以下のものが含まれます。
- 短針中生のパラレルワールド
- モブ(教員)によるアカバの強姦
- 方言を矯正しようという活動
札付き
文化祭で、アカバは来校していた他校生に怪我をさせた。
カツアゲされていたのだという在校生からの証言があったが、当の高校生は容疑を否認。アカバとてクロノとのケンカに巻き込んだというのが実情だったために、棚からぼた餅状態の証言に乗り切れずに謝罪した。高校生も後ろ暗い身だ。ごねることなくお開きとなった。
それで終わりのはずが、謝罪の場に立ち会った生徒指導の担当教員から声がかかったのだ。
曰く、クロノが指摘した「じゃあじゃあうるさい」というのは真実であると。
標準語が話せないと将来困ると言われても余計なお世話だし、他人がどう思おうと知ったことではなかったが、校内暴力の発端としてクロノを処罰すると言われては、アカバとて指導を受けることを飲まざるを得ない。自分のせいでクロノが怒られるのは嫌だった。
男に伴われて入った生徒指導室。アカバは机を挟んで向かいに座った男から、音読するようにと絵本を渡された。全くもって子供向けの、対象年齢が書いてあるような本だ。イントネーションもアクセントの位置もおかしいのだと言われ、いくらなんでもバカにしすぎだと噛みつくアカバに、男はへらへらと笑いながら一回で済む方法があると言い出した。
とっさのときに標準語で話せると証明できれば、指導は今回限りで終わり。
さっさと終わらせたいアカバとしては願ったり叶ったりだった。クリアできる気でもいた。椅子から立ち上がった男が、ズボンを下ろして自らの下半身を露出するまでは。
「何しとるんじゃ!?」
「はーい、不合格。指導続行な。ほら、絵本開け」
「え? え??」
男は机を回り込み、未だ座っているアカバの隣に立つ。
生徒指導室は生徒のプライバシーを保護するため、吸音剤をふんだんに使用して造られている。分厚いカーテンのおかげで窓から覗き見られることがないのはもちろん、出入り口も内鍵で施錠できるために、急に人が入って来ることもない。男は生徒指導室について九十分の使用許可を得ていて、職員たちは多少の用ではノックすらしない状況だ。
男がしごくごとに角度がついていく性器を目の前にして、アカバは嫌悪を感じるよりもまず信じられないという思いで男を見上げた。男はアカバの学年の教科担当ではなかったが、知らない人間ではないのだ。気が狂ったとしか思えない行動に出られたことに、頭が追いつかなかった。
「聞こえなかったか? それとも言葉が通じねぇか? じゃあじゃあ星人だったか、クロノのやつも上手く言ったもんだ」
「なんじゃと!?」
「ほら、また出た。ちゃあんと標準語をしゃべれるようにしてやるから、これから一週間、毎日ここに来い。集中講座だ。来ないとクロノに代わらせるからな」
◇
「わざと間違ってるんじゃねえか?」
「そんなわけ……っ」
反論しようとしたアカバは口ごもった。生徒指導室の中では標準語で話す――それが、指導員である男が決めたルールだった。ルールに違反した場合は罰が待っている。スボンも下着も脱がされ机に伏せさせられたアカバは、にやにやと嫌な笑みを浮かべて覗き込んでくる男を睨み返した。
男の屹立はすでにアカバの中に入り込んでいる。一回目の指導からそうだった。「おまえらの世代はカンチョーとかしないの?」と言われてもアカバにはピンとこず、着替えでもない場で服を脱ぐことの異様さに抵抗すると「嫌なことじゃないと罰にならないだろ」と無理やり露出させられたのだ。打撲にも裂傷にもなっていないから体罰ではないと言われると、アカバもよく分からなかった。
「そんなわけ?」
「そんなわけ……ない、ありません」
「おおー、正解だ」
「正解した、から、抜いて」
「ばぁか、まだ始めたばかりだろ。おれが萎えたら最初からだぞ、がんばれがんばれ」
「……っ」
ぺちぺちと剥き出しの尻を叩かれて、アカバは嫌悪感で体を震わせた。それでも男が萎えてしまわないよう、意識して肛門を締め付ける。生ぬるい体温に硬く張った輪郭。今やすっかり馴染んでしまった男の肉棒を意識して、アカバは込み上げてきた吐き気を飲み込んだ。
もし萎えてしまったら、再び男の性器を勃起させなくてはならない。もっとそそるような顔を、ポーズをしろと言われ、参考としてアダルトビデオのパッケージを見せられる。アカバとしては初めて目にする卑猥さを強調した被写体で、思わず顔を赤くしたことをからかわれた。運動部のくせに体を動かすのが下手だとなじられながらポージングをし、写真に撮って見せられる。あんな恥ずかしい思いはもうしたくなかった。
「こっちばっか上手くなるなぁ」
「うあ……!」
男の手がアカバの尾てい骨のくぼみを指でぐりぐりと押した。男はいつも助けてやるという名目で腰を動かすくせに今日は止まったままで、アカバはそのことに落ち着かなさを感じている。閉ざした肛門をこじあける熱塊。引き抜かれるときの排便に似た感覚と、心臓を掴まれているような、目に見えない何かを奪われているような恐怖。記憶から再構成した想像を、尾てい骨という別の部分からの刺激が上書きしてくる。
「ん? 今腰動かしたか? 気持ちいいのか?」
「動かしてない……ですっ」
男には見えていない側。机とアカバの腹に挟まれて、アカバの性器は軽く立ち上がっている。一度男に勃起がバレたとき、男は「せっかくだからな」とアカバの性器をべろべろと舐め回した。正面から見る性欲にまみれた男の顔の気持ち悪さと、なのに訪れる快感に翻弄されて、それ以来アカバは自分の性器が嫌になっていた。
「そうかあ?」
男はアカバのシャツの中に手を入れ、脇腹を撫でさすった。びくついたアカバがさらに陰茎を締め上げたのに気をよくして、男はアカバの陰茎の様子を確かめるために腹側に手を入れるふりをする。
「やめ、て、ください! わし……ぼく、気持ちよくなってないです」
男は机に張り付いたアカバが、指先が白くなるほど手に力をこめているのを見下ろしほくそ笑んだ。ぱっと手を離し、励ますようにアカバの背中を叩く。
「じゃあ信じるとするか。教育はお互いへの信頼が大切だからな!」
「ありがとうございます……」
ほっとしたのか悔しいのか分からない。アカバはじわりと熱くなった目を瞬かせ、鼻をすすった。言葉が違うと言われても、何が違うのか分からないのだ。繰り返し聞いているうちに、どちらの発音が正しいのかも分からなくなってくる。
「……続き、ご指導お願いします」
「よし、じゃあ次の問題だ」
◇
「アカバ!」
「おっ……おう、クロノか。どうした?」
「今日も部活来ないのか? シライ先輩が心配してたぞ」
「ん……師匠に心配をかけるのは、本意じゃない、の、だが……」
アカバは顔を覗き込んでくるクロノから距離を取りながら答えた。
短針中は剣道部の強豪校というわけではなかったが、部活動は毎日あった。アカバもシライに会いたいがために毎日参加していて、クロノやレモンも同様だ。当然みんな剣道の練習に励んでいるのだが、部活の終わりに他愛もない話をしたり、買い食いしたりする時間を楽しみにしていないと言えば嘘になる。
「今日は用事があって、行けない……んだ」
アカバは今日も生徒指導室に行かなければならない。一週間という約束のはずが、指導はすでに二週間目に突入している。すべてはアカバが標準語を習得できないせいだった。
本来なら竹刀を握っていたはずの手にアカバは目を落とす。今は柄の感触より、指導員の男のペニスの感触のほうが染み付いている。
アカバの熟達の遅さに男の指導はエスカレートして、生徒指導室で練習するだけではなく、撮った動画を参考に家で練習するようにとまで言ってくるようになった。アカバのスマートフォンには男から送られてきた動画が複数保存されており、家で練習した証拠として男に見せるために、アカバが自分で撮った動画もある。それらの動画は普通の写真や動画とはフォルダを分けてあったが、クロノたちと写真の見せ合いをしているときに操作を誤ろうものなら、自分の狂態がバレてしまう状態だ。幸いなことに、最近のアカバは見せたいような写真を撮る機会がなく、クロノたちの会話に参加することもなかったが。
「アカバ? 熱でもあるのか?」
「……っ」
アカバの額に当てようとしたのだろう。顔の前にかざされたクロノの手から、アカバはばっと身を引いた。
過剰な反応だった。アカバは驚いた顔をしたクロノを見て罪悪感を抱いた。
クロノが悪いのではない。悪いのは自分だ。
アカバはそれをクロノに告げようとしたが、元々の性格とストレートに友達とは言えないクロノとの関係により、謝罪の言葉が上手く出てこない。さらにはそれを標準語に修正しなければならないという煩雑さから、アカバは気持ちを声に出せずに口ごもった。その後すぐに生徒指導室の外なら標準語を話す必要がないことに思い至るが、指導員の男が言うには、クロノ含め学校の人間はアカバの話し言葉を耳障りだと感じているらしいのだ。部活を休んでいる負い目もある。これ以上クロノに不快なやつだと思われたくなかった。
アカバはじっとクロノを見て、それから足元に視線を落とした。
「大丈夫、なんでもない」
「……みんな待ってるからな。用事が終わったら、また来いよ」
アカバは無言で頷いた。
目の前にいるクロノがどんな顔をしているのか、怖くて確かめられない。話すなんて何も考えずともできていたはずなのに、今までどうやって話していたのかも思い出せなかった。
- 投稿日:2024年6月23日
- かわいそうなアカバが好きです。この話を大手を振って書くために「方言と方便」を書いたところがあります。アカバが曇っているところは見たいけど、クロノのせいで曇っているところは見たくない。