クラグリンとピーター
クラグリンにしか相談できない。いつになく深刻な顔をしたピーターに、クラグリンは見張りを交代したら部屋に行くと答えた。船はもちろん自動運転も自動回避も備えていたが、航行中は誰かが操舵室に残らなければらない。航行法にそう定められていたが、書いていなくたってそうしただろう。
初めて聞いたのならまだしも、経験上、そんな顔をしたピーターがくだらない相談しかしないことは分かりきっていた。今度もそうだろうと思いながらクラグリンはピーターの部屋を訪ねた。
「欲求不満で死にそう」
やっぱりな。そう思いながらうなずく。
「あー、今の進路だと近隣の星にはないな。出張所ならあるかもしれないが」
星図を思い浮かべながら答える。
「頑張って耐えろ
肩をぽんと叩いて休息を取るべく部屋を後にしようとする。ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(便宜上であって自称しているわけではない)構成人数の割に船を任せられる者が多い。いいことだ。
「なんで? もう少し心配してくれよ?」
「珍しいことじゃない。お前の場合は」
「クラグリンはならないのか?!」
「俺は別に。むしろなんでそんな切らすとだめなんだ」
「ガモーラが好きになってから一度もしてない」
「一度も? 本当に? お前が?」
問いただしたかったのではなくただの相槌だったがピーターが告解してきそうだったから顔の前に手をやる。
「バレても構わないメンバーは」
「……誰にも」
確かにラヴェジャーズでは不定期に娯楽があったがこの船はそういう意味ではスクールバスのように健全だ
「俺とするか?」
ピーターがクラグリンの顔をじっと見る。できるかどうかではなく、胡乱げな眼差し。
静かに首を振る
「愛がないとだめだ」
クラグリンは心からのため息をついた
最初に連れ出されたのを最初で最後に、ピーターは店の女とは関係を持たなかった。愛し合う二人というのは美しいと思うが、それにしては解釈の抜け道が多すぎやしないか。
もう一度肩を叩く
「がんばれ」
親指を残して拳を握る。何かに成功したときにウインクするピーターを疑問に思って聞いたらそういうジェスチャーなのだと言う。これもまたそういうジェスチャーで、使いどころは間違っていないはずなのに、ピーターは顰め面を崩さなかった。
- 投稿日:2019年10月4日