おしゃべり

『はい! どんなものでも、どこにでも。こちら――』
「ヴァン? こちらアッシュ」
『なんだアッシュか』
「ちょっと聞きたいんだけど、今いい?」
『ああ。連絡を待ってる依頼もない』
「……アンタのライブメタルって普段しゃべる?」
 世間話をするような仲ではない。ヴァンの通信回線が仕事とプライベートで分かれていないということへの遠慮もあり、アッシュは単刀直入に切り出した。
『――あまり。話しかけたら答えるけど……助言というか、忠告というか』
「そう」
 やはりそうか。アッシュは予想が外れなかったことに少なからずがっかりした。
『アッシュのところって賑やかだよな。モデルAだっけ』
「そうなのよね。モデルAしか知らないからそんなものだと思っていたけど」
「なんだよアッシュ! オイラの話か?」
「ちょっと今通信中、黙ってて」
 散歩に飛び出す犬のように声を弾ませたモデルAをポーチの上から押さえる。モデルAの声が適合者にしか聞こえないからこそ、外での挙動には注意する必要があった。アッシュの実力が知られているおかげで小悪党こそ寄ってこないものの、ライブメタルの存在は有名になってしまっている。報酬の得られない面倒ごとに構っていられるほど暇ではなかった。
『どうした? 切ろうか?』
「ううんモデルAがね。……ライブメタルの声って通信には入らないの?」
『モデルAが何か言ったのか? ガーディアンでライブメタルの声が聞こえるのはオレしかいないから確証はなかったけど、どうやらそうらしいな』
「そう。――モデルA、アンタがあんまりおしゃべりだから他所もそうなのか聞くことにしたの」
「ひどいやアッシュ……」
 しょげてしまったモデルAを軽く叩いて、アッシュは通信に意識を戻した。
「ありがとう、ヴァン。これではっきりしたわ」
『礼を言われるようなことじゃないけど、役に立てたならよかったよ』

 一仕事を終えて部屋に戻ったアッシュは、外したポーチを片手にベッドにダイブした。予想外の衝撃だったのかモデルAの驚く声が聞こえる。モデルAの声は頭に直接響くように聞こえるのだから会話をするのにポーチの口の開閉状態は無関係だったが、なんとなくアッシュは開けるようにしている。
「どうしてアンタだけそんなにおしゃべりなのかしらね。ガーディアンの司令官の話だと記憶媒体だってことじゃない。ムダが多すぎない?」
 取り出したモデルAを枕元に置くと、アッシュは仰向けに寝返り今一度体の力を抜いた。ようやく見慣れてきた天井だったが、この部屋を拠点にしてこなせるミッションはあらかた片づいてしまった。引き払うには頃合いだ。
「それはオイラを作ったやつに聞いてくれよ」
「……聞いておけばよかったわね。説明が長そうで億劫だけど」
「それかもしれないぜ。他のライブメタルのモデルは無口だったんだ」
「アタシはイヤよ。アンタがアルバートに似てるのは」
「オイラだってそうさ。じゃあヴァンとしゃべるのがつまらないからってことにしよう」
「ひどいわね」
 眠気の混じった声で笑うアッシュにモデルAは神妙な声で「オイラもそう思う」と同意した。

投稿日:2018年5月20日
ZXAから入ったのでモデルA以外のライブメタルだと会話に物足りなさがあります。