ロケットとピーター
「グルートに殺しなんかさせたくないとは言わなかったな」
エゴの星で、とピーターは付け足した。片手でぶら下げるように持っているグラスの中身は減っていない。
悪漢の見本市のようなラヴェジャーズで育ち、当人もアウトローを気取っている割に、ピーターの酒は誰かと話をするための酒だった。軟派な軽口が返ってくるだけだと分かっているから追求しないが、口の仕組みはさておいてもあおるような飲み方しかしないロケットからすれば、ひどく気障ったらしい飲み方だ。
「あの場で俺達が生き残るにはそれしかなかっただろ?」
間違いなく真実である答えを返してから、ロケットは常の通り喉に流し込むようにグラスを空にした。もう永久に叶わないことだが、ピーターに酒の飲み方を教えただろう男と酒を酌み交わしてみたかった。
「言っておくがグルートの殺しはあれが初めてじゃねえぞ」
「え?」
「俺はこの生き方しか知らないからな。この生活で長生きしたけりゃ何をするにも躊躇わないことだ」
飲まないならもらうぞ、とピーターの前にあるボトルに手を伸ばす。残量はちょうど一杯分かと思いきや、グラスに入れ切るには少しばかり多い。ラッパ飲みするかという逡巡を読み取ったように、ピーターにボトルを取り上げられた。ピーターが自分のグラスに継ぎ足し、ちっとも進まないグラスの中身がリセットされる。ピーターはひょいと眉を上げたが、それがどういう意味なのかは分からない。飲み終わったら勘定もろとも置いて行ってやろうとロケットは心に決めた。
「もしグルートを誰かに預けることができれば他の生き方もあったんだろうよ。でも」
「俺はグルートがいてくれて嬉しいよ」
「……そりゃよかったな」
食い気味に言ったピーターの言葉を聞いて、やっぱりロケットは酒をあおった。
- 投稿日:2019年12月15日