アルバートのいない日
プロメテは焦りを感じていた。セレモニーを狙った反社会的組織による武力攻撃に、アルバートが巻き込まれたのだ。スペアボディであるグレイにも、計画のバックアップであるモデルAにも変化はない。それならば生きているはずだと考えていたものの、カプセルでの調整期間を挟んでも変化のないミッション内容を見たとき不安がよぎった。仮にも要人なのだ。何の発表もされないのは不自然だった。
「テスラット、アルバートの奴は」
「様をつけなさいよっ!」
「……チッ」
普段は立ち入らない研究所の奥で、テスラットは今日も使い道のない電気を作り続けていた。研究所の存在が人目につかないよう地中送電になっているおかげで電力の供給は安定している。万一の時にグレイのカプセルを保護するための備えなのだろうが、テスラットが非常用電源としての役目を得たことはプロメテの記憶にある限りない。アルバートと直接関わった話は「遺跡を動かすためにアルバート様についていったこともあるのよっ!」と胸を張った一件くらいで、本当に電源としか見られていないのだろう。どのフォルスロイドにも言えることだが、アルバートへの盲従ぶりはコントロールされているにしても気味が悪かった。
「アルバート様がご無事かなんて、アタシが知りたいわよ」
やはり進展はないらしい。うなだれたように見えるテスラットをそのままにして戻ろうとしたとき、通信が入った。
「どうしたパンドラ」
『解析の準備をしておいて。すぐに戻る』
一方的に通信が切られる。プロメテは「一体何なのっ! いい知らせなのっ! 悪い知らせなのっ!」と喚くテスラットを蹴り飛ばしたい衝動を堪えた。
『やあ、連絡が遅くなってすまない。トーマスのやつが寝ていろとうるさくてな、警備の目が厳しくてなかなか抜け出せなかったのだよ。私は無事だから安心するといい』
パンドラが持ち帰ったディスクにはアルバートの音声が収められていた。別の者の手に渡る可能性も踏まえてだろう、復号された内容はあってないようなものだったが、無事を知らせるという目的には十分だった。モニターの信号を切り替えると、反政府組織の解体と治安回復のニュースが流れていた。事態の収束を宣言するマスター・トーマスが大写しになったところで、プロメテはスイッチを切った。
「……パンドラ、少し付き合え」
「わかった」
断じてアルバートの無事を願っているわけではなかった。復讐すると決めた以上、勝手に死なれては困る、ただそれだけだった。
ディスクから聞き慣れた声が流れ出したときに感じた感情が、普段の何倍もの苛立ちを生んでいた。
- 投稿日:2018年6月17日