ガンヴォルト爪発表前に書いたものです。パンテーラが性別不明の成人という扱いです。軽い性描写を含みます。

愛を模した

 自身を包んでいる温かな肉襞が誘い込むように蠢く。女を、ましてや男など抱いたことのないカレラには、それが「どちら」なのかなど分かるはずもなかった。想像していたような甘さはなく、一方的に引きずり出された熱の分だけ、頭の芯に奇妙な寒さが残る。今自分の体の下にいる相手は本当にパンテーラなのか。考えようとする隙間を埋めるように、腰を挟み込んでいた腿に力が籠められ、伸び上がるように押し付けられる。
 一瞬、収縮するように眩む視界。生身の筋力が劣るはずはないのに、まとわりついてくる体温を、振り払うことができない。
 限界だった。
 カレラはパンテーラの腕に抱き込まれるようになりながらも、両腕をベッドにつき、崩れ落ちそうな身体を支える。耳をくすぐる吐息で、パンテーラが笑ったのが分かった。
「君の愛を感じるよ」
 鼓膜を震わせた囁きが、そのまま意識を呑み込もうとする。感情が高ぶりすぎて第七波動を制御できなくなるなど、ありえないはずだった。これは幻惑ではない。カレラは乱れそうになる呼吸を、歯を食いしばって押し留める。湧き起こるのは高揚ではない。己が無力な被食者に成り果てるかもしれないという恐怖だった。

「先に使わせてもらったよ」
 湿り気と熱が肌に触れる。空気に交じるボディーソープの香りは、パンテーラには似合わないと思った。カレラは乱れたベッドに腰掛けたまま、パンテーラに背を向けていた。その姿が映り込んでいる窓は見られそうになかった。
 体が沈む感覚で、反対側にパンテーラが腰を下ろしたことを知る。
「私の胎は子を宿さないから、不安に思うことはない」
「……そういうことではない」
「知っているよ」
 どこか満足気な声でパンテーラが答える。それがカレラには理解できなかった。

投稿日:2014年12月22日