見たい番組がある

 ミッション開始から数時間。作り上げたばかりの廃墟の中を、いるかいないかも分からない生存者を捜し歩いていたプロメテとパンドラは、割れた窓から漏れ聞こえる音に足を止めた。
 散乱した食器、倒れた椅子。開いたままのレジから金を抜いたのは、店主かそれとも他の誰かか。音の発生源は予想に違わずテレビだった。イレギュラー発生を告げるテロップを流しながらも、この都市の外にも視聴者がいるのだろう番組は放送を続けていた。余程疲れていたのだと思う。たった今自分達で奪ったばかりの「生きたヒト」の姿に懐かしさを感じ、くだらない番組の続きが見たいと思ってしまったのは。

 研究所のテレビは国営放送しか映らない。民間放送への閲覧制限がかかっているのではなく、生きていくために必要な情報は誰もが得られるようにという世界政府の配慮によって国営放送の電波はあまねく届くために、僻地にある研究所でも映るというだけのことだ。もし見たい番組があるのならば受信機を用意すれば見ることはできる。
 今日までそれをしなかった理由は、自由を模索しようという気がなかったことにある。目先の任務が多すぎて、またアルバートに生殺与奪の権利を握られているという大きすぎる不満に気を取られていたために、思いつくことすらなかったのだ。

 受信機だけでなく、中継機の設置まで必要だったのは予定外だった。個人でおいそれと手に入れられるものではなく、設置にも技術が必要だった。正確に電波を中継できる場所の選定もある。下手に顔を売るよりは自分達で作ってしまったほうがいい。そう言ったプロメテに、パンドラは乗った。スクラップ屋を回らなくても新しい材料は手に入るし、ミッションをこなしている限り時間だけはあった。
 そこまでして見たい番組か、ということは最初から問題にしていなかった。二人の怒りの矛先は常にアルバートだ。思いついてしまった今、アルバートに与えられた環境に甘んじることが、どうしても我慢できなかった。

「やっぱりお前らか!」
 転送装置を使って送り込まれたのだろう。怒りに燃え立ったモデルZXの適合者は、背後を逃げていくヒトビトを気にしながらも、バスターの照準を動かさなかった。指示を与えてやらない限り、ヒトを襲うという第一命令以外をイレギュラーは果たさない。判断としては正解だ。
 ミッションで指定されたものは場所ではなく「今日」という日付だった。新年で浮き立つヒトビトを襲うイレギュラーの群れ。耳障りな笑い声が、同じくらい耳障りな悲鳴に変わる。都市の警備隊は何の邪魔にもならない。いつもと同じ風景だった。
「新年早々ご苦労なことだな!」
「本当に……」
 モデルZXのロックマンに宛てたプロメテの発言に、パンドラは同意した。三賢人による新年の挨拶からチャンネルを変えたことが原因だとは思いたくないが、ミッションの発令はあまりにもタイミングがよすぎた。
「撃たれなさい」
 パンドラは舞うように杖を構え、澄んだ冬空にその先端を向けた。

投稿日:2017年1月3日