好きの証明
あそこまで動転しているサガなど初めて見た。
ムウは顔にこそ出さなかったが、目の前で展開されている想像だにしなかった光景に面食らっていた。大胆なのか無神経なのか、ともかくその手のエピソードを語ればキリがないサガが、外聞をはばかることなく他者に助けを求め、おまけに他人の心配をしている。今回に限っては、演技である可能性は限りなく低い。
「そろそろ事情を聞かせてもらえませんか」
吊るした輸液製剤の残量を確認してから、ムウはベッドに横たえた星矢から、星矢の顔を一心に見つめているサガへと視線を移した。そんな目で見るくらいならば手でも握ってやればいいのに、サガはムウが来てからというものの一度も星矢に手を触れていない。
「私が悪いのだ」
「それは知っています。何をしたのですか」
返答によっては公にせざるを得ない。そのことを分かった上で、サガは自分に声をかけたはずだ。白羊宮に必要な設備が揃っていることを知っていても、手心を加えて欲しければ別の者に頼む。サガはそういう人間だ。人選を誤ることはない。
「……自白剤を飲ませた。かなり強力なものだ」
「は?」
今度こそ、ムウは顔に出した。柄にもない表情をしている自覚はあったが、星矢が目覚めないのをいいことに、そのまま星矢の顔を見る。
「すぐに洗浄したし、お前の助けもある。後には残らないだろう」
「理由を訊いても?」
要領を得ない回答に、ムウが苛立ちを抑えながら尋ねると、サガはますます沈んだ顔になった。口を割らせるのは難しそうだと判断して、質問を変える。
「薬の出どころは」
「……アフロディーテだ。ただし作らせたのは随分前、まだお前がジャミールに蟄居していた頃だ」
「そこまでは知りたくありませんでした」
アフロディーテに自白剤を作らせた目的が何であったか、想像するのは容易すぎた。サガにしてみればアフロディーテに累が及ぶのを恐れての発言だろうが、ムウにしては不快な情報以外の何物でもなかった。
しかし肝心なことは余計に分からなくなった。なぜ星矢にそんなものを飲ませたのか。サガと星矢の関係は、傍目には良好に見えていた。そもそも星矢は隠しごとをするようなタイプではないし、そうだとしたって度を越している。
「本来なら私が飲むはずだったものだ。星矢が、私の本当の気持ちが知りたいと」
「それで用意したんですか……?」
「私が星矢に言うわけにはいくまい。それでもどうしてもと言うのなら、と、選択肢として用意したのだ。薬包と水を星矢の前に並べて、入れるにしろ入れないにしろ、私は必ずその水を飲むと約束した。多少の耐性はあるが、流石に効くだろうと。それを星矢が……」
「馬鹿ですか、あなたは」
まさかと思った予想を肯定されて、ムウは怒りを忘れて呆れた。
「星矢に責任を負わせるつもりだったんですか」
「愚かだった」
「一度裏切るも二度裏切るも同じこと。それなら三度裏切ったっていいではありませんか」
眉をひそめたサガを睨み返す。
「言葉の上だけでも答えるべきです。私から言えるのはそれだけです」
- 投稿日:2014年11月21日
- 一気飲みしてから「サガが好きだぜ」と言う星矢っていう話だった。