漫画版
セルパンカンパニーの崩壊後、サンク・ヴィルのエネルギー事情は悪化の一途を辿っている。僻地にある警備用メカニロイド製造工場が稼働しているという噂は、ヒトビトの口に上る憂さ晴らしのタネの一つでしかなかったが、確かにエネルギーの供給がなされているという観測を経て、ヴァンの派遣が決められた。
情報が間違いだったのではないかと思うほど、工場の中は静まり返っている。どの機械も動いていないだけでなく、人っ子一人見当たらない。情報が誤りであるならば、それ以上の朗報はない。ヴァンが気楽に答えられたのも、未完成のメカニロイドの影に驚き、よろめき背後の同種にぶつかったところで、対人用にしては攻撃的すぎる警備システムが作動するまでだった。
「久しぶりだなぁ、小僧」
「お前達!」
制御室のドアを開けた先で待ち受けていた、会いたくもなかった二人組の顔にヴァンは瞠目した。
「くっ! そのヒトを解放しろ!」
正面にいたプロメテにバスターを突きつける。プロメテの隣には、セルパンカンパニーの社章が入った作業着を着た男がいた。首だけで振り返り、武装したヴァンの姿を見て身を竦ませている。恐怖心を抱かせることは重々分かっているが、プロメテとパンドラに相対した状況で変身を解くことはできない。男がたった今まで操作していたらしい制御盤のモニターでは、ヴァンが通ってきた工場の様子が映し出されていた。
「どうする、パンドラ?」
「……移送はあらかた済んでいる。構わないわ」
「だとよ。よかったな」
制御盤に向かって両手を構えたまま、今にも回路に異常をきたして倒れそうな顔でこちらを見続けていた男は、プロメテに小突かれてようやく自分に向けられた指示だと気づいたようだ。弾かれたように制御盤から離れると、足をもつれさせながらヴァンの元に駆けてくる。引きつった声をあげて転んだ男に手を貸してやりたかったが、大鎌を肩に預けて嫌な笑みを浮かべているプロメテも、視界に映るギリギリの位置からこちらを伺うパンドラもいる。ヴァンは威嚇以上の意味を持たないバスターを下ろせないまま、男の到着を待った。
「――いいのか小僧。そいつは作ったものがどう使われるのか知った上で協力していたんだぜ」
じりじりとした時間が過ぎ、やっと辿り着いた男を背後に守ろうとした時、見計らったように投げられたプロメテの言葉に、男は悲鳴とも奇声ともつかぬ声を上げた。恐慌をきたして首を振り、ほとんど意味をなさない否定の言葉を連ねながら縋り付いてくる男をヴァンは支えた。
「それはお前達が脅したからだろう!」
声を張って否定し、落ち着かせるために男の背をさする。
工場内の地理には男の方が明るく、ヴァンが倒さざるを得なかった警備用メカニロイドも従業員である男は攻撃しないはずで、ガーディアンの増援もベースを発っている。プロメテとパンドラの追撃さえ防げれば、救出は成功するはずだった。ミッション内容は工場の調査。確かに製造ラインの稼働はしていたのだろうが、パンドラの発言からすると、間もなくこの工場は放棄される。
ヴァンの励ましにいくらか正気を取り戻した男は、ガクガクと頷きながら制御室の外へ向かった。
シュン、と背後でドアが閉じる。
悲鳴が聞こえたのはその直後だった。
「何だ?!」
ヴァンはドアに駆け寄ったが、さっきまで開いていたはずのドアにはロックが掛かっている。断続的に上がる悲鳴と物音の後に、一際大きな爆発音。静まり返ったドアの向こうに、呼びかけに応える生存者がいないことは明白だった。
ガーディアンベースからイレギュラー発生の連絡は入っていない。一体何が起きたというのか。理解できない苛立ちをこめてドアを叩き、相変わらず動く気配を見せないプロメテを睨むと、プロメテはヴァンの視線を受け流すようにパンドラを見た。
「……命令を遂行したメカニロイドは壊れたわ」
「モデルVなしにしては上出来だ」
先ほどまでは工場内を映していたモニターは今、狂ったようにコードを流していた。壊れたというメカニロイドのものなのか、それとも命令そのものなのか。ヴァンの理解を待たずにブラックアウトしたモニターは、再び工場内部を映した状態で点灯した。分割表示された一箇所で動いたのは、到着したガーディアンの救援部隊だった。
「……パンドラ、お前は先に帰っていろ」
「プロメテはどうするの」
「俺はこの小僧と遊んで行く。このままじゃ収まりがつかないだろうからな」
- 投稿日:2017年7月17日
- 漫画版で自カプは成立するのか試して成立させられなかったもの。漫画版ZXAのことも好きなんですが、ZXの路線のZXAも見てみたかったです。