石油王のロー×海軍のスモーカーです。杉乃さんへのプレゼント。

自ら首輪を望むまで

「王とまで呼ばれる男が一介の海兵に何の用だ。そう何度も呼びつけられるほど俺は暇じゃねぇし、てめぇもそうだろう」
「一介の? はっ、海軍中将様に言われちゃ嫌味にしか聞こえねぇな。それに俺がこうしている間にも金は生まれている。不要な心配だ」
 スモーカーの眉間に皺が刻まれているのは元々だったが、顔を合わせるなりその皺を一段と深めたように見えたのは、気のせいではないだろう。焚いた香の芳しさも、目を楽しませる調度品も、質実を好むこの男の趣味ではない。加えて部屋に控えている奴隷の存在が、スモーカーの苛立ちを増幅させることに一役買っている。ローには理解できないことだったが、あれらを人として見ているスモーカーには、奴隷の存在自体が我慢ならないことらしい。己の歓迎が功を奏したことを確信して、ローはスモーカーの苛立ちを煽るために口角を上げた。
 立ち上がるローに合わせて、奴隷達は深々と頭を下げたまま部屋から退出していく。それらを視界に入れたくないのか、睨むような顔で自身を見ているスモーカーに歩み寄ったローは、その目の前に一枚の紙を差し出した。
「読め、白猟屋。お前に関わりのある話だ」
 片手で奪い取るように受け取って、興味なさげに一瞥したスモーカーの目が見開かれる。
「何だ、これは……っ」
「知っている名だろう?」
 紙面の大半が装飾で埋まり、読むところなどほとんどない紙を持ち直し、穴が空きそうなほどに凝視するスモーカーの両手はわなわなと震えている。煙草を咥えていないせいか余計に無防備に見える唇を舐めるように眺めてから、ローはスモーカーの顔を伺うように首を傾げた。
「分かったか? お前はもう俺の所有物もんなんだよ」
「馬鹿な! 俺は海軍に籍を置いちゃいるが」
「そういうのはいいんだよ」
 食って掛かったスモーカーの言葉を、ローはさも鬱陶しそうに手を振って遮った。スモーカーの手の中で握り潰されている書面をひょいと抜き取って、もう片方の手をスモーカーの頬へと伸ばす。豪気なスモーカーにしては珍しく、怖気を感じたらしい風に表情を変化させて身を引いたのがおもしろい。
 ローは触れることのなかった指先を素直に下げて、スモーカーの神経を逆撫でするためではなく、感じた愉悦のままに唇を歪ませた。ギッと音が鳴りそうなほどに険しい目つきで睨み返されたが、今さら引く気は起きない。
「連中は自分たちの利益になるならなんだっていいんだよ。俺はそんなところに忠誠を誓っているお前が滑稽でならねぇ」
 スモーカーが言い返そうとしたその時、ゴゥンと豪奢な内装にそぐわない機械的な作動音が鳴り出した。何事だという顔で周囲に目を走らせたスモーカーは、上がっていく壁を見て、それから沈んでいく足元に気付いてハッと身構えた。その反応は予想していたものとそっくり同じで、ローはついに声を出して笑った。
「てめぇ何を……!」
「いちいち噛みつくな。ただのエレベーターだ」
 スモーカーに警戒させないために既存の、それもスモーカーを通したことのある部屋を改造して、床全体を昇降させられるように装置を仕込む。この日のためだけに用意した仕掛けだった。カモフラージュのために入れた工事を見て「今度はてめぇの家の中で石油を掘る気か」と言っていたスモーカーも、まさか自分のためだったとは夢にも思うまい。
 モーター音が止まるのと、薄暗い部屋に道標のような明かりが灯るのは同時だった。
「ようこそ、白猟屋。今日からここがお前の部屋だ」
 ローは気品すら感じさせる仕草で腕を広げて己の背後を示しながら、唖然としているスモーカーの顔が怒りに染まっていくさまを悠然と眺めた。


 ◇


 大柄な男二人が乗ってもなお余裕のあるベッドでも、揺さぶれば当然軋む音を立てた。己の趣味で作らせるか、それともスモーカーの趣味に合わせて実用一辺倒のものにするかは最後まで悩んだところで、天蓋に刻ませたレリーフが目に入るたびに顔を歪ませるスモーカーを見ると、己の趣味を採って正解だったと思う。
 這いつくばらせて背後から貫くのも好きだったが、獣の服従のポーズのように仰向けの姿勢を取らせて、顔を見ながら犯すのはもっと好きだった。目を逸らせば負けだとでも思っているのか、まるで挑むように睨んでくるスモーカーの視線に己の視線を絡める。ローの笑いをどう解釈したか、歯噛みするスモーカーに声を上げさせるべく、ローはゆっくりと腰を引いていった。
「ッ、ぐぅ……!」
「随分とこなれてきたな」
「誰が……ッ」
 鍛え上げられた腿が緊張に硬くなる一方で、ペニスを包む肉はまるで名残を惜しむように吸い付いてくる。息を止めている、その喉の奥にはどんな声が隠されているのか。深まるばかりの眉間の皺を見ながら、狭まろうとする肉壁をこじ開けペニスを戻してやると、スモーカーはついに顔を背けた。
 ローは身を屈めてスモーカーの胸元に口付けた。緊張を和らげるように、小さく何度も唇を落とす。激しい快楽を与えるよりもこちらのほうが効果的であることは、これまでの行為で証明済だった。胸の頂に向かってふっと息を吹きかけると、スモーカーの中が痙攣するように締まる。このあとに何をされるかを理解している反応だった。
 わざと時間を置き、そろそろかというところで顔を上げて見れば、再び向けられていたスモーカーの目には動揺がありありと浮かんでいた。
「俺がそうなるように仕込んだんだ。当然だろう?」
 待ちわびているだろう快感を与えてやるべく、ローはスモーカーの乳首を啄むように口に含んだ。服の前を閉じるのが嫌いらしいから、あまり刺激しすぎると困るかもしれない。まだ小さなそこを吸うように唇で揉み、舌で擦るように舐める。
 組み敷いたスモーカーの体が、怒りとは別種のもので震える様子を感じ取りながら、ローはゆっくりとピストン運動を再開した。


 与え続けた熱によって、スモーカーの理性は溶け始めていた。誤魔化しきれない欲の色が、潜められた吐息に滲んでいる。己よりも上背が勝る男相手に相応しい表現だとは到底思えなかったが、生娘を汚している、そんな感覚すら覚えた。
「気持ちいいか?」
 問いかけると、歯を食いしばったスモーカーが、涙の浮かんだ瞳で睨みつけてくる。素直になれるまで付き合ってやるつもりで、引き抜いていた自らのペニスを押し戻す。浅いところから深いところへ、そして再び浅いところを。緩急をつけて刺激を与えると、スモーカーは喉を反らせて呻いた。その声に、背筋がぞくりと震える。初めて対峙したときから変わらない高揚と、深い満足が全身を巡る。欲望のままにガツガツと突いてしまいたい、自分らしくもない衝動が、湧き上がるのを感じた。
 ローはひとつ息を吐くと、スモーカーのそそり立つ雄に手を伸ばした。
 怯えたような顔をするスモーカーを見ながら、握りこんで、しごく。連動して締め上げてくる後孔は痛いくらいだった。一声も漏らさないまま壊れたように首を振るスモーカーの頬は、熱病に冒されたように上気している。
「後ろでイくのは嫌なんだろう。言い訳できるようにしてやるよ」
 ローは絶頂を間近に控えているらしい脈動を手のひらに感じながらしごき上げ、涎のように汁を垂れ流している先端を指でぐりぐりと詰った。
「うう……ッ!」
 獣の唸り声のような声で呻いたスモーカーが、シーツに頭を押し付け、勢い良く白濁を吐き出す。無意識だろう、浮き上がったスモーカーの腰が、ねだるように擦り寄せられる。その腰をあえて押さえつけるように腿を押さえて、自らの欲望を突き入れる。まだ射精の余韻の消え去らないらしいスモーカーは、堪え切れなかったらしく鼻にかかった声を漏らした。
「認めて楽になっちまえ、白猟屋」
 お前にはもう俺しかいねぇ。乱暴と言えるようなピストンをしながらも、ローは囁くように言った。こみ上げてくる衝動のままに、腹奥めがけて精を放つ。スモーカーは嗚咽を噛み殺すように息を詰めた。射精の快感以上に、その瞬間が好きだった。

投稿日:2016年10月16日