勉強熱心

 回数か、持続時間か。
 コンドームの後始末を終えた甚壱は、動揺をひた隠しにしながら蘭太の隣に体を横たえた。蘭太ががっかりしているように見えるのは、考えすぎとは思えなかった。
 年甲斐もなく若ぶろうとする者たちを軽蔑すらしていたが、二回り近く若い恋人ができて初めて分かった。逃れようがないからこそ、人はあがくのだ。男でいられるタイムリミットはそう長くない。蘭太と比べると断然足りない。それでも蘭太を、恋人という立場を、手放したくなかった。
「蘭太」
 金と気持ちに余裕があることを捨てたら自分に何が残るだろう。
 甚壱は何でもない風を装って、蘭太の髪を撫でた。普段むき出しにしている首筋に髪が当たるのがこそばゆいのか、蘭太は笑いながら首をすくめた。触れられるのが嫌なのではないと伝えるように、甚壱の元に体を寄せる。
「よくなかったか?」
「いいえ、気持ちよかったです。どうしてそんなこと聞くんですか?」
 甚壱は蘭太の腰に腕を回して呼吸を整える。蘭太の、若い男の汗の匂いがする。蘭太が甚壱の体臭をどう思っているか、聞いたことはなかった。
「……物足りないように見えた」
「そんなことありませんよ」
 笑いを帯びた声で即座に否定される。心臓は丈夫な方だ。トレーニングばかりしているせいで、負荷をかけている方がむしろ安定する。負荷が精神的なものでも同じことだった。
 納得していないことを示すために無言でいると、蘭太は「うーん」と鼻から声を出した。
「甚壱さん、始める前に『嫌だったら言え』って言いましたよね。俺、一度も嫌と言いませんでした」
「ああ」
 言っていたら聞き逃すはずはない。甚壱は相槌を打った。
「全然動けませんでしたけど、これでも勉強したんですよ。甚壱さんはきっと普通のセックスになんか飽きているだろうから、応えられるように」
「……」
 一体何を学んだのか。甚壱は生真面目な蘭太がしたという、対極の位置にある勉強内容が気になったが、今聞くべきはそこではない。蘭太の肩を押して体を離し、どことなく気まずそうに見える顔を窺う。
「何かしたいことがあるのか?」
「しないならいいんです。甚壱さんとするの好きです。満足しています」
「俺がしそうなことを想定した学習だったんだろう」
 口ごもった蘭太が離れようとする気配を感じて、甚壱は即座に蘭太を抱きすくめた。恥ずかしがっているのだと分かるうめき声が聞こえた。
「俺だけ盛ってるみたいじゃないですか……」
「さっきまで何を見ていたんだ。俺は蘭太に興奮している。今もだ」
 熱を持ち始めた下半身を押し付けると、蘭太はびくりと体を跳ねさせた。逃げないからといって同意したことにはならないと、甚壱は甚壱で勉強している。これだからおっさんはと思われたくなかった。
「俺はお前の思うような男になりたい。教えてくれ、蘭太」

投稿日:2023年1月9日
甚壱がしたがりそうと蘭太が思い、勉強が必要で、アブノーマル。焦る甚壱が書きたくて始めた話で、全てを満たすプレイを考えてるうちに「地位のある男性は赤ちゃんプレイをしたがる」という風評からそれしか思い浮かばなくなってしまって断念しました。甚壱がばぶーになること自体より甚壱がそれを求めてくると思ってる蘭太がナシな気がしたんです。