食い違う事後
「もう一度、するの?」
肩を抱き寄せると、一松はそう聞いた。いつもと変わらない眠たげな目は、真実眠たいのかもしれなかった。
「いや」
できるし、したい。でも、疲労の色が濃い一松に無理をさせる気にはなれない。カラ松は引き下がった。広いベッドの中央で肩を寄せあって眠るというのも、ドラマのようで悪くないとも思った。
しかし、腕枕をするつもりで伸ばした手は、ぱしりと叩かれた。
「なら触らないで」
ごろりと背中を向けて寝転がった一松を、カラ松は叩かれた手を宙に浮かべたままで呆然と見つめた。機嫌を損ねるようなことがあっただろうか。心当たりはない。
「一松」
まだ寝てはいないだろう。いくらか緊張が残っている背中に声をかける。
「どうしてだ?」
「……別に、済んだならもういいでしょ」
「そういうわけにはいかないだろう。ピロートークも大切なことだ」
「そういうのが余計だって言ってるんだよ」
今度は確実に機嫌が悪い。カラ松はじとりとした目で見てくる一松の顔を見つめながら、どう出るのが正解なのだろうかと思いを巡らせる。探っても探っても頭の中には手応えひとつなかったが、それでも、一松の関心を取り戻したかった。
「一松!」
自分を奮い立たせるために声を張る。肩を引き、こちらを向かせる。振られそうになった手首を握る。拒絶されたら、という恐怖が頭をもたげる。
「何?」
「オレはお前と、恋人みたいなことがしたい」
「どういうつもり」
強い目で見てくる一松に怖じ気づきそうで、押さえ込んだ手首をぐっと握る。痛くはないだろうか。それでも緩めることができなくて、カラ松はベッドに押し付けた一松を見下ろした。
「はじめてだから、どうしたらいいか分からないんだ。こうするのが幸せなんじゃないのか。オレはお前と、」
「あんたがしたいようにすればいいよ」
ついに怯んだカラ松は、そろりと一松の手首を離す。一松はひとつ大きな溜息をつくと、両腕を気だるそうに伸ばした。「ん」と短く発された声の意味を取りかねて、目を瞬かせながら見つめるカラ松に一松は言った。
「しないの」
「あ、ああ……」
カラ松がおずおずと腕の中に入りながら一松を抱きしめると、背中に一松の腕が回った。何か違う気がすると思いながら、頭を撫でてくる手を受け入れる。猫を撫で慣れているからだろうか。一松の手つきは絶妙な心地よさだった。
「一松、これは……」
「眠いから黙って」
「はい」
ふくらはぎのあたりに絡められた脚は、冬場に暖を取ろうとしてくるものと同じだった。
兄弟の範疇から出るのは容易ではなさそうだ。カラ松はせめてもの抵抗で一松の頭の下に腕を入れると、一松の呼吸と同調して押し寄せてくる眠気に身を委ねた。
- 投稿日:2016年8月15日