シンプルイズベスト
目が大きくてもまばたきは一瞬で終わるらしい。
部屋の中央より庭寄り、床の間側。蘭太が自室を訪ねてきた時の定位置に座った甚壱は、蘭太が二度目のまばたきをするのを眺めながら、思考がよそに行かないよう意識を縫い止めた。
蘭太は時々こうして硬直する。
原因が分からない時もあるが、今回は明確で、いつも蘭太の頼みを聞き入れる形で始める性行為に、甚壱から誘った。そのせいだった。
男を誘う方法は、誘われる側の実体験として知っているが、自分を構成する要素を加味して考えると、作法の借用ができるとは思えない。
やむなく直截に、簡明に、率直に、真正面から「セックスをしないか」と尋ねる形を取った。言ってから、蘭太がするように主語を省いて生臭さを抑える手があることに気づいたが、後の祭りだ。
まごつく蘭太の表情からすると、結論は既に出ているようだ。
しかし、甚壱は蘭太の返答を待った。
蘭太から誘われる時、言葉を聞く前からしたいことは分かっている。見つめてくる瞳に宿った熱は、何よりも雄弁だった。
普段の快活さをいくらか目減りさせ、言い出しにくそうにする様子に、言われずとも汲んでやるべきか、と甚壱は毎度考える。口にしないのは、下心が見え透いていると伝えるに等しい行為が、蘭太の心を曇らせそうで躊躇われるからだ。
感情を隠すことを覚えた大人の澱みを、蘭太にはまだ持ってほしくない。
蘭太と過ごす時間の、裏を探らずに済む穏やかさが、甚壱は好きだった。
「――したいです」
たっぷり考えた蘭太の口から出てきたのは、飾り気のない素直な言葉だった。
せっかく自分から誘ったのに、結局許可を与えるような形になってしまった。
反省点を探りながら、甚壱は頷いた。
- 投稿日:2022年11月9日