子守唄
薪が爆ぜる音に混じってアッシュの鼻歌が聞こえる。アッシュは機嫌がいいとき、街やラジオで流れていた曲を口ずさむことがあった。それは大抵うろ覚えで、途中から大胆なアレンジが加わり、そして唐突に終わる。けれども焚き火を眺めている今のアッシュは、それほど機嫌がよさそうには見えなかった。不思議に思ったモデルAは、知識の記録媒体である自分になぜか備わっている、雑談するという機能を作動させた。
「何の歌だ?」
「知らない」
返ってきた答えはいつもと同じだった。
「……私を育てたヒトがね、歌っていたの。何て曲か知ってる?」
が、いつもと違う続きがあった。アッシュはおしゃべりなようでいて、案外無駄なことは言わない。二人きりでいるときの口数は、どちらかというと自分のほうが多いくらいだった。
「知るわけないだろう」
「そうね。期待はしていなかったわ」
熱くなるわよ、と焚き火から遠ざけられる。そこに置いたのはアッシュのくせに。
「そのハンターに聞かなかったのか?」
「曲名は知らないってさ。母親が歌っていた曲だって。……歌詞は分からないけど、子守唄ってやつかしらね」
「じゃあアッシュはそれで寝かしつけられたりしたのか」
「まさか。あんな大声で歌われて眠れるわけがないじゃない。でも部屋から追い出しても聞こえるんだからどうしようもないわ」
なんだ、ちゃんと子守になってるじゃないか、という言葉を、モデルAはない喉に飲み込んだ。
- 投稿日:2016年8月23日