オス犬の本能、プラス、俺がスペインに突っ込むなんて考えられなかったから――俺がスペインに突っ込まれるというのも考えられないんだが――自然とスペインが挿入する側になった。スペインは服を着ていないから、股間のモノがどういうサイズなのかは嫌でも目に入るのだけれど、俺は努めて見ないようにした。一日に失うものは少ない方がいいに決まっている。
俺が服を脱ぐまで大人しく待っていたスペインは、脱ぎ終わるやいなや、いきなり腰を掴んで挿入しようとしたもんだから肝が冷えた。拾った犬に掘られるために、自分で自分の尻にローションを塗り込む日が来るなんて知ったら、過去の俺はどんな顔をするだろう。
「ふっ……ぅぐっ……」
痛い。苦しい。気持ち悪い。悪ガキにストローを突っ込まれている蛙にでもなったような気がする。女の喘ぎ声の何割かは演技だと聞いて慄然としたことがあったが、なるほど道理だ。こんな行為が気持ちいいはずがない。
「な、入ったか……?」
「ううん、まだ」
「あとどんくらい?」
「……全然」
申し訳なさそうな声でスペインは言った。まだこの苦痛が続くのかと思うと、絶望すら感じる。
「ロマーノ、すごい汗」
「気にすんな」
脇腹に触れる手は驚くほど熱かったが、それは俺の体が冷たいからなんだろうか。それともスペインは、こんな行為に興奮しているとでも言うんだろうか。自分の体から出ている汗が冷や汗なのか、それとも脂汗なのか、さっぱり分からない。ただただ不快だった。
「体冷たいで……やめよか」
「何言ってやがる。死にてぇのか」
スペインは叱られた犬のような――実際犬なんだけど――声を出した。何か考えているのか、黙っていたかと思うと、急に体が楽になる。
「お、おいっ」
抜いたのだと気づいた俺は焦った。まさか死ぬ方がいいだなんて言うつもりじゃねーだろうな!
だが、すぐに俺は、心配すべきなのはそこじゃなかったと知った。
「もうちょっとほぐしてみよ」
「もうちょっとってお前」
「大丈夫、さっきロマがやったんずっと見てたから」
「な……!」
犬の交尾そのものの体勢で、今さら羞恥もなにもないと思っていたが、恥ずかしいものは恥ずかしい。すっかり強ばっていた顔が一気に熱くなる。
けど、戻りかけた常識は、スペインが尻に指を入れたことで引っ込んでしまった。
スペインはゆっくりと指を入れ、ゆっくりと抜いていく。それを数回繰り返して、指だと楽に出入りできることを確かめると、円を描くみたいに動かした。下がりそうになる俺の尻を支えている左手は、指が食い込んできて少し痛い。もう少し力を緩めろ。そう伝えたくて腰を動かしたら、
「ひっ」
思わぬところにスペインの指先が触れた。そしたら勝手に穴が締まって、スペインの指を喰い締めた。中に入っている指の存在が、ごつごつした関節の感触が、容赦なく頭に叩き込まれる。
「ぬ、抜いてっ」
「え、うん」
「ああああやめろぉ!」
締めたまま抜いたらどうなるかを失念していた。指が引き抜かれる強い感覚が腰に走って、俺は悲鳴のような声でスペインを制止した。
スペインは指示通り動くのを止めたが、直腸は留まる異物を排除しようと蠢き、スペインはそれに逆らって動くまいとする。何もしていなくとも、俺の体は自動的に、スペインの指を味わうはめになる。
「ぃ……はっ……」
どうしたらいいのか。きっと俺と同じように途方に暮れているだろうスペインに声をかけたくても、動くのが怖い。自分でしていたときと違って、いつどうなるかが分からない恐怖が背筋を鷲づかみにしていた。とりあえず落ち着くまでこのままでいよう。
そう決めたとき、ぺちゃりと温かいものが尻に触れた。
「ちょっ、スペイン、何やって」
「うん」
くぐもった声。至近距離に感じる熱い息。スペインに舐められているのだと気づくのに時間はかからなかった。
「おい、汚ねぇぞ!」
尻の穴を弄られる気持ち悪さよりも、驚きが勝った。
「らいひょぉう」
「大丈夫じゃ――」
「汚いんなら舐めてきれいにせな」
スペインはそれだけはっきり言うと、また舌を肛門に当てた。ぴちゃぴちゃと音を立てて表面を舐めながら、入れっぱなしの指で穴を引っ張って拡げる。
そのうちに、舌が縁の内側を掠め始めたかと思うと、ぬるりと中に這入ってきた。
「ふあっ」
蛇でも入ってきたのかと錯覚するような、ぬるぬると長いものに尻の中を探られる。実際に人間の舌がそんなに長いはずはないのに、犬のときの印象が強いだけに、やたら奥の方まで入ってるのを想像してしまう。
「うう……」
もの自体が軟らかく、無理なく受け入れられるせいで、感覚を理解する余裕がありすぎた。
スペインの舌が出入りする感覚は、もしかして漏らしているんじゃないかと不安になるくらい、排泄に似ていた。別のことに集中しようとしても、両側に広げられる尻の感覚と、かかる息のこそばゆさが意識を引き戻す。
スペインは舌を中に入れたまま、中をこそげ取るように、ゆっくりと内側の肉を舐めた。
「うあっ」
擦られてる。入ってるんじゃなくて、擦れてるんじゃなくて、擦られてる! 尻に力を入れて拒もうとしても、指で拡げられているせいで完全には閉じられない。しかも入ってる感覚が強くなる。ちくしょう、さっきの繰り返しじゃねーか!
俺の緊張を察したのか、スペインはずるりと舌を引き抜くと、ちろちろと外側を舐めた。
「ロマ、力抜いて」
「だめだスペイン。もういいからっ」
「抜かんでも入れられるけど……」
「んひっ」
スペインは添えるだけだった指を、ほじくるようにして中に入れようとする。異物感を覚える範囲が、少しずつ深く広がっていく。
「無理、むりぃっ」
「大丈夫やでー」
スペインの指が出入りするたびに粘っぽい音が立つ。耳を塞ぎたいのに手がシーツから離せない。指と一緒に、くちゅくちゅと掻き回される音まで挿入ってきてるみたいだ。もうそれしか聞こえない頭を何とかしたくて、俺は自分の唾液ででべしょべしょの枕に顔を押しつけた。
動きはさっきよりずっとスムーズで、なのに、襲ってくる違和感は弱まるどころか強くなっている。腹の奥から迫り上がってきた、我慢している小便が漏れそうになっているような恐怖にも似た感覚を、シーツを握りしめて堪える。スペインは俺の制止を無視して、さらに指を増やしたらしい。
「は……や、っ」
「痛い?」
俺は首を振った。痛くない。でも気持ち悪い。ジェットコースターが落ちる直前のような、耳の後ろを小さな虫が走っているような、変な感じがする。スペインはまだ指で中を探っていて、時々固さを確かめるみたいにぐりぐり押してくる。
「ふはあっ……もういぃ、から……っ」
「大丈夫かなぁ。なあ、ロマーノ?」
スペインの息が当たる。ンなとこ嗅ぐんじゃねーよ。におい嗅いだって分かんねーだろ。あっこら、何でもかんでも舐めてみるんじゃねー!
「うーん? あ、ロマ」
「なん、だよっ」
「俺とお揃いや」
急に、スペインが嬉しそうに言った。思わず頭を浮かせた俺の腰を持って、俺の体をひっくり返す。
「ほら」
目に入ったのは、腹に付きそうなくらい勃ち上がった俺の――。
「ロマーノもドキドキしてるん?」
弾んだ声で言われて、顔が、体が、火が付いたみたいに熱くなった。
「はな――ふはっ」
放せ。俺が言い切るより先に、スペインは俺の腿の裏を抑えた。先走りをこぼしながら震えている俺のものをぺろりとひと舐めする。俺が息を詰まらせた隙に身を乗り出すと、痛いくらいに張った玉から、竿の先端まで、毛繕いするときみたいにぺろぺろと舐め始めた。
ぞくりと、よく知った快感が背中を走る。
「すぺっ、や、やめ……」
腰が勝手に動いて、それをスペインの舌が追う。愛撫でも何でもなく、ただ舐められているだけなのに、下半身に快感が広がっていく。垂れる唾液すら気持ちいい。
「気持ちええ?」
「くぅ……っ」
皮膚の一枚下、体のあちこちで好き勝手に走り回っていた快感が、一点に集まり始める。
「はぷ」
腰を引こうとする俺を追いかけたスペインは、俺のものにじゃれつくみたいに顔を寄せて口に含んだ。ぬとぬとした舌が味わうみたいに絡んでくる。これ以上刺激されたら……!
「待て、待てっ」
「ふむ?」
きょとんとしたスペインと目が合った。その口には俺のが咥えられていて、スペインは何か言おうとしたのか、舌が撫でるようにぬるりと動いた。
「〜〜〜っ!」
その刺激を引き金にして、溜まりに溜まった快感が、やっと見つけた出口目指して一気に駆け昇った。
「んぶぅ!?」
スペインが目を見開く。吐かせないと。そう思ってるのに、射精の快感でそれどころじゃない。驚き、戸惑った顔のスペインを見ているだけで興奮する。唇から漏れる精液を止めようとするかのように、スペインはきゅっと唇をすぼめた。そしてそのままちゅうっと吸い上げる。
「ふむむ、ちゅずううっ」
「あ……くううっ」
「ンむっ」
最後の一滴まで搾り尽くすみたい吸ってから、スペインは口を俺のものから離した。
「ふはっ……はぁ……はぁ……」
解放された俺は、久しぶりに腰をベッドに預けて、天井を仰いだ。それからティッシュを取ろうと――
「んっ、んくッ、ゴクンッ」
「あ!」
「ぷは。飲んでしもた」
舌を出したスペインは、いたずらが見つかって照れる風にも、もうないと見せているようにも見える。その口の中は確かに空っぽで、スペインは唇に付いていた残骸すら舐め取ってしまう。
「……腹壊しても知らねーぞ」
「平気やでー。それより俺……」
脱力した俺に期待と情欲のこもった目を向けてから、スペインは視線を下に降ろした。釣られて見た先には、さっき以上に大きくなったものが屹立していた。
「もう我慢できへん」
「んく、ぅっ……」
ローションと唾液でぐちゃぐちゃになった肛門に押し当てられたスペインのものは、火傷しそうなくらい熱かった。ずっ、ずっ、と少しずつ入ってくる。今日まで一度だって触ったことがなかったところを擦っている。力を抜こうとしてるのに、気づけば奥歯を噛みしめていた。つっかえたみたいな腹の中で、自分じゃないものの存在感がどんどん大きくなる。
スペインはと言うと、堪えてる見たいな、苦しそうな顔をしていた。我慢できないって言ったくせに。俺のことなんか気にしないで、好きに動けばいいのに。
「はー、キツいなぁ」
俺の視線に気づいたスペインはからりと笑った。
「つらくない?」
「へいき……だっ」
散々慣らしたせいか、最初みたいな痛みはない。息苦しいのもさっきよりずっとましだった。そりゃ痛いのは嫌だけど、壊れ物みたいに扱われるのも癪で睨み付ける。
「……かわええ」
「ぐっ」
効果がないばかりか、スペインが落とした呟きに、俺の方がダメージを受けた。ちくしょう!
スペインのにやけ顔を見ていると力なんて抜けっこないから、俺は目を閉じた。瞼の裏に映っている、笑顔を作る直前の、汗を浮かべたスペインの顔を追い払って、息を吐くことに専念する。
「……うん、ええ感じ…っ」
「っあぐうッ」
スペインが語気を強めた直後、今までになかった衝撃が来た。指とも舌とも違う、もっと質量の大きなものが、ずぐんと腹の奥に突き刺さった。
「うんっ、うんんっ、んんーっっ」
頭の中がぐらぐらしてる中で、スペインの感触だけがはっきりと伝わってくる。
「いきなりっ、ヒふっ…押し込むなよ……!」
「すまんっ」
「ふお……っくぅ、ひぐっっ」
言ったそばからスペインは腰を動かした。
腹の中身を引きずり出されているような感覚。ふと楽になったような気がした直後に、再び圧迫感が戻ってくる。触れたところから解けていきそうなくらいの熱にかき回されて、体に力が入らなくなる。
「ちょっと、待ってぇッ」
「うん……っ」
大きく息を吸ったスペインは、俺の脚を強く掴んだ。動きを緩めようとする間にも、待ちきれないみたいにくいくいと押しつけられる腰。スペインは眉を寄せて浅い呼吸を繰り返す。そして、逃れるように腰を引き始めた。傘みたいに広がったカリ首が内側をごりごり擦って、今どこにいるのかを主張してくる。
「ふぁ、あぁあっ!」
スペインが引っ掻いたところが異様に熱くなる。それもしばらくしたら治まると思ったのに、冷めるどころか内側からどんどんと、燃え出したように激しい熱を帯びていく。
「くぅ……、ロマーノ、締めすぎやっ」
あとちょっとで抜けるというところでスペインは止まった。そこで止まって、休ませてくれるのかと思ったのに、そのまま震えるみたいに腰を小刻みに動かした。
「ひぐっ」
ぐりぐりと押しつけるその刺激で、爪先まで、電気が走ったみたいになった。
「すっごい。ちゅーって吸いついてくる。ほら」
「くひ、ひぃんっ、遊ぶなぁ!」
スペインはまるで遠くに投げたボールを取ってこられたみたいに、嬉しそうに言った。見えるはずのない自分の尻穴がどうなってるのかが目に浮かぶ。
しかもスペインは愛おしげにそこを撫でた。
「俺、ロマーノと繋がっとる」
伸びて薄くなった皮膚を指先でコシコシ擦る。局部だけを襲う鋭い刺激。それじゃ足りない。そこだけじゃ足りない。ぎゅうっと締まる中には何も触れなくて、ちゃんと奥まで欲しくて、腰が勝手に持ち上がる。
「スペイン、スペインんっ」
もっと、もっと深いところにスペインが欲しい。
「来いよ、早く、入れろよぉっ」
「うんっ」
「ンあはぁあああっっ!!」
擦り上げてくる、ぱんぱんに膨らんだ亀頭の感触がすごくいい。腹の中がスペインでいっぱいで、あれだけつらかったのが嘘みたいに気持ちいい。
「ロマーノの中……めっちゃ、とろとろやのに、すっごいキュウキュウ締まるぅッ」
「ひふっ、ふああっ! 言うなぁ!」
埋め込まれた肉棒が動かされるたびに、ぐちゅぐちゅと音が響く。聞いているだけで体の芯がじんじんするいやらしい音。強く、内壁を抉るみたいに力強いピストン運動。乱暴とも言える律動に全身が震える。握っていたシーツはほとんど剥がれていた。
「ああっあふあぁっ! んひいいぃ!」
声が抑えられない。体が、自分の体じゃなくなったみたいに言うことを聞かない。でも快感はちゃんと全部感じてて、悦情に染まるスペインの顔も見えていて。
「ロマーノのお尻、めっちゃ気持ちええ……っ」
「俺もっ、スペインのちんぽ、気持ちいひい!」
揺すられる体に合わせて揺れる俺のも、涎を垂らすみたいにだらしなく先汁を垂れ流している。気まぐれに弄ってくるスペインの手にイカされたのか、それともケツ穴に出し入れされているだけでイってしまったのか、腹の上には精液が飛び散っていた。
「ロマーノっ」
俺の脚を掴んで、スペインがぐっと腰を沈めてきた。今までとは違う風に脈打っているペニス。
「出すで、全部っ、ロマーノの中にっ」
宣言するが早いか、スペインは射精した。腸の中に流れ込んでくる精液。音がしそうなくらい勢いよく、ちんぽだけじゃなく精液にも犯されてるみたいな量が、腹の中に注ぎ込まれる。
「くふっ、きゅひぃ!」
「ふあぁっ……ええわ、すご……」
スペインはぶるぶると震えながら、下腹を押しつけるみたいにして、さらに深く押し入れようとする。俺はもうイケないのに、内壁を擦る刺激が絶頂の先へと押し上げてくる。
「まだ、ぁんっ、出んのかよぉっ」
普通ならもうとっくに終わってるはずなのに、射精の勢いはまだ衰えない。息ができているのが不思議なくらい苦しくて、頭がぼーっとする。それでも俺の尻はスペインのちんぽを離さなずに、全部中に入るように咥えている。脈打ってるスペインのはやっぱり熱くて、俺の体も燃え立つみたいに熱くなっている。喘ぐたびに喉に触れる空気だけが、場違いに冷たい。
「俺な……ロマーノのこと好き。めっちゃ好き」
縋りつくみたいに俺の脚を握っているスペインは、睦言と言うには幼い口調で言った。
「俺もだ、よッ」
「えっ」
スペインは間抜けな声を出して、ぽかんと口を開ける。
「何でっ、そこで驚くんだよ、このやろぉっ」
「今の、ほんま?」
「ここで嘘つくと思うか?」
気を抜けばどっか行ってしまいそうな意識を引っ掴み、力一杯睨むと、スペインはオロオロと辺りを見回した。誰に確かめるつもりなんだよ。まさか神さまとやらがこれ見てんのか?
「こら、こっち見ろ」
声をかけると思い出したようにこっちを見た。入ったままだってのに、まったく、仕方ねー野郎だな。
「俺はスペインが好きだ」
「……ほんまやんな? ロマーノ、俺のこと好きやねやんな? ……はは。どうしよ、めっちゃ嬉しい」
笑っているくせに、まだ射精してるくせに、スペインは今にも泣きそうな顔をしていた。