うな
2025/12/31 17:23
緑茶とカブトガニとうんこが好き。今のハマっているものの話と旅行の話がメインのはず。居酒屋メニューが好きなんだけど、お酒を飲まないから旅先のご飯は定食屋さんになりがち。
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「健気なもんだな」
「あ?」
「ずっとあいつの方見てたじゃねえか」
あいつ、とヒヤマに視線で指された方、クロノのことをシライは見た。
クロノはシライの知っている相手と話している。シライはそことクロノの繋がりを知らなかったが、クロノは2級昇格試験のアカバを皮切りに順調に巻戻士内に人脈を作っているから、シライの知らない人間関係が生まれているのは不思議なことではない。
そう結論付けたシライは、再びヒヤマに目を戻した。
「クロノは人見知りだからな」
当のクロノの行動力のおかげで説得力が失われた発言だったが、シライは気にせず言い切った。それを聞いたヒヤマは発言の矛盾を指摘せず、興味がなさそうな目をホールの中央に向けた。
「からくりに気付いてみれば簡単な話だ。あの弟子なんか目じゃないくらい人と話さなかったあんたが、気味が悪いくらい声を掛けてる。もしかして全員と話すつもりか? 何人いると思ってるんだ」
スタッフがトレイに載せて運んできたグラスを受け取ったヒヤマは、シライの方には一瞥もくれずにグラスを傾ける。
ホテルのホールを借りての慰労会。ゴローに言い含められているために内外合わせた正確な参加人数を把握しているシライだったが、ヒヤマはそういうことを知りたいのではあるまい、と頭に浮かんだ数字を意識の外に流す。
「隊長はそうしてる。知ってんだろ」
「あの特級が見習いとは、ご苦労なことだ」
「なんだよ、今日はやけに絡むじゃねえか。おれを撃ったの気にしてんのか? あれは説明不足だったから無理もねぇよ」
意図を読み取れないまでも、シライもヒヤマに含みがあることは気付く。当てておけばよかった、というヒヤマの小声はカクテルパーティー効果で拾えてしまった。
「ノータイムであの位置に撃てんのは流石ヒヤマ」
「やめろ。おれはあんたのそういうとこが気に食わない」
「そういうところ〝も〟だろ。嫌味のつもりはさらさらねぇからうまいって言って受け取ってくれよ。怠慢と無縁の性格は大枚はたいても手に入らねえ美徳だ」
これがヒヤマでなければ引き下がるべきところだったが、シライは混ぜ返す方を選んだ。
ヒヤマに言われるまでもなく、シライとて自分の行動のらしくなさに疑問を抱いていないわけではない。だが、ゴローの組織の長としての行動だって生まれながら備わっていたものではないのだ。弟子たちの今後を見据えたときに、その師のあるべき姿の候補として挙がる立ち回りを試しているだけだ。
元が付くとはいえ「特級巻戻士」の看板は未だに耳目を集める。特級巻戻士の弟子という謳った覚えのない触れ込みで期待をかけられるのは、当のクロノにとっては迷惑な話だろが、シライの名前を箔として見ている人間は、いずれ知ることになるだろう。クロノ本人の実力は、シライなんか目じゃないと。シライにできるのは、周囲がクロノに対する認識を改めたときに、シライの評判が足枷にならないよう努めることだけだ。
「……ま、お察しの通り慣れないお役目で疲れてるから、ヒヤマが構ってくれんのは助かる」
「ごめんだ」
「そう言うなよ。おれはこのあと出張だから、駅まで見送りに来てくれてもいいんだぜ」
「誰が行くか」
そう言いつつもヒヤマが酒を一気に飲み干さないことを指摘するかどうか。
迷った末に、シライはトレイ片手にホールを歩くスタッフに目配せした。畳む