本作品は未成年者に対する性暴力を含みます。同意を取った(蘭太も望んでいた)という表現をしていますが、成年から未成年者への性行為は全て暴力です。
とりあえず明日
「甚壱さん、どうかしたんですか?」
二、三言葉を交わしてから信朗と別れ、道場を後にする甚壱の影を追って入り口を見ていた蘭太は、戻ってきた信朗に問いかけた。
羽織を身に着け、袴まで穿いた甚壱を見かけたのは今朝のことだ。行き先は知らないが、滅多に見られない服装から、大事な用らしいことは蘭太にも分かった。もう一度見られるかもしれないと甚壱の帰りを楽しみにしていたのだが、今しがた遠目に見た横顔は、随分疲れているように見えた。時刻はまだ二時過ぎ。朝から出ていたとはいえ、信朗の言葉を借りるなら「化け物じみてる」甚壱が、疲れを見せるような時間ではない。
「んあ? ああー、甚壱な。マスかき見せられて疲れたんだろ」
「ますかき」
蘭太と話しながら、蘭太と組んで練習をしていた相手に自分の手首を取らせた信朗は、技のさばき方を身振りで示す。
「おん。向こうさんは気持ちいいけど、見てるこっちはなぁんも良くないってこと。悪い言葉だからな、甚壱の前で言うんじゃねぇぞ」
信朗のそういった発言にすっかり慣れた蘭太は、他の子達がするのと同じように、胡散臭いものを見る目を信朗に向けたが、それでも素直に「はい」と答えた。
「蘭太なら怒られないだろうし、お茶でも持って行ってやったらどうだい?」
「え、でも」
「気になるんだろ? お前は元々自主練なんだから抜けたっていいさ。心残りを作らないってのは、呪術師には大事なことだぜ」
信朗の大げさな物言いに、蘭太は思わず笑ってしまう。
「じゃあ失礼します。ご指導ありがとうございました」
「お茶をお持ちしました」
一礼して顔を上げた蘭太は、座卓の上にある湯呑みを見て固まった。信朗のアドバイスを受けて茶をもらってきたものの、仕事を終えて外から帰った甚壱に誰も茶を出さないというのはあり得ない。少し考えれば分かりそうなものだった。
「どうした。入らないのか?」
挨拶したきり何の動きもないことを怪訝に思ったのか、縁側の手前に腰を下ろして庭を見ていた甚壱は、肩越しに振り返った。
糸の切れた茶運び人形のように動かなくなっていた蘭太は、自身の隣に置いた丸盆を見る。湯呑みと茶請けが一揃い、道中こぼすことなく無事にある。
「いえ……お茶、二つはいらないですよね?」
「そうだな」
「……帰ります。失礼しました」
ぎくしゃくと開けたばかりの襖に手をかける蘭太を見て、甚壱は自分の隣をトンと叩いた。
「持って戻るのも面倒だろう。ここで飲んで行け」
「あ、はい。……えっと、甚壱さん、羊羹だけでも食べませんか? 栗羊羹、おいしそうですよ」
聞いた手順が思い出せないまま盆を持って部屋に入り、甚壱の元まで進んだ蘭太は、甚壱の前に栗羊羹が載った皿を置いた。茶を淹れてほしいと求めたとき、来客だと思われ用意されたものだったが、茶を出す相手は甚壱一人で、自分で持って行きたいと話した後、せっかくなのでもらってきた。羊羹の中に、夜空に浮かぶ月のように黄色い栗が浮かんでいる。
「蘭太は甘いものは好きか?」
「はい」
「なら食ってくれ。俺はあまり好かん」
甚壱は蘭太の膝の前に皿を置き直した。
「知りませんでした……」
甚壱のためと思って持ってきたものが全ていらなくなってしまった。悄然とした蘭太は、甚壱が羽織も袴も脱いですっかり家着に着替えていることに気づき、二重にショックを受けた。
「言っていないからな。大人なのに好き嫌いがあるのは格好悪いだろう?」
「そんなことないです」
脊髄反射で否定すると、甚壱はふっと表情を和らげた。
「甚壱さん、お布団敷きましょうか?」
蘭太が栗羊羹を食べ終わるまでの間、何をするでもなく庭を眺めていた甚壱は、声を掛けられて初めて蘭太の存在に気づいたような顔をした。蘭太が食べていると美味そうに見えると言うから、食べますかと尋ねて、そういう意味じゃないと首を振られたのは、ついさっきのことだ。蘭太は甚壱の反応に驚いて、目を丸くして甚壱を見つめ返す。
「お疲れに見えます。いいお仕事じゃなかったと聞きました」
向けられた目になぜと問われた気がして、蘭太は言葉を補った。茶を供するのも、布団を敷くのも、蘭太の仕事ではない。銘々に役割が与えられる禪院家で、他人の領分を侵すなと言われればそれまでだが、甚壱のためにできることなら何でもしたかった。
「……ああ、いや。そうだな」
「では」
「布団は敷かなくていい」
立ち上がろうとする蘭太の腕を取り、甚壱は引き止めた。
「寝すぎるのが心配なら起こしに来ますよ?」
難しい顔をした甚壱は、蘭太には休んだほうがいいとしか思えない。仮眠ではなく、翌朝まで寝てもいいくらいだ。
「甚壱さん」
蘭太はもう一度腰を下ろし、甚壱と目を合わせた。逃すまいとするように手首を握り込まれた時点で、自分が部屋を出たほうが休めるという考えはかき消えていた。
「俺に何かできることはありますか?」
「……蘭太」
「はい」
「少し……触らせてくれないか」
想像もしていなかった要求に、蘭太は目をぱちくりさせた。既に触られていると言える掴まれた手首に目を落とすと、甚壱も気づいたのか、気まずそうに手を離す。
離れていく甚壱の手を、蘭太は両手で捕まえた。
「いいですよ」
知らない匂いがする。
蘭太は甚壱の膝の上に抱かれながら、甚壱から香る嗅ぎ慣れない匂いを吸い込んだ。頭の奥がぼんやりするような、胸の底に匂いが溜まっていくような、重たさのある香りだ。普段の甚壱からはしない匂いだったが、嫌いではない。
人の膝に乗るのは久しぶりだった。年下の子も生まれて、蘭太としては自分はもうお兄ちゃんだという思いがあったから、少し恥ずかしい。それでも甚壱の腕にすっぽり収まって、ゴツゴツとした大きな手に撫でられていると、思い切り甘えてしまいたくなる心地よさも感じた。
「甚壱さん」
「うん?」
「楽しいですか?」
「あぁ」
ひとしきり蘭太を撫でてから蘭太の手をもてあそび始めた甚壱は、指の本数を数えるように辿っていく。手のひらの真ん中を指で押されたりこすられたりするのは、くすぐったいのとはまた違う、自分の体の知らない場所がかゆくなるような奇妙な感覚だった。
「退屈か?」
「平気です」
流石に楽しいとは返せなかったが、平気なのは本当だった。顔を覗き込んでくる甚壱が、どういう感情を抱いているのかは分からない。何を言うでもなく、ただじっと見てくる瞳を、蘭太は訳もなく緊張しながら見つめ返す。ずり落ちてしまわないようにか、手を握っているのとは反対の、腰に回された腕に力が籠もった。
「…………すまん」
互いの顔しか目に入らない、時が止まったかのような状態を解消したのは、甚壱からだった。
甚壱は蘭太の手を、体を離し、立ち上がる。
急に温もりと支えをなくし、取り残されたような感覚に襲われた蘭太は、座らされた姿勢のまま甚壱を見上げた。
「今から休む」
「あ、はい。お布団敷きますね」
「いい。蘭太は戻れ」
言うが早いか、甚壱は空の盆を蘭太に押し付けるようにして渡す。湯呑みも皿もそのままだ。
「甚壱さん」
「お前に非はない。いいから出ろ」
顔色は最初よりよくなったものの、眉間の皺が深くなった気がする。様子の急変が気になったが、甚壱の指示は絶対だ。蘭太は頭を下げると、逃げるように部屋から退出した。
◇
昼間のやり直しのつもりなのか、甚壱は蘭太が持ってきたホットミルクを渋々飲み干した。ホットミルクを飲むなど人生で初めてだ。甚壱用だと主張する蘭太に半分は飲ませたが、妙な甘さと生ぬるさがどうにも受け付けない。
「ほら、飲んだぞ。片付けはいいから部屋に戻って休め」
甚壱は蘭太が持っている盆を取り上げると、ホットミルクが入っていた汁椀を載せ、使っていた酒器の横に置いた。日付こそ変わっていないが、蘭太が起きているには遅い時間だ。
常夜灯の明かりの中、すぐそばに布団を敷いた部屋で、寝間着一枚の蘭太が神妙な顔で正座している。子供相手にどうかしていたと、期日まで余裕のある書類仕事までかき集めて、邪な考えを振り払った途端にこれだ。面倒な仕事を引き受けさせられたことといい、厄日としか思えなかった。
甚壱の指示を聞いて腰を浮かせた蘭太は、立ち上がらずに甚壱ににじり寄った。何をする気だと訝しむ甚壱の腿に手を置いて、それを支えに伸び上がるように身を乗り出す。呼気に混じる甘い匂いと子供の体温。とろんとした眼差し。甚壱はがしりと蘭太の肩を掴んだ。
「……蘭太」
「はい?」
「ここに来るまでに誰に会った?」
「台所で――」
「そこはいい」
「じゃあ、長寿郎さんだけです」
甚壱は蘭太の肩を掴んだ腕をいっぱいに伸ばしてから座らせて、汁椀を手に取って匂いを嗅いだ。先にそこそこ飲んでいたせいで何とも思わなかったし、今もピンとは来ない。甚壱の様子を見て、眠たそうな目をした蘭太がこてりと首を傾げる。
甚壱は水差しの上に伏せられたグラスを取って水を注ぎ、蘭太に向かって突き出した。
「飲め」
「お腹いっぱいです」
「それでも飲め」
「おしっこしたくて起きちゃいますよ」
今度は蘭太が渋る番だった。一杯目を飲み干してすぐに二杯目を注ぎ、一杯目よりも時間をかけて空にしたグラスに三杯目を注いでやると、蘭太は一度口をつけてから、難しい顔でグラスを胸の前で握った。牛乳を汁椀に半分、それに水をグラスに二杯。一度に飲めるのはこんなものだろうと甚壱は蘭太からグラスを引き取った。
「長寿郎は何か言っていたか?」
「ああ、はい。甚壱さんの膝に手を置いて……小さい声で名前を呼べって」
長寿郎から言われたままなのだろう簡潔な説明に、甚壱は眉間に皺を寄せる。婀娜めいた仕草であろうと、言葉にすればただそれだけのことなのだ。
「他には?」
「眠れるようにってお酒を。だから甚壱さんのって言ったのに」
「すまなかった」
禪院家の中では珍しく、長寿郎は洋酒が好きだ。善意だけで混ぜたのなら恐らくウイスキー。すぐにそれと分からない程度なら大事には至らないだろう。
「あと……んー……」
ホットミルクとアルコール、それに時間の遅さが合わさって、すっかり酔いが覚めた甚壱とは反対に蘭太は眠そうだ。まだあるのかと思いつつ、甚壱は蘭太が飲み残した水を呷った。万一に備えるなら酔いは残っていない方がいい。
「もういい。部屋に戻るのはなしだ。今日はここで寝ろ」
「いいんですか?」
「ああ」
水差しを枕元に戻し、盆と酒は部屋の隅に寄せる。牛乳を飲ませてしまったから、せめて口をゆすがせておこうと洗面所に立たせて、うつらうつらし始めている背中を押してトイレも済まさせる。甚壱自身は目が冴えたまま、押し入れから引き出した座布団を枕代わりに折り、抱え込むようにして蘭太を布団に寝かせた。
「俺が寝ていても、体や気分がおかしいと思ったらすぐに起こせ」
「分かりました。……甚壱さん、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
蘭太は気を失ったように眠り込んだ。まさかと思って様子を窺った甚壱は、規則正しい寝息を聞いて安堵する。
長寿郎に言われたことの全ては聞き出せなかったが、生涯現役を地で行く爺さんのことだ、どうせろくなことではあるまい。考えるとドツボにはまりそうになるが、蘭太に服を掴まれているから動くわけにもいかず、甚壱は天井を睨みつけた。
意識の端で物音を聞いた甚壱は、掛け布団が持ち上がる気配に薄く目を開けた。トイレにでも行っていたのだろう。慎重に体を滑り込ませる蘭太にまとわりついていた夜気は、すぐに布団の中に溶けた。
ほっと息を吐いた蘭太の体を、甚壱は抱き寄せる。
「じんっ――」
「もう少し寄れ。冷える」
甚壱が仰向けに寝直すと、息を呑んで固まっていた蘭太は息を吐き出し、身じろぎの後に大きく深呼吸をした。そのまま寝入るかと思ったが、甚壱の方に首を傾ける。
「起こしましたか?」
「気にするな」
蘭太は子犬が鼻を鳴らすような声で返事をして、ふわあとあくびをした。甚壱の方に向かって寝返りを打ち、暖を取るように身を寄せる。
「甚壱さんは我慢強いって、長寿郎さんが言ってました」
眠たそうな声で蘭太は言う。起こしたことについてではなく、寝る前に聞いたことの続きだと気づくのに時間がかかった。
「甚壱さんは我慢ばっかり。かわいそう」
「……俺が我慢しなくて困るのはお前だ」
寝息同然に深くゆっくりと息をしていた蘭太は、ほとんど音になっていない囁くような声で答える。
「俺が困るんですか?」
「ああ」
「俺だけ?」
「……ああ」
蘭太はくすくすと笑った。
「変なの。俺が困っても、甚壱さんは困らないのに」
「……早く寝ろ」
頭を撫でてやると、蘭太は笑っているように細く目を開けた。甚壱に向かって手を伸ばし、拙い手付きで頭を撫で返す。眠たいということがよく分かるぬくい手だった。子供と頭を撫で合うというおかしな状態だったが、じきに眠るだろうと好きにさせていると、案の定、蘭太の腕から力が抜けて、沈み込むように眠りに落ちた。
◇
「好きなだけ触ってください」
二度あることは三度あるというやつか。腹の空き具合も気にならない午前十時、今日は眠くありませんと自信満々に現れた蘭太を見て、甚壱は盛大な溜め息をついた。
廊下で行き合った信朗には、昨日の仕事はそんなに嫌だったのかと心配された。心労の理由が他にあるとは言えず、曖昧に言葉を濁して済ませたが、今にして思えば蘭太が「いい仕事じゃなかった」と聞いたのも信朗からなのだろう。
「蘭太」
「はい」
名前をただ呼ぶだけで蘭太は嬉しそうな顔をする。足の間に入り込んだ蘭太の頬に手を伸ばすと、蘭太は自ら頬を寄せた。
さらさらとして柔らかい頬をしばらく触ってから、いかにも楽しそうに弧を描いている唇に親指で触れると、蘭太は一転して不思議そうな顔をした。唇の表面を撫で、少し湿り気を感じる部分まで指を含ませる。甚壱が何も言わないせいか、ついには不安そうな表情で蘭太は口を開いた。
「甚壱ひゃ」
「噛むなよ」
「んう」
差し込んだ指で感じる、軟らかく熱い舌とぬるついた粘膜。歯列を辿っていくと、生え変わる途中らしい隙間が指に触れた。口からあふれそうになる唾を飲み込もうとしたのか、指を咥えたまま閉じた口の中が狭まり、歯の尖りが指に当たる。噛んだつもりはないのだと言いたげに、蘭太は申し訳なさそうな顔で再び口を開いた。
蘭太の口から指を抜いた甚壱は、ついた唾液を指をこすって馴染ませる。
「続けていいか?」
「は……ハイっ」
思っていた触り方ではなかったのだろう。強張った声で、しかし蘭太は承諾した。
「怖かったり嫌だったりしたら言え。すぐにやめる」
非術師の子供の生育環境など知る由もなかったが、禪院家で術師として育てられているからには、痛みも恐怖も多く経験する。想像がついてしまうために却って身構えた蘭太の頭を、甚壱はできる限り優しく撫でた。
「薄いな」
「甚壱さんと比べたら誰だってそうです」
拗ねていることを隠しもしない率直さを愛らしく思いながら、目の前に立たせたパンツ一枚の蘭太を眺めていた甚壱は、緊張気味に呼吸している腹に口づけた。驚いたらしくビクッと筋肉が固くなるが、それでもまだ柔い。
掴んだ腕を下に引くと、意図した通りにすとんと膝を折り、肩を押すと体を横たえる。布団を敷いたことは安らぎを与えるには足りないようで、枕に頭を乗せた蘭太はしきりと目を瞬かせた。
「舌を出せるか」
蘭太の顔の横に手をつきながら、甚壱が手本にべっと舌を出してみせると、蘭太は躊躇いがちに舌を出した。もっと、と催促して出した長さが限界らしいことを思うと、口だけで済ませるにしても、先端を咥えさせるのが精一杯だろうと当たりをつける。
「そのままにしていろ」
「ひっ」
屈み込んだ甚壱がべろりと蘭太の舌を舐めると、蘭太は小さな悲鳴を上げて舌を引っ込めた。見下ろす甚壱の目を見て指示に逆らったことに気づいたらしく、影になっているせいで黒々と見える瞳が揺れる。蘭太を怒鳴りつけた覚えはないが、指導に手を抜いたこともない。そのせいだろう。胸の上に手を置くと、うさぎの心臓のように早い鼓動を感じた。
「ごめんなさぃ……」
蘭太は捧げるようにおずおずと舌を出し、甚壱を見上げる。
甚壱は蘭太の額を撫でてから顔を近づけ、舌の表面をこすり合わせる。それから舌を吸い上げるように口に含んだ。鼻口をいっぺんに覆ってしまったほうが楽なような、本当に小さな口元だった。
「うっ、ふっ、うぅ……」
甚壱が口を吸うたびに、蘭太は嗚咽のような、むしろ嗚咽そのものの声を漏らした。甚壱の行動によって怯えているというのに、頭を囲うように肘をついた甚壱の腕にすがるようにして耐えているのは、どういう心境なのか。
自分の股間が、触れてもいないのに滾っているのが分かる。キスだけでこうなるほど青くないはずだったが、勃ってしまったものは仕方がない。甚壱は蘭太の体を無理やり貫いてしまいたい衝動を抑えながら、飴でも含んでいるように甘く感じる唾液をすすった。
「んっ、ンンッ、ん……ッ」
蘭太は脚をばたつかせ、ぎゅう、と甚壱の腕を掴む指に力を籠める。ろくに息ができていないのだと気づいて、甚壱は口を離した。
「ッぷはっ……はっ……」
解放された蘭太は大きく息を吸って吐き、すすり泣くように息を震わせた。
「怖かったか?」
「大丈夫……です……」
頬の紅潮は息苦しさによるものだ。甚壱が頭を支えてやると、蘭太は自分でも首を持ち上げながら息を整える。それでも、甚壱を見る表情に拒絶の気配はない。
「やめにするか?」
「いえ、まだやれます」
甚壱が蘭太の後頭部を支えた手を枕まで下ろすと、蘭太はゆっくりと体の力を抜いた。
「へ?!」
四つん這いにさせた蘭太の尻たぶを掴み、剥き出しになった穴を舐めると、蘭太は元々高い声をひっくり返らせた。
「甚壱さん? 何してるんですか?」
「蘭太の尻の穴を舐めてる」
「何で?」
「ここに俺のちんちんを入れたい」
「えっ?」
見えもしないのに事態の確認をしようとする蘭太の尻を動かないように押さえて、甚壱は窄まりに舌を押し付ける。収縮しようとする穴の縁を指で引いて阻害しながら、舌先をねじこむようにして内側を舐めた。
「うっ……やっ、……!」
逃げようとはしないものの、尻穴を舐められるのは気持ち悪さがあるのか、蘭太は腰を引こうとする。甚壱にとってはないも同然の抵抗だったが、それでも蘭太の意を汲んで、舐めるのを一旦やめてやる。
甚壱は蘭太がよすがにしている、甚壱自身の枕を少しばかり憎く思いながら、片手でも掴めそうな蘭太の尻を両手でほぐすように揉んだ。舐められるよりは違和感がないらしく、大人しく揉まれる尻肉の中心で、唾液にまみれた肛門がくにくにと形を変える。
「……いきめるか? うんちをする時みたいに尻に力を入れるんだ」
理解に時間がかかっているのか、抵抗しなくなった蘭太の尻から手を離し、甚壱は痛いほどに漲っている自分の肉棒を取り出した。目の前にある小さな穴と、先に指と舌で味わった口の中。自慰の材料は十分だった。
「そんなことしたら、うんち出ますよ?」
「出したらいい」
「あっ、だめ、だめですっ!」
甚壱がもう一度舌を押し当てると、甚壱の舌を挟みこむように、蘭太の肛門がぎゅうと窄まる。異物感に驚いて緩んだ穴をさらに舐め、唾液を垂らして滑りを足し、侵食する範囲を増やしていく。抵抗を諦めたらしい蘭太は枕を抱きしめて、呻くような声を漏らしながら腹に力を入れた。今までで一番柔らかくなった肛門に口づけて、甚壱は唾液を中に送り込む。
「うんっ……!」
「今日はちんちんは入れないから心配するな」
いくら舐めて濡らしても、コンドームについている潤滑剤だけでは挿入するのは難しいだろう。指が一本でも入ればいい方だ。
「うんち出てない?」
「大丈夫だ、出ていない」
中から漏れ出る唾液を指先でくるくると馴染ませると、蘭太の肛門はヒクついた。指でもごく浅くなら含ませられる。拡げることができるのなら、今でも思い切りやれば入るかもしれない。腹の底から湧き立つ欲求を鎮めるために、甚壱は竿をしごいた。
「甚壱さん?」
拘束が緩み、刺激が単調になったことを不審に思ったか、振り返った蘭太は甚壱の屹立を見てぎょっとした顔をした。
「えっ……え?」
「勃起したチンポを見るのは初めてか?」
小さな子供でも勃起自体はするはずだったが、そうと認識していないのかもしれない。それか同じものだと思っていないか。
甚壱は蘭太の意識が後ろに向いたことを幸いとして、蘭太の腕を引いて座らせた。正面に回り込み、限界が近づいている肉棒を蘭太の目の前でしごき立てる。痛そうとでも思ったか、蘭太は甚壱の顔と陰茎を見比べて、自分の股間をぎゅっと握った。
「蘭太」
「はっ、はい!」
「咥えてくれるか? ほんの少し、アイスを舐めるみたいに口をつけるだけでいい」
「……ぅ……はい……」
蘭太は口を開けて、甚壱が突き出した、赤黒く膨らんだ亀頭の先端を口に含んだ。先に指を咥えさせたことが功を奏したか、歯に当たらないように舌を使っている。
「上手だ」
頭を撫でると、蘭太はぱちぱちと瞬きした。うまいものではないし、先走りが滲んでいるからだろう。きゅっと眉根を寄せる。
「……少しの間我慢してくれ」
「ん」
「出たらすぐに吐き出していい」
何が出るのかと聞きたそうな蘭太の目を見ながら、甚壱は頭を掴んで口腔を犯したい衝動を圧し殺し、噴き上がるように昇ってきた精液を蘭太の口の中にぶちまけた。
「っ!?」
今日一番目を丸くした蘭太は反射的に身を引いた。射精したばかりの陰茎と、最後まで絞り出すために陰茎をしごいている甚壱の手を、信じられないものを見るような目で見る。
「うえぇ……」
余程嫌な味だったらしく、一瞬で涙目になりながらも、蘭太は最低限の行儀を守る気らしく口を閉じようとする。甚壱はその口元に重ねたティッシュを押し当てた。
「すまん」
「うっ、うぇ……」
精液と唾液を吐き出させたティッシュを丸めて捨て、追加で引き抜いたティッシュを片手に様子を見守る。まだ口に味が残っているのか、蘭太はえずくように喉を鳴らした。飲み込んだように見えたが、堪えきれなかったらしい。甚壱はもう一度口を拭ってやった。
「にがい……」
「悪かった」
蘭太にティッシュを箱ごと持たせ、脇の下に手を入れ持ち上げた甚壱は、蘭太を洗面所へと運び込んだ。
「甚壱さんは甘いものが嫌いだから」
「……そうだな」
精液が苦いのはそのせいではなかったが、甚壱は蘭太の苦言にひとまず同意した。蘭太のは甘いのかと混ぜ返すのは最悪の部類だろう。あの小さな性器から出るのはどんな味がするのか試してみたい気はしたが、これも今言うべきことではない。
布団を片付け、服を着直し、甚壱が買って来させたカップのバニラアイスを食べ終えた蘭太は、手を合わせてごちそうさまを言った。甚壱と距離を取っているのは、部屋に人が出入りしたからではなく、近寄るのを無意識のうちに避けているからだろう。
「……次はいつしますか?」
「もうしない。するべきじゃなかった」
蘭太は茶托に湯呑みを戻し、甚壱を見た。
「ちんちん入れたくないですか?」
「……蘭太」
咎めるつもりで名前を呼んでも、蘭太は怯まなかった。茶托を横にずらし、甚壱ににじり寄る。昨夜の焼き直しのように甚壱の腿に手を置いた蘭太は、今度は正座を崩さないまま甚壱を見上げた。添えるだけのつもりだったろう指先に籠もった力は、間違いなく緊張から来るものだ。
「俺、いいですよ。甚壱さんに我慢しないでほしいです」
「……お前が代わりに我慢すると?」
「はい」
甚壱は無言で蘭太を抱え上げた。突き放そうとしたか、すがりつくためか、肩を掴んでくる蘭太の脚を胴をまたぐように広げさせると、宙に浮いた尻の下、甚壱の股の間に何があるのかを思い出したのか、甚壱を見る蘭太の目に力が入る。
「嬉しい申し出だが、我慢はしなくていい。蘭太もよくなれるように、俺が努力しよう」
「俺はいいです。甚壱さんが気持ちよかったらそれで」
「それはよくない」
甚壱は体を傾けて膝をずらし、蘭太の尻を畳の上に降ろした。無抵抗を貫く気でいるだろう蘭太の、甚壱の服を握りしめている手を解いてやり、それ以上はどこにも触れずに離れた場所に座り直す。
「蘭太が気持ちよくなるところが見たい。これは俺の勝手だから、聞く必要はない」
「う……じゃあ、俺もがんばるので、甚壱さんもがんばってください」
「あぁ、よろしく頼む」
- 投稿日:2021年8月12日
- 甚壱は子供に手を出すタイプのキャラじゃないと思うのですが、甚壱が子供の蘭太とセックスするところが見たいから書きました。4000字書いても理性が崩れず、見切り発車で手を出すところから書き始めたせいで、前半と後半のつなぎが甘いです。視点も揃っていない。つらい。