物は試し
毎回シライが精液を飲もうとするものだから、クロノもシライのものを飲んでみることにしたのだ。そうすればシライは出したものを飲まれるクロノの気持ちが分かるだろうし、もしかしたらクロノの方も、飲みたいシライの気持ちが分かるようになるかもしれない。冷静に考えると馬鹿馬鹿しい挑戦だった。
「うっ……」
「はは、まずいだろ」
思わずうめいたクロノにシライが向けた目は、訓練で叩き伏せられたときに見上げたものと同じだった。余裕と、巻戻士として独り立ちした今だからこそ分かる、愛情らしきもの。仕方のないやつだと年長者ぶった眼差しが、吐精を区切りに鎮まりゆく欲と入れ替わるように滲み出す。
思うところがありすぎて異議を申し立てたいクロノだったが、口の中にはシライの精液が入っている。言葉を発するには飲み込むか吐き出すかのどちらかを選ばなければならない。鼻から息を吸えば青臭さが口いっぱいに広がって、夏場にぬるんだ水を飲むよりも強い不快感があった。
「ほら返せ」
「んんっ」
クロノがティッシュに手を伸ばすより先に、シライの手がクロノの顎を掴んだ。返せという表現のおかしさを指摘しようにも、クロノの口は塞がっている。離してほしいという意図を込めて突き出した手は簡単に絡め取られて、社交ダンスでも始めるように肩より上に引き上げられる。
「だっておれのだろ」
クロノのうめき声の意味を向けられた表情から読み取ったシライは、固く噤まれたクロノの口に唇を寄せ、笑みを含めた声で言った。唇を吐息が撫で、なだめるように柔らかく合わせられる。口の中身と似た温度ながら、こちらの温度は嫌ではない。
「んむぅ……」
クロノが渋々唇を緩めると、シライは犬にでもするようにクロノの顎下を指先でくすぐった。
苦いばかりの精液の味から逃れるため、クロノの舌はすっかり奥に引っ込んでいる。訓練時にはない後ろ向きな行動がシライの庇護欲を誘ったのか、シライはクロノの頭を愛しさを込めて撫でると、浅く差し入れた舌でクロノの唇の内側をなぞった。
クロノの口の中は刺激を緩和するために出続ける唾液でいっぱいになっていて、ちょっと開いただけでこぼれてしまう。シライは自分の精液混じりのクロノの唾液を飲みながら、首を傾けた程度では補えない身長差の解決策として、クロノを抱え上げて膝立ちにさせた。高低差が明確になったおかげで垂れ落ちるよだれを啜り込み、クロノの舌に残る味を拭うように舐め取る。
「ちゅ……んむ……」
「……んっ……はっ……」
息を吸っても吐いても、精液の味はしなくなっている。舌で触れるのは味でもなんでもない、どちらのものかも分からない、生ぬるい唾液と体温だけだ。
「……ん、おいひゃん」
シライが舌を吸いながら性器を握り込んでくるものだから、一度は落ち着いていたクロノの熱は再び上がり始めていた。クロノがシライの手を押さえると、シライはあえて逆らわずに手を止めて、クロノの鼻に鼻先をこすりつけた。
「まだできるだろ、もう一回やろーぜ」
シライは元特級巻戻士で、第一線から退いた今も組織の中で重要な位置を占めている。耳目を集める立場であるために、自分が他者からどう見られるかを分かっている人間だ。当然、上目遣いの効果も分かってやっている。
「おれのせいでクロノに無理させて反省しきりだ。仕切り直させてくれ」
「するのはいいけど、もう精液は飲ませないぞ」
ただしクロノ相手の成功率は非常に悪く、シライは「口直しがしたい」という発言を飲み込んだ。
- 投稿日:2024年7月6日
- 私はそろそろ肉体関係のないクロシラを書いたほうがいい。