以下のものが含まれます。
- 洗脳
- シライからクロノへの愛撫・思考誘導
- モブ×クロノの挿入行為
- モブ×クロノを許容しているシライ
- 脱出エンドの匂わせ
掌中の珠
ふわふわして気持ちいい。まさに夢見心地の中で目を開けたクロノは、部屋の明るさを意外に思った。よくこんな明るい中で眠っていられたものだと思う。
「起きたのか」
見慣れない天井を訝しむより先に、耳慣れた声が聞こえてくる。深い安堵を感じる響きを追って目をやれば、予想と違わずシライの顔がそこにあった。余程疲れているのか、それとも照明を背にしているせいか、目元に掛かる影がいつも以上に濃い。
「おじさん」
「寝てていいぞ。おれがやるから」
表情の割にまるで平気な風に言うシライに「何を」と問う前に、クロノは体の違和感に気付いた。尻の穴に何かが入っている。
おむつをしていた頃ならいざ知らず、寝ぼけておしっこを漏らすことなんて記憶の限りない。ましてやうんこはもっとないだろう。
そわりとした焦りが熱となって背筋を撫で、確認しようとするクロノの頭を、シライは大丈夫だと言うように撫でた。
「今気付いたのか? よく寝てたもんな。疲れたんだろ、突かれすぎて」
ちゅっと額に唇を落とされる。今までシライにそんなことをされたことはなかった。ぎょっとしたクロノはシライを見るが、シライはクロノの驚きを知らぬふりで、続けて唇を吸おうとする。
「おじさん、やめて」
クロノはシライの口元に手をやった。温かくて柔らかい。頭に浮かんだ言葉の響きだけなら安らぎがありそうな、けれどもそれは他人の触れるはずのない部分に触れている落ち着かなさがあって、相手がシライだと思っても生じる感情に変化はなかった。
止められたシライはクロノに口づけを強要することなく、不思議そうな顔でクロノを見る。尻に埋め込まれていた違和感がずるりと抜け去る。その正体を目で追って、クロノはそれがシライの指だったことに気付いて血の気を引かせた。
「おじさん、何してるんだ」
「何って……」
シライの目がクロノから離れてシライの背後に振られる。視線の先には大きな鏡があった。
「……戻って来た。こっちからは見えねえけどな。まあじっくりご覧なさいってな、マジックミラーだけに」
聞こえた声の冷静さに、シライの正気を疑っていたクロノはひとまず落ち着きを取り戻した。何か事情があるらしい。まだ尻の穴に残っている違和感をやりすごしながら、クロノは自分が寝落ちている間にこの状況について探りを入れたらしいシライの説明を待った。
「扉は二重扉だ。内と外、どちらか片方のロックが掛かってからしか開かねえ仕組みになってる」
クロノが出入り口を見ようと体を起こした。
壁の鏡――シライ曰くマジックミラー――を見て初めて、クロノは自分が素っ裸であることに気が付いた。改めて見ればシライも裸だ。驚いてあたりを見回すと、部屋の床にはビニール製の畳のようなものが敷き詰められている。
「おじさん、ここ、どこだ?」
「話は終わりだ。寝転べ。抵抗さえしなけりゃ、あとはフリだけでいい」
クロノを押し倒したシライは、クロノの上に覆い被さった。先にクロノがキスを拒んだからか、唇が触れそうな距離ながら何もしない。その代わりとでも言うように、クロノの足を広げて間に自分の膝を入れ込んだ。
「覚えてねえならそれでいい。中もあらかた出せてる。もし腹が痛くなったら便所はそこの小部屋だ」
クロノが首を巡らせると、透明な板で区切られたブースにモデルルームの展示よろしく便器が鎮座していた。
フリだけでいいと言われても、一体何をしているフリをすればいいのか。
シライに手首を押さえられたクロノはどうしたって気になる鏡を横目で見て、この異様な状況を飲み込むためのヒントが得られないかと目を凝らしてみる。シライはどうやってマジックミラーと判断したのか、鏡の向こうには何者も見えず殺風景な部屋の中の光景を映すのみだ。
普段、寝転んでいるときに自分が足をどうしていたかなどまるで記憶にない。なのにシライがいるせいで閉じられないとなると、今の状態がおかしいような気がしてくる。鏡の中のシライが自分に伸し掛かかる様子は動物の捕食を連想させて、日頃は気にしたことのない彼我の体格差を嫌でも意識させた。
鏡の中の獣が、自分の首筋に顔を埋める。クロノが視線を戻すよりも早く、シライはクロノの首筋に唇をつけた。
ちゅっと軽く、気の所為と思えるようなささやかな、けれども確かな感覚が与えられる。
嫌ではない。嫌ではないけれど、この感覚を受け入れてはいけないような気がする。
「おじさん」
「ん?」
あまりにも近い距離でシライが返事をするものだから、シライは他人の声が自分の喉を震わせるという奇妙な事態に見舞われることになった。
「それ」
「これも嫌か?」
喉仏のあたりをぬろりと舌が這う感触に、クロノは背筋を震わせた。くすぐったいのではない、強い違和感。脳裏によぎるのは先ほど見たばかりの捕食の光景だ。シライが自分の喉笛に歯を立てるさまを想像してしまったクロノは、やましさを覚えて黙り込んだ。無意識に膝を閉じようとして、シライの体があるために叶わないことを思い出す。
「嫌じゃねえ? 続けてもいいか?」
「う、うん……」
シライが言うからには必要なことなのだ。
自分にそう言い聞かせても疑念を払い切れず、クロノは無意識に腕を動かした。体重を掛けないよう緩く握っているだけだったシライの手は、容易く外れてクロノの体の脇に置き直される。
「……これは必要なことなんだよな?」
「必要だ」
「分かった」
クロノは誰にでもなく頷いた。
体の力を抜いて、変に柔らかな床の感触を改めて感じる。異様な事態に心臓がどきどきと脈打っている。落ち着く深く息を吸って、吐く。意識して深呼吸を繰り返していると眠たいような心地よさが広がるのを感じて、クロノは準備を整える自分を見守っているらしいシライと目を合わせた。
シライの目はどことなく眠たげだ。こうなってからどのくらいの時間が経過したのか分からないが、シライはクロノが眠っていた間も現状の把握に努めていたようだから、もしかすると疲れているかもしれない。
「おじさん」
「ん」
ぱちりとシライが瞬いた。見慣れた黄色の目が、たった今クロノがいることに気付いたような軽い驚きを浮かべてクロノの方を見る。
「おれもやりたい。やり方、教えてくれ」
状況を変えるために必要ならシライにだけさせてはいけない。クロノの決意を受け止めて、シライは「そうこなくちゃな」と、にっと笑った。
膝立ちで跨いだシライの腿の上。得体の知らない感覚が体を疼かせて、クロノは支えにしているシライの肩をぐっと掴んだ。眠っていた分元気なはずなのに、既に支えなしでは立っていられない状態だった。
鏡の方を見てろ、とシライは言った。鏡の向こうに何か動きがあれば知らせるようにと言われても、動きも何も、そこにはシライに乳首を舐められ悶えている自分しか映っていない。ただでさえ自分の顔をまじまじと見る機会などないのだ。気持ちいいと顔に書かれた、だらしのない、眉に意志の弱さが浮かぶ顔を見ていられず、クロノは一度目を伏せた。たまたまか、わざとか、そのタイミングでシライの指がもう片方の乳輪の縁をそろりと撫でる。
「……っ」
「どうした?」
異変と思ったか、胸元でシライが尋ねてくる。唾液で濡れた乳首が、そのささやかな空気の動きすら感じ取ってしまう。触られていないのにじわじわと熱を帯びてきている下半身がどうなっているのか、怖くて確かめられない。
「なんでもない……っ」
クロノは首を振った。シライからは鏡が見えていないから、口で伝えるしかない。自分が任された役割を果たすべきだ。クロノはキッと鏡を睨む。しかし決意も虚しくシライの舌が乳頭をちろちろと舐めて、溶けるはずのない自分の体がシライが触れた場所から溶けていくような錯覚が襲ってくる。自分の喉の奥から漏れるのは自分のものとは思えない、思いたくもない甘ったれた声だ。
「気持ち悪ぃか?」
「へ、いき、だ!」
「苦手ならやめるから言っていいぞ。別に修行じゃねーんだ。おれも、おまえの嫌がることはやりたくねぇ」
「大丈夫……ぅひゃっ」
脇腹を撫でられて、クロノはくすぐったさに体を竦めた。シライの潜めた笑い声から、接触がわざとであることを確信する。
「変な声」
「おじさんが変な触り方するからだろ!」
屈めた胸の上にキスをされて、そこじゃないと思ったクロノは、ばかな、と強く首を振った。乳首がじんじんする。それに指を入れられていた名残なのか、肛門に違和感がある。異物感というよりむしろシライの指がないことが物足りないような、もう一度、そこを触られたいような。
そこまで考えて、クロノはもう一度首を振った。
クロノが抱く違和感に勘付いたかのように、シライの両手が尻に回った。尻肉を割り開かれて、けれども違和感の根源には触らない。肛門と陰嚢と間の何だか分からない部分を押し込むように撫でられて、またしても体の中を走り抜けた知らない感覚に、クロノはシライの首に抱きついた。無視できないほどしっかりと勃起した性器の存在を感じて、クロノはせめてシライに気付かれないようにと祈る。
「ここもくすぐってぇの? 緊張してたり怖かったりするとくすぐったさは感じねぇらしいから、いい兆候だな」
シライの声を聞きながらクロノは鏡を見続ける。任務なのに、耳まで赤くし呆けたような自分の顔がそこにある。このまま座り込んでしまいたい。シライの目の前なのに自分の陰茎を擦りたい。シライが触らなくなった胸がむずむずして、このままどうにか胸を擦り寄せられないかと考える。舐めるんじゃなくて噛まれてもいい。もっと強い刺激が欲しかった。
いけない。クロノはぐっと堪えて背筋を伸ばした。おかげですっかり勃ち上がっている自分の性器を目でも見てしまったが、気にしている場合ではない。クロノの役目は鏡を見張ることだ。
「おじさん、続きしてくれ」
「どっちがいい?」
「どっち、って」
「乳首吸われんのと、ケツの穴に指入れられんの」
すり、と尻の割れ目を指で擦られて、それからノックするように肛門を指で叩かれる。反射的に肛門がきゅんと窄まって、その奥にある場所が疼いた。
「……どっちもじゃだめなのか?」
純粋な疑問をクロノは口にした。体勢として、できなくはないように思う。もちろんシライは大変だろうから、クロノがどちらかを代わるのでもいい。聞かれればそう答えるつもりでクロノがシライを見つめると、虚を突かれたように目を丸くしていたシライは、満足そうにゆるりと目を細めた。
「どっちもされてぇの?」
「……う」
改めて言われると、甘えているようで恥ずかしい。
「よかった」
クロノが言い訳をする前に、シライはぽつりとこぼすように言った。
「おまえが辛かったらどうしようって不安だった」
上腕を掴まれ引かれて、クロノはついにシライの膝に座った。そこで初めてシライの性器も芯を持ち始めていることを知る。クロノの視線を追ったシライは「ああ」と何でもない風に言う。
「そりゃ勃つだろ。男なんだから」
自分ばかりがその状態にあると思っていたクロノはホッとした。シライに体重をかけまいとしていた力が抜けて、肌と肌が合わさる。室温は適温と呼べる温度だったが、素っ裸でいる心許なさにシライの体温は心地よかった。
クロノの脱力を見計らっていたかのように、シライが耳元に口を寄せて囁いた。
「まだぼーっとしてんだろ」
「うん……」
「また寝ちまっても構わねぇぞ。待っててやるから、起きたら続きしような」
「するって、何するんだ」
腰を抱いているシライの手が滑り降りて、密かに期待していた場所に指を入れられる。ゆっくりと抜き差しされて、クロノは体を震わせた。怖いような気がして、シライの体に回した腕の力を強くする。
「あいつら、おまえのケツにハメたいんだとよ」
「あいつら」
クロノは疎かになっていた見張りのことを思い出した。首を起こして鏡に目を向けると、丁度、部屋の唯一の出入り口であるドアが開いたところだった。
チャンスだ。そう思って緊張したクロノの腕をシライが待てと言うように掴む。
「遅ぇじゃねーか」
口ぶりからすると、シライは入ってきた人物に心当たりがあるらしい。巻戻士本部にある研究室のスタッフを思わせる白衣姿だったが、クロノは見覚えがない。第一、時空警察に属する人間が、理由の説明もなく人を裸で閉じ込めるような真似をするわけがなかった。
「あれが誰だか分からねぇ?」
「……うん」
顔を覗き込んでくるシライに向かって、クロノはこくりと頷いた。「へぇ」と感心したように言ったシライは、クロノを抱いたまま首を後ろに振り向けた。
「嘘じゃねえんだな。本当に忘れちまってる」
「まだ疑っていたんですか、シライさん」
「悪ぃな。内容が事業説明だろうと授業は苦手でね」
悪びれずに言ったシライはクロノの方を見つめ直す。
「トラウマに囚われて前に進めねぇやつを救う、そういうプロジェクトの一環らしい」
「……これ、捕まってるわけじゃないのか」
「事件じゃなくて実験だ。強引でもなく合意のな」
シライが部屋の説明をした理由を脱出方法を探るためだと思っていたクロノは、驚きながらも改めて部屋の中を見回す。白い壁に、内側から外の様子が見えない部屋。マイが入れられていた取調室とも似ている。実験室だと言われれば、そうである気がしないでもない。巻戻士本部には、実働部隊に所属するクロノには用がないエリアもある。クロノは自分が「忘れている」のだという白衣の男をもう一度見た。
「ご説明しましょうか?」
人のよさそうな笑みを浮かべて、男はクロノに尋ねた。
「……はい」
「シライさんから説明があった通り、これは人為的に記憶を操作する実験です。人は覚えているからこそ危険を回避できますが、覚えているせいで立ち止まってしまうこともある。熱湯が熱いということを覚えている必要はありますが、たった一度だけ落ちてきた鉄骨を恐れて外を歩けなくなるのはナンセンスでしょう」
理に適っている、ような気がする。回らない頭で考えようとしたクロノは、シライに甘えついているような今の体勢の恥ずかしさに気が付いた。クロノの反応を見越していたように、シライはクロノを膝から下ろし、背中を支えるように抱え直す。
「腹もケツも痛くねぇか? 覚えてねぇっつっても感覚は残るだろ?」
新たな人物の登場を機に性器は勢いを鎮めている。恥の上塗りにならずにほっとしているクロノの腹を撫でながら、シライは心配そうに言った。
「シライさん、せっかく彼が忘れているのに思い出させないであげてください」
「悪い」
男にか、それともクロノにか、シライは謝った。クロノは思考を辿ってみるが、何のことなのか本当に思い出せない。
「同意書はありますが、実験はいつでも中断できます。新たなトラウマを生むのでは本末転倒ですから。……続けますか?」
心を病んでしまった巻戻士の話は3時から聞かされている。籠絡するための虚言だと撥ね付けたい気持ちはあったが、TOTEから戻ってから事実を確かめた。そんな彼らが平穏な日常に戻れるのなら、恥ずかしいくらいなんてことない。自分はトキネを助けるために巻戻士になった。共にいるのは師匠であるシライ。何を忘れているのかは分からないが、中学生のシライを助けに行ったときと違って大切なことは覚えている。
クロノは丸裸でいることの恥ずかしさも飲み込んで、白衣の男を見上げた。
「できます。お願いします」
「は……うっ……」
「平気か?」
「……うんっ」
一人で、敵と相対しているのならば歯を食いしばってでも耐えるところを、本部の中で、シライに見守られているとなると頼る気持ちが出てしまう。クロノは無意識のうちに縋っていたシライの腕を離したが、シライの腕はクロノを抱いて離さなかった。
実験は想像と違っていた。シライの言った「ハメられる」という言葉は何だったのか、クロノはシライに背を預けたまま、肛門に男性器を差し込まれていた。それも白衣の男とは別の、後から部屋に入ってきた知らない男のものだ。こちらの男についてはシライも面識がないと言い、白衣の男がスタッフの一人だと説明した。新たに現れた男はガウン一枚羽織っただけの姿でありつつも礼儀正しく、クロノとシライそれぞれに挨拶をした。ガウンを脱ぎ、シライが広げさせたクロノの足の間、肛門にぬるぬるする液剤をたっぷり塗りつけると、勃起した陰茎を取り出し押し付ける。耳元で聞こえた「痛かったら言えよ」というシライの囁きに強がり混じりの大丈夫を返して、実際、痛みはなかった。
「くぅ………っ、う………」
「狭いね。二回目だって聞いたけど、若いと回復も早いのかな」
挿入している男はしみじみとした様子で言う。強い違和感をやり過ごそうとするクロノへの気遣いは見て取れるが、仕事を遂行しようという意志は硬いらしい。クロノが呻きながらシライに縋っていても、腰の動きを止める気配がなかった。むしろ速まる気配すらあって、クロノは待ったを掛けたい気持ちを抑えつける。シライの手は気を紛らわせようとするようにクロノの乳首をいじっていたが、緊張のせいだろうか、部屋にシライと二人しかいなかったときと感覚が違う。気持ちいいと思えるところまで一歩二歩届かない。シライの指が乳首をくすぐるように撫でる感覚を快感として拾いきる前に、クロノの意識は男の陰茎に引っ張られてしまう。クロノはシライを見上げてから、頼り過ぎはよくない、と目の前の男に目を戻す。
それだけでも、シライはクロノの不安を拾ってしまうらしい。クロノの頭を撫でてから、すっかり萎えてしまったクロノの性器の上に指を伝わせる。それはだめだ、とクロノはシライに首を振る。
「なかなか気持ちよくなれねぇな」
「うんっ……痛くはない、けど……っ」
安全のために、日常生活で得ることのない刺激をトリガーにしている。羞恥の軽減のために同性のスタッフが施術に当たるが、機械による自動化が成し遂げられれば、人を相手にしている気まずさはさらに軽減される。クロノが選ばれたのは無作為の結果で、シライが同席したのは実験を聞きつけたシライが望み、クロノが承諾したから。受けた説明はどれも矛盾がなく、自分だけ覚えていないことへの決まりの悪さはあるものの、巻き戻す前に死んでしまえば記憶は残らないから、これもそういうものだと割り切った。
しかし、痛がっていたという一度目をどう切り抜けたのか、全く思い出せない。忘れているということは気持ちよくなれたということで、クロノはどうにかして男性器を受け入れた部分で快感の欠片を探そうとする。シライがさっきしてくれたこと。乳首を舐めたり、尻を揉んだり。目覚めた間なしにされそうになったキスを断ったのが今さら惜しいような気がしてきて、めったにしないタイプの後悔の出現に、クロノは戸惑いながら腹に置かれたシライの手を掴んだ。おじさんならよかったのに、という独り言が頭の中で響く。そんなことを考えては頑張ってくれているスタッフに失礼だ。
「どうした?」
「……ううん」
「言わなきゃ分からねぇぞ」
口にした言葉とは逆さまに、シライはクロノの顎下に手を添えて、口に親指を含ませた。クロノの唾液をまぶすように舌をぬるぬると撫でてから、マッサージするように口の中を触り始める。タイミングを合わせたように男が陰茎を挿し込んできて、クロノはシライの指を噛まないために、食いしばりかけた歯の力を緩めた。代わりのように締めてしまった中をもう一度、男の陰茎が往復する。舌足らずな声を漏らすクロノに、シライは「噛み切ったって構わねぇぞ」と怖いことを言う。
「おじひゃん、ひゅい……っ」
「大丈夫、だいじょーぶ」
口の中をずっと触られているのに不思議と気持ち悪くならない。クロノはシライの片手が再び胸元に回ったのを見て期待したが、今度は易々とは触ってもらえず、シライの指は乳輪の縁を触れるか触れないかのタッチで巡っている。シライの指を追って動かしそうになった胸を押えられ、笑いを含んだ声に「乳首触られんの気に入った?」と言われて動けなくなる。物足りない分が、見知らぬ男の陰茎からの刺激で埋まる。意識がそちらに偏っていったところで、シライに耳殻を甘く噛まれた。
「やっ……!」
びくりと跳ねたクロノの体を、男が押えながら腰を押し付ける。パズルのピースがはまったような気持ちよさが生まれる。コツが掴めたと思った。そこからは早かった。クロノはシライの指が抜けていることにも気づかず、声を抑えることも思いつかず、揺さぶられるままに嬌声を上げた。同時に、気持ちよくなれば記憶を失うという情報が頭に浮かんできて、クロノはシライの手首を掴んだ。
「ゃ、だ、おじさん! おれやだ!」
「イキそうなの怖ぇよな」
「ちがう……っ! 忘れるの、いやだ!」
思えば何を忘れるのだろう。一度目と同じで今している行為のことか。そうなると三度目も同じことをするのか。これは本当に二度目なのか。実験がいつ終わるのかという情報を、クロノは持っていない。
「あなたたちは本当に仲良しなんですね」
律動のために息を荒らげている男の代わりか、白衣の男が会話に割り込んでくる。タブレットを携えている以外、何の道具も持っていない。会話しようとするが、それをよりも早く快楽で頭が埋まっていく。覚えていられるからこそ、更新される状況を把握し続けられるからこそ巻戻士なのだ。初めての刺激に頭が追いつかない。もういっぱいいっぱいなのにシライに乳首をきゅうと摘み上げられる。
「やぅう……ッ!」
目の前が真っ白になる。尻の中に入っている性器の存在がやけに大きくなって、脈動と、奥への侵攻。逃げたくてもシライが壁になって逃げられず、男の太ももが自分の太ももと擦れる。汗でべたついている。自分の顔をギラついた目で見ている男を見返して、実験が上手くいっているかを確かめられているのだと血が冷える。崩れそうなところをシライの手の感触に繋ぎ止められる。クロノはぎゅっと目閉じて、開いた。
白い壁、白い天井。トキネを救うために巻戻士になった。シライは師匠で、今はトラウマを抱える人々を救うための実験に共に参加している。一体何を忘れさせられた?
「何忘れてた?」
「……分からない」
「まあそうだよな」
クロノの顔を上から覗き込んでいたシライは、白衣の男に顔を向ける。
「アンタたちも痴態を忘れてやってくれるとありがてえんだけどな。コイツの協力のおかげで遅滞なく計画が進んだあかつきには」
「生憎ですが、研究者にとって記録は命と同じです。あなたが覚えていなければ彼も気にしませんよ。知覚していなければないのと同じだ」
「じゃあ次はおれがケツにハメられるわけか。……法の下で行われてるから同意書があんだろ。コイツの名前は言えるよな?」
シライの指がクロノの眼帯の紐の下をくぐる。傍目には頬を撫でているように映るだろう。シライの意図するところを汲んだクロノは、「おじさん」と不安そうに言ってみることで声が枯れていないことを確かめる。
施術していた男の方はガウンを置き去りに出入り口に向かっている。生じた眠気は肉体的な疲労によるものではない。シライの潜水可能時間はクロノのそれを上回るから、クロノは自分のことだけ気にしていればいい。
クロノは無性にシライに名前を呼ばれたくなった。
- 投稿日:2025年6月29日
- 人間さんにお世話になったお礼に書いたものです。「モブレ洗脳快楽堕ち師弟丼百合キス汁だく」がお好きだと聞いたので頑張ったのですが難しかったです。シライを堕とすのが大変だからまずシライは堕ちてる設定で始めたのに正気に返らないでほしい。