わだかまり
そんなにコーラを奢りたかったのだろうか。ヴァンはまだ半分以上残っているLサイズのコーラから目を上げて、アランの顔を盗み見た。バーガー店のテラス席。横向きに座って足を組み、テーブルに頬杖をついたアランは、ヒトビトの行き交う通りを眺めている。口を不機嫌そうに噤んでいる印象が強いが、その実口数は多い方だ。今までに言われた刺々しい言葉の数々を思い出さないために、ヴァンはコーラを息の続く限り飲んだ。日差しはガーディアンベースの甲板で浴びるよりもずっと穏やかだったが、おかげでちっとも安らげなかった。
どうしてせっかくのオフの日に。
ヴァンは息継ぎと見せかけて盛大なため息をついた。
申請しない限りはランダムに宛てがわれる非番の日がかぶったからと言って、和気あいあいと過ごす仲では絶対にない。ここ最近は何も言われていないが、食堂で二人きりになった時にいないものとして扱われた経験もあって、ヴァンから話しかけることもない。半ば強制的にトランスサーバーに連れられる道すがら、誰にも会わなかったのは不運としか言いようがなかった。
「――悪かったな」
突然聞こえた声に、ヴァンはストローをくわえたまま瞬いた。自分に言ったのか、と確かめるために顔を上げる。頬杖をついた状態でヴァンを見て、それから組んでいた足を解いて向き直ったアランは、まるで苦いものを飲み下すように目を閉じた。
「お前はガーディアンの一員だ。馬鹿にして悪かった」
あのアランが謝っている。ヴァンは驚きをこめた目で見返すと、真っ直ぐに向けられていた目は一度逸らされ、再びヴァンに向けられたときには眉間の皺はより深いものになっていた。太陽光に当たるとアランの目は青みを帯びる。そんなどうでもいい情報を得たヴァンだったが、別段言うことも見つからずに街路に目を向けた。
「…………おい、何か言ったらどうだ」
「ええ……」
何かと言われても。ヴァンは意味もなくストローを曲げ伸ばしした。数々の文句も腹は立つし傷つくけれど、その場で言い返したりトンにフォローを入れられたりしたおかげで、アランに対する漠然とした苦手意識以上のものはない。
「そう言われても困る。俺アランのこと苦手だし」
ヴァンが率直な気持ちを口にすると、分かっていたらしいアランは背中を背もたれに倒した。落胆のようなものがちらりと見えたが、それが本当なら勝手なものだとヴァンは思った。
「……行くんだろう。謝っておかないと寝覚めが悪いからな」
「ああ」
知っていたのか、と続けようとして、そりゃ知ってるよなとヴァンは思い直した。セルパンカンパニーに乗り込むことが決まってからというものの、ガーディアンのみんなの態度にはヴァンが気づくほどの硬さがあった。そのせいで却って不安が生じていたものだから、アランまでもがその一人になってしまったことは軽くショックだ。
「言っとくけどオレ帰ってくるからな」
「バカなのか?! 当たり前だろう!」
「ええ……」
アランは苛立たしそうに首を振って立ち上がった。
「期待していると期待していない、どっちでも好きな方を選べ」
「……期待してくれよ。その方が頑張れる」
ヴァンは圧倒されながらも、アランを見上げて頷いた。
「……帰ってきたらもっといいものを奢ってやるさ」
「え! いいのか!」
打って変わって輝いたヴァンの目を見ることもなく、バーガー店に背を向けたアランは後ろ手に手を振った。
- 投稿日:2017年9月10日
- ヴァンのセリフを追いたくてゲームをやり直して、アランが分かりやすく絆されていることに気づきました。