によってビュッフェ形式になることもある。和洋選べる定食に何一つ不満はなかったが、シライはクロノとベッドを共にした翌朝は、二人で外食することにしている。理由は二つ。明らかにぽやぽやした様子のクロノのことを、クロノの普段を知る人々の目に晒したくなかったというのが一つ。そのクロノに、おじさん顔が緩みすぎだと指摘されたのがもう一つ。今はお互いに慣れたおかげで露骨な変化はしなくなっていたが、朝食のために外に出るのはすっかり習慣となっていた。

 厚切りのトーストの上でじわりととろけるバター。カリカリに焼かれたベーコンと目玉焼き。甘酸っぱく味付けされた細切りの人参の鮮やかなオレンジは、グリーンサラダに散らされた赤と黄色のパプリカと共に皿に彩りを添えている。店内を流れる音楽の大本はレトロな風貌に反して高性能なレコードプレイヤー。常連客の話によれば、店主の親の代でリバイバルブームがあったらしい。
 クロノの色は食えねぇ色なんだよな、とシライはヨーグルトの上でくるりと渦を描いているブルーベリーソースを見てから、トーストにバターを塗るクロノに目をやった。色気より食い気とはよく言ったもの。朝起きたときに胸にあるずっとくっついていたいなんて気持ちは、腹の虫相手の連敗記録を更新中だ。
「飯食うときはなんともねーの?」
 シライが尋ねると、半分に切られたトーストの端をかじったクロノは、もぐもぐと口を動かしながら考えるそぶりを見せる。シライの意図を分かっていないらしい様子は、質問に答えずそのまま二口目にいきそうに見えたが、クロノはトーストを皿に戻してフォークを取り、そこで手を止めた。
「なにがだ?」
 何と言うべきか。自分で水を向けておきながら言いあぐねたシライは、クロノの手前三つでやめていた角砂糖をコーヒーカップに追加する。この店のシュガーポットはテーブル毎に備え付けられていて、いつでもいくつでも入れ放題。ブラック派のクロノがシライに渡すために砂糖をもらうのを見るのも悪くないが、実のところ、スティックシュガー二本ではシライの舌には甘みが足りない。
「……口ん中、気持ちいいだろ、おまえ」
 言葉を選んでみても、内容が朝食どきにそぐわないことには変わりなかった。


 吐息の合間にこぼされた「おじさん」と呼ぶ声。求められていることが分かっても、後ろから突いているときのキスは楽々とはいかない。体勢を変えるのも一手だったが、シライはそのまま後ろからクロノを組み敷く方を選んだ。
 自分の体にすっぽり隠れてしまう背中に伸し掛かり、すっかり熟れきった中をこね回してやりながら、外では聞けない甘えた声を漏らす口元に手を添える。唾液に塗れた唇を撫で、無警戒に緩んだところに指を含ませる。シライを包みこんだ後ろと同じくらい熱くぬめっている舌を撫でながら腰を動かせば、クロノはまるで赤ん坊のようにシライの指を吸った。
 口から出る声は静まっても、代わりに鼻を抜ける声は一層甘く、シライの熱を煽り立てる。汗ばんだ尻肉に股間を押し付け、先端を奥に擦り付ける。シライの指を噛むまいとしたクロノが口を開けて、当然明瞭になる喘ぎ声。普段は声を出すのを嫌がるクロノが見せるいじらしさに、シライは堪らず口角を上げた。
 指を抜いて、唾液のぬるつきを最初に触ってそれきりの乳首に塗りつけてやると、シライを咥え込んだ場所がぎゅうっと強く収縮した。恨みがましく向けられた眦に口付けて、「気持ちいいか?」なんて白々しく聞いて、拗ねたらしく返事をしないクロノに「悪ぃ、調子に乗った」と謝りながら、反省はそこそこに引き続き欲望を押し付ける。
 シーツに皺を作る手に手を重ねて腰を揺らせば、クロノの手指がシライの指を締め付ける。薄暗くても分かるくらい真っ赤に染まった耳とうなじに愛おしさが込み上げて、同時に別のものも根っこの部分から込み上げる。皮膜に遮られると知っていてもなるべく奥の方で出そうとするのは本能で、震えるクロノの体を抱き込んで、最後の一滴まで注ぎ込む。クロノの内側が締まるのを、精液を搾り取ろうとしていると思うのは都合のいい妄想だろうか。
 体を離して、役目を終えたスキンを始末したあと、シライは満を持してクロノを抱き締めた。汗の滲んだ額を撫で、涙をこぼした跡が残る目元に口付ける。それから唇にお疲れさまのキスをして、穏やかにピロートークに入るつもりが、軽い触れ合いで済まさずに舌を入れてきたのはクロノの方だった。


 結局盛り上がっちまったな、と、下手に思い出せば別なところも盛り上がりそうな回想をシライは打ち切った。
 丁度いい甘さになったカフェオレを一口飲んで、バターを塗った上にいちごジャムを重ねたトーストをかじる。シライの問いの肝を理解したらしいクロノはシライの発言を咎める風もなく、サラダのレタスをパプリカもろとも口に押し込んだ。唇に付いてしまったらしいドレッシングをぺろりと舐める。
「その考え方でいくとおれはウン……トイレでも気持ちいいことになるだろ」
「違ぇの?」
「違う。おじさんおれを何だと思ってるんだ」
「最高に可愛くて格好いいおれの彼氏」
「……」
質すまでもねぇだろ。不満なら正すから遠慮なく言えよ」
 シライは目玉焼きの黄身にぷすりと穴を開けて、白身の端を切り離した。目玉焼きは丸のままのトーストに乗せても垂れてくるから、トーストが半分に切れているとなれば各個撃破が順当だ。
「……おじさん、ここ外だぞ」
「もっと先に言うべきだろ、それ」
 クロノはそれっきり皿に集中しているように見えたのに、珍しく目玉焼きの黄身をすくい損ねていた。

投稿日:2025年5月29日
梢菜さんの描かれるクロノって口を触られるの好きですよね、という話から。