くっつかない話
こうしてサガの姿を見るのは何度目だろうか。今までと違うのは、サガの命がここで終わらないという点だ。地面に転がっていた星矢は、反動をつけて体を起こすと、ようやく光の差し始めた空を見つめるサガの一歩後ろまで近づいた。体のあちこちが軋むように痛むが、生きているからこその痛みだった。
「サガはいつになったら俺に振り向いてくれるんだ?」
「来世かな」
「今世の俺は振られたってこと?」
参ったな、と言いながらも星矢はあまり深刻には捉えていない。口に出す前から、結果の分かった問いだった。諦めるなんて自分らしくないと思わないでもなかったが、いつまでも引きずるのも男らしくないから、これでよかったのだろう。
「俺、生まれ変わったとしてもアテナの聖闘士でいたいな」
少し考えてから、サガも答える。
「私もだ」
「それじゃ、来世の俺も振られるじゃないか」
おどけた調子で星矢は言って、サガの前まで進むとくるりとターンした。腰の後ろで手を組んで、小首を傾げながらサガを見上げる。遠くを見ていたサガの瞳が、しっかりと自分を見据える。瞳の色が薄いせいか分かりやすく現れた変化を、きれいだと思った。
「じゃあさ」
「星矢」
一転、険しい顔をしたサガを見て、星矢は言おうとしていた言葉を引っ込めた。苦り切った顔のサガに自らの思惑の全てを知られていることを察し、予想以上の効果に苦笑する。
「私はお前にそんなことを言わせたくはない」
「なら言わない。言わないから、言ってよ」
サガの眉間に力がこもる。たった一言口に出せばいいだけなのに、嘘をつくくらい簡単だろうに、サガは一度もその言葉を口にしたことはない。そのことが何よりの肯定だと知っていながら、星矢は恋心に蓋をした。
- 投稿日:2014年11月17日