盟とデスマスク
「ボ、ボーノ」
「……何だそれ」
人差し指を頬に当てたまま、盟は硬直した。いぶかしげな顔で注視してくるデスマスクに何か言わねばと、ゴクリと唾を飲み込んだ。両の拳を膝の上で握り、うつむきそうになる顔をきっと上げる。
「果物屋の奥さんから習いました。おいしい物を食べたときはこうするのだと」
「いや……そうじゃねぇよ」
それは知ってる、と言って、デスマスクは頭の後ろに手をやった。眉間に皺を寄せた一見不機嫌に見えるこの顔は、何と言ったら良いかを考えている顔だ。最初は気に障ることをしただろうかと不安になったものだが、今は大人しく次の言葉を待てばいいのだと理解している。
デスマスクはそんな盟の顔をちらりと一瞥すると、わざとらしいまでに盛大な溜息をついた。
「ジャポネーゼってのは皆そうなのか? 旨いんなら自信持って言やあいいだろうが」
ホラもう一回、と手を叩かれる。その仕草は訓練の時と全く同じで、盟は思わず背筋を伸ばした。
「はい! ボーノ!」
「……ぶっは!」
デスマスクは吹き出した。ゲラゲラと笑いながら机を叩き、早口のイタリア語で何ごとか喚いている。ひとしきり笑った後で、自分の頬に指を当てた。盟とはまるで違う、流暢なイタリア語で「Buono」と口にする。
「今度はもっと笑顔でな」
- 投稿日:2014年4月14日