piercing honey
「身を守ることに理由が必要だというのなら、私がそれを与えましょう」
猫の喉をくすぐるようにそこを撫でられて、こそばゆさから動かした顎を引き戻される。聖衣に覆われていない顔を見るのは久方ぶりだと思いながら、見上げたシャカの顔は相も変わらず、心の内の全く読めない表情だった。
口唇を数回辿られて、開けさせられた隙間に指をくわえさせられる。行為を想起させるその状態よりも、指に当たる吐息によって自分の呼吸を知られていることが、落ち着かなさの原因だった。逃げるようだと思いながらも目を泳がせたところで、唇の下に右手が添えられる。
何の宣告もなく、研がれた針先が身を穿った。
針が突き進む痛みよりも、熱いような感覚が、唇と、何故か背中に走る。位置を正すためか、それとも別の何かか、ひやりとしたシャカの指が唇の内側を撫でた。
「痛みに耐えかねるようなら言いなさい」
舌に血の味を覚える頃になってようやく、気遣いの言葉が投げかけられる。
自分は見るに堪えないほど情けのない顔をしていたのだろうか。アイオリアは知らず握っていた拳をほどき「馬鹿なことを」と返した。確かに痛みは感じていたが、苦痛と思うには取るに足らないもので、むしろ不要な傷を増やさせるだけのこの行為を、他人に許してしまっている自分に動揺していた。
シャカがわずかに笑んだことで、閉じることも凝視することもできずに彷徨わせていた視線が、その口元に固定される。直後に訪れた小さな衝撃で、針が抜かれたことを知る。残された金属の違和感と、まだ残っている気のするシャカの指の感触。
「終わりましたよ。これで君はもう、その頬に拳を受けることは許されません」
言うが早いか、それらを上書きするようにシャカの舌が傷口を這う。アイオリアはようやく収まり始めていた熱が再び上がるのを感じた。穿たれたばかりの傷口に歯を立て舌で抉られて、疼くような痛みに上げようとした声はシャカの唇によって封じられた。いつになく力強く回された手に、一方的に針を突き通される感覚が蘇る。
「伏せてはなりませんよ。私の獅子」
どうにでもなってしまいたい。
従えられそうになる意識を否定し奮い立たせるように、シャカの声が促した。
- 投稿日:2014年11月30日
- 自分がどういう目で作品を読んでいるかがモロバレになるので恥ずかしさがすごいです。