学びの成果(没ネタ)

 アナルセックスは後ろから入れる方が楽だと聞いている。誰からかと言うとシライ本人に。クロノとしては、顔が見られるから、前から入れる方が好きだった。
「おじさん」
 クロノは今までのことを思えば静かすぎるほどに静かな、けれども緊張と、それを緩めようという努力が見て取れるシライの背中に呼びかけた。
 ぐっと締まる内側と、聞き間違いかと思うくらいの小さな呻き声が含まれた吐息。自分の方を向いてほしいという気持ちを込めて腰のあたりを撫でてみても、枕にしがみついたシライは体を固くするばかりで振り向いてはくれない。
「おじさん、平気か?」
 薄暗い静かな部屋は、二人分の体熱で少し暑い。照明を暗くしたのはシライで、いつもはクロノが見やすいようにと明るくしていたのに、今日に限って暗くしたのだ。「勉強部屋じゃあるまいし、明るすぎんのもムードがねぇだろ。勉強し足りねぇってんなら構わねぇけどよ」と揶揄うように言われてつい承諾したが、次からは断ろうと思っている。明るい方が絶対にいい。
「向き変えたいから一旦抜くぞ」
「……っ、やめろ」
 久しぶりに会話が成り立った。クロノはホッとして、いつかシライに言われた通り、シライの中が退屈してしまわないように腰を小さく前後させる。押し殺した声が聞こえて、シライがちゃんと気持ちよくなれていることを知る。
「しないでいい? それともされたくないのか?」
 遠慮は必要ない。シライがずっと言ってきたことだ。名残を惜しむように吸い付く中から腰を引いたあと、いなくなったクロノを求めてうねる中に挿し込み直す。その動きを繰り返すだけで、クロノも気持ちいい。シライの顔が見られないことだけが不満だった。
「いっ、から、止まれ……ッ」
 言われた通りにクロノは腰を止めた。シライが息を吐いて、それに合わせて中が震える。止まっているとシライの腸壁がクロノの表面を舐めるように纏わりついてきて、これは抜くときに大変だろうな、とクロノは考える。口淫で射精させようとするシライを制止したとき、シライは「気持ちよすぎて困るこたねぇだろ」と笑っていたが、困るのだ。もう十分と思ってしまうと、シライを満足させられなくなる。
「おじさん、おれ、おじさんの顔が見たい」
 クロノはもう一度自分の希望を伝えた。抜かずに体勢を変えるのは難しそうに思うが、やってやれないことはない。シライの汗みずくになった背中を撫でれば、入り口がぎゅっと食い締めてくる。皮膚の下、みっしりとついた筋肉とその向こうの骨格。おれも頑張らないと、とシライの完成された肉体を見る度に思う。
「……一回抜け」
「わかった」
 肩越しに掛けられる声。見えそうで見えなかったシライの表情。強張った尻を押さえて腰を引いていけば、陰茎にぴたりと吸い付いている粘膜が剥き出しになる。シライが力を緩めているから動きやすくて、それはつまり挿入しやすいということでもあって、ここで押し戻せば一気に奥まで入るだろうな、とクロノは思ったが、抜けと言われたので抜くしかない。それに、クロノとしても体勢は変えたい。
「……っ!」
 充血して膨らんだ亀頭を抜き出す瞬間に、シライが息を詰める。抜けてしまえば一瞬で、クロノがホッとしたのと同じように、シライの背中からも力が抜ける。改めて見るとシーツはぐしゃぐしゃで、クロノが部屋を訪ねた当初の整えられた様は見る影もなかった。
 クロノが手を加える前に、どさりとシライが億劫そうに寝返りを打つ。後ろから見ていた印象に反して、さほど疲れているようには見えない。少し、機嫌は悪そうか。クロノがシライのかすかに寄せられた眉間を見つめていると、気付いたシライが目を上げた。
「どうかしたか?」
「おじさん、つらくないか?」
「なんでだよ。気持ちいいって言ってんだろ」
「言ってないぞ」
「そうか? んじゃ今言うわ、おまえとセックスすんの気持ちいい」
 薄ら笑いを浮かべながら、シライは脇に避けていたクッションを掴んで自分の腰の下に入れ込む。続けていいという意思表示だ。恥ずかしげもなく広げられた足の間にクロノが入るのを待って、シライは「ほら来い」と腕を広げた。
「……抱き合ってするのも好きだけど、このまましたい」
 意外な返事だったのだろう。目を丸くするシライの次の言葉を待たずに、クロノはシライの熟れきった穴に先端を押し付ける。シライの顔と体が緊張するのを感じて、もし嫌なら言うはずだ、と信じて押し込む。反射か、閉じようとするシライの足をクロノは押さえた。閉じられたって入れられるが、今は顔が見たいのだ。
「大丈夫だ、ちゃんと気持ちよくできる」
 合図をもらうまでもなく、シライの気持ちいい場所は覚えている。疑わしそうに見てくるシライに向かってクロノは頷いた。クロノの背中に回すはずだった手のやり場に困ったらしいシライが、さっきまでしがみついていた、今は頭の下にある枕をそろそろと掴む。ジェットコースターの安全バーを握る人みたいだな、とクロノは思った。
「……っ」
 とはいえ、このやり方はクロノにも厳しい。前立腺の位置に留まれるよう意識して抽送すれば、自分の敏感な部分も強い力でしごかれる。先に一度シライに口で抜かれているとはいえ、ここまで高まってしまえば関係ない。クロノは射精感を堪えながら、カリを引っ掛けるイメージでシライの性感を掘り起こしていく。
「クロ、ノっ……それ、キツいだろ……ッ!」
「平気だ!」
「……くそっ……」
 態度が悪い。甘やかしてほしいとは言わないが、始めたばかりの頃みたいにもっとちゃんと見てほしい。不満方々、息抜きのつもりで一度深く入り込めば、奥は感覚が薄いはずなのにシライが仰け反った。
「あっ、はぁっ……っ」
 枕にしがみつくせいか縮まろうとするシライの腿を抱き込むように引き下げて、自分の股間と密着させる。汗でぬめった熱い肌から、痙攣するような震えが伝わってくる。クロノはシライの体を開かせながら、シライが勃起していることに安堵した。
 シライの陰茎をしごきたいが手が足りない。仕方なく、クロノは深いところに入れたまま腰を前後させる。シライの先端を濡らしているのは先走りだろうか。力の入った筋肉が生む起伏を見ながら、温かく包みこんでくる柔らかな肉の壁に擦り付けるのは気持ちがよかった。
「おじさん、自分でちんこしごいてくれ」
「は!?」
「おれ、おじさんにもっと気持ちよくなってほしい」
 クロノはゆっくりと陰茎を抜いていき、浅い位置に切っ先を据える。前立腺の範囲をぴったり一度だけ撫でてやりたいことを示せば、シライはクロノを凝視したまま眉を下げた。
「……そういうの、どこで覚えてくんだよ」
 恨みがましさ半分の声で言ったシライは、のろのろと片手を下げて自分の陰茎を掴む。どちらに対する期待か、クロノを食んでいる穴がきゅっと小さく締め付けてから緩む。深呼吸のために沈んだ胸が膨らんで、シライが目を合わせてくれれば、準備が整ったことになる。
「おじさんから教わった。好きな人が気持ちよくなってるとこ見るのは気持ちいいって」

投稿日:2025年5月11日
もったいない精神で出しました。