シャカの女装

 獣の筋肉だ。合わさった肌を通して伝わってくる躍動を感じながら、シャカは思った。
 恥じるように密やかに息を漏らし、そのくせ貪欲にシャカの男根を締め上げてくる淫らさ。思い悩むように寄せられた眉に宿っているのは、苦悩と確かな快楽。決してそのために作り上げたのではない、分厚い、鋼のような肉体が、己の下で息を潜めている。生き物としての本能に逆らう行為の最中でありながらも、ある種の野性を感じさせる美しさだった。
「シャカ……」
 アイオリアが、焦れたようにシャカの名前を口にした。言葉よりも饒舌に、シャカのものを咥え込んだ肉穴はねだるような動きを見せ、精悍な顔立ちに不釣り合いな蕩けた目が、閉ざしたままのシャカの瞼を切なげに撫でる。瞳に宿る強い光が揺らぐだけで、彼の貌はこんなにも幼くなるのだ、とシャカは遠い日の記憶と重ね合わせた。
 常にない彼の頼みを聞いてやりたかったが、今言葉を放つわけにはいかなかった。シャカはアイオリアの声に応えないまま、静かに呼吸を続けながら、ゆっくりと抽送した。
 交合のときに控えめであることが、アイオリアの美徳であり、また、欠点でもあった。いっそ理性を失ってしまえば楽になれるときですら、溺れきろうとしない。
 あとひと押し。足りないそれを補うために、シャカは常軌を逸した行為に踏み切った。
 シャカの身を包んでいるのは、いわゆる制服というものだ。
 白いブラウスに、ひだのある濃紺のスカート、襟元を飾る細身の赤いリボン。少女というには高すぎる背丈も、座ってしまえば目立たない。元より中性的な顔立ちであるシャカは、薄明かりの中ということもあって、まるで女性であるように見えた。
 それでも、一言でも喋ってしまえば、男であるということが明らかになってしまう。
 アイオリアがいくら訴えようとも、目的を成し遂げるまで、口を開く気はなかった。
「シャカ」
 もう一度、さっきよりも強い意志を含んだ声で、アイオリアがシャカを呼ぶ。
 それはできない、という意図を込めて、シャカは首を横に振る。
 シャカの返答を得たアイオリアは、悲しげなほどに顔を歪めた。体を折り曲げ続けている息苦しさもあるのだろう。泣き声のような吐息を喉から漏れさせながら、それでもシャカの律動に応えるように腰を揺らめかせる。やわらかくほどけた内壁が、もたらされる快楽を一滴もこぼすまいとするように蠢く。こすれ合う粘膜と響いた水音に、アイオリアは顔の横でシーツを握りしめて、深く感じ入ったように呼気を震わせた。
 アイオリアの呼吸に合わせて息をついたシャカは、スカートのひだを乱す不自然な膨らみに目を落とした。行為に没頭していれば気付かなかったかもしれないが、できるだけ長く続けなければならないために、わざと気を散らしている目には明らかな異物だった。
 シャカはスカートのひだの乱れた部分に手を伸ばすと、心持ち色の濃くなっている箇所を指すように指を当てた。
「ふぁ、っ……」
 陰茎への刺激は、後ろの快感に没入していたアイオリアには不意打ちだったらしい。吐きかけた息をすぐさま止めて、隠しごとが露見した子供のような目でシャカを見た。弁解するように首を振り、シャカの目から逃れようとするように身をよじったが、その行動は新たな性感の呼び水になるという効果しかなった。自ら呼び込んだ、しかし予期せぬ快楽に戸惑うように、アイオリアは視線を彷徨わせる。
 シャカはアイオリアの様子に構うことなく、スカートの生地ごとアイオリアの陰茎に指を絡めた。裏地の滑りを活かして、布越しであっても水気を感じるほどになっている体液を拭うようにこすってやると、それまではかろうじて自分の意志で動いていたらしいアイオリアの体が、おもしろいように跳ねた。
「……ッ!」
 ずり上がろうとする腰を手を置くことで制し、新たに粘液を染み出させている先端を強く刺激してやると、息を詰めたアイオリアは耐えるように四肢に力を入れた。深い皺が刻み込まれた眉間と、噛み締められた唇が震えている。
 手の中にあるものは、男性性の象徴だ。逸物という言葉がこれほど似合うものもないだろうと思われる大きさ。膣に挿入するに十分な硬さまで高まりながらも、一度も挿入を果たすことなく果てる肉の塊。アイオリアは、そこにシャカが触れることを厭う傾向があった。触れない方がよいのではないか、という提案を口にしたことすらある。一度は済んだ話だからか、シャカがそこに触れていてもアイオリアは何も言うことはなかったが、向けられたその表情には、困惑がありありと現れていた。
「っ……くぅ……」
 噤まれた唇は、スカートに包まれた亀頭を重点的に責めても、強情に結ばれたままだ。
 抗う気がないのなら、委ねてしまえばいい。シャカは先端をいじる傍ら、もう片方の手で肉棒そのものの形を露わにさせるようにスカートごと握り込み、アイオリアの幹をしごき上げる。乱暴とも言えるような手つきであっても、シャカから与えられる刺激を快感と認識しているアイオリアには無関係なようで、顔だけは嫌がるそぶりを見せたまま、シャカが望んだ通りに昇りつめていく。
「ぃ、んっ……ッ」
 アイオリアが背けた顔を拳で隠したすぐ後に、張り詰めていた陰茎は、精液を吐き出した。
 布によって隔てられていることが嘘のように、手のひらに感じる力強い脈動と、噴き出すように滲み出す精液。シャカのものをぎゅうぎゅうと食いしめていた肛門が、アイオリアの胸が沈むと共に弛緩する。
 その油断を突いて、シャカは再度深くまで押し入った。
「っは、あ!?」
「……っ」
 アイオリアの悲鳴に近い声が上がった影で、シャカは息を噛み殺した。半身を引き抜かれそうなほどの強い締め付けをやり過ごし、断続的に緊張と弛緩を繰り返すアイオリアの体に埋め込んだ自身を、ゆるゆると抜き挿しする。
「シャ、や、ぁあっ、あっ!」
 シャカの与える緩やかな刺激に、達した直後で鋭敏になっていたアイオリアの神経は、過剰なほどに反応した。視点の定まらない目をきょろきょろと動かし、訳の分かっていない顔で、ともかく腰を逃がそうともがく。アイオリアがすることとは思えない、まるで効果のない抵抗は、シャカがアイオリアの片脚を引き寄せただけで簡単に封じ込めた。
 アイオリアの脚を抱きかかえたシャカは、張り出した胸の上でツンと尖った乳首を触ってやれないことを残念に思いながら、蠕動する内壁を意識的にこすった。びくつくアイオリアの内腿を押し撫でる。狭まった肉を、もう一度掻き分ける。アイオリアが声を堪えようとする。その繰り返しだ。萎えていた陰茎は、再びしっかりと立ち上がっていた。
「ぐ、うううぅうッ……!」
 やがてアイオリアは、強く頭を振って、ベッドに押し付けるようにして顔を伏せた。枕ごと頭を抱えて、引きつけを起こしたように震える。嗚咽を噛み殺したような苦しげな声が、枕の下から聞こえてくる。アイオリアの陰茎から、トロトロと白濁液がこぼれていても、流石に気が咎める様相だった。シャカはつきたくなった溜め息を飲み込んだ。
 男二人が乗るには狭いベッドの上で、アイオリアが、荒い息を吐きながら身を縮めている。部屋の様子が急速に鮮明になる中で、シャカは伸ばそうとした手を空中で彷徨わせた。枕の下にあるアイオリアがどんな表情をしているのか、想像はできても、確かめる術はなかった。
「……すまない」
 行き場のない手をシーツに下ろして、シャカは詫びの言葉を唇に乗せた。
 しばらくの沈黙のあと枕の下から顔を覗かせ、非難めいた眼差しを向けたアイオリアは、半ば伏せたままだった顔を仰向けた。伸ばした手でシャカの頬を包んで引き寄せると、唇に唇を押し付け、知った存在であることを確かめるように輪郭を辿った。ぺたぺたと触れ回る手は、幼さすら感じる無遠慮さだ。口腔を浅くまさぐる舌に応じると、いつもなら惑いがちに絡められる舌が、息ごと飲み込もうとするような貪婪さを見せた。
「は、」
 息継ぎと共に、探しものをするように収縮した内側が、シャカの陰茎をゆるく食む。どうしたものかと迷いながら、控えめに揺する。感覚を思い出したように強まる締め付けに、拒む気配はない。シャカはアイオリアの舌を追いながら、満ちた器を運ぶように慎重に腰を使った。アイオリアは密に生えた睫毛を震わせて、鼻にかかった声を漏らした。
 濡れた目がシャカを見上げ、開きかけた口は言葉を紡ぐことなく結ばれる。顔をしかめながら目を伏せるというアイオリアの反応が、含羞からくるものであると気付いたのは最近のことだ。様子を観察するシャカの視界を塞ぐように、アイオリアの腕が首に回った。
 伸び上がるようにして押し付けられたアイオリアの下半身が、中に入ったシャカの陰茎の位置を調整するように擦り付けられる。そこが良いところなのだろう。自分でやったくせに、シャカの首を抱え込んだまま止まってしまったアイオリアの代わりに、シャカはアイオリアの望む場所に当たるように、腰を動かした。
「うんっ……んっ……」
 肩口にあるアイオリアの首がむずがるように振られる。シャカが動きを止めようとすると、腰を挟む腿の力が強まった。そのくせ余裕なく息を詰め、シャカの刺激する位置をずらそうと微妙に腰を動かすのだからたちが悪い。構わず抽送を続けると、聞き落としてしまいそうなほど小さな呻き声とともに、引きつったように一度、アイオリアの身体が震えた。
 シャカが体を離そうとすると、首を掻き抱く腕に、無意識ではない、確かな意志の力がこもる。その間に二度、三度と震える体が、アイオリアの限界が近いことを知らせてくる。無理やりに呼吸を整えようとする胸の動きを、肌で感じた。
「もう一度、お前の声が聞きたい」

投稿日:2015年2月7日